51.アクエリアの湖へ

 ともかく状況がわからなければどうにもできないのでアクエリアたちの暮らしている湖を見に行くことにしました。


 最初はかなり近場に作っていたはずなんですが、いつの間にかこの湖も距離のある場所になってしまっているんですよね……。


 こんなところでも神樹の里の広がりを実感できます。


『ああ、契約者、守護者。来てくれたのですね』


「ええ、メイヤに頼まれて」


「でも、私たちも水場の環境には疎いよ?」


『それでも構いません。なにか参考になる意見があればと思い……』


「まあ、そういうことでしたら。いろいろお世話にもなっていますし」


「うん。どこまで力になれるかわからないけれど」


『いえ、すぐに解決するだなんて誰も考えておりません。ひとまず私たちの湖へ』


 アクエリアに案内された湖は、なんというか清浄な水がたまっている湖でした。


 それこそ、汚れひとつ浮いていないほどの。


「アクエリア、あなた方が暮らしていた湖ってこんなに綺麗だったのですか?」


『はい。昔住んでいた湖も同じくらい綺麗でしたよ?』


「それでもお魚とかは住んでいたの?」


『ええ、普通に暮らしていました』


 つまり、綺麗すぎて住みつけないのではないのですね。


 弱りました、本当にお手上げです。


『なにかいい手は浮かびませんか?』


「期待されているのはわかるのですが、僕は田舎の村暮らし。湖どころか池にすら行った試しがありません」


「私も逃亡者のエルフだったから泉で身を清める程度にしか使ってなかったしなぁ……」


『そうですよね。普通のヒト族ではそれが普通でしょう。ですが、私たちは豊かな水場の生態系というものも作りあげたいのです』


「うーん、どうする、シント?」


「困りましたね。水に詳しいことで一番詳しいはずのアクエリアから相談を受けている。それだけでもかなりの非常事態なのですが……」


『どうにかなりませんか?』


「うーん……」


 なにがいけないんでしょう?


 海にはあんなにたくさんの生き物が住み着いているのに。


 こうなったらマーメイドさんたちにでも聞いてみますか。


「マーメイドさんたちのところに行ってみましょう。彼女たちならなにか詳しい話を聞けるかもしれません」


『水の五大精霊として水の精霊に頼るなど……しかし、そうも言っていられないのが現状ですね。わかりました。海エリアに行きましょう』


「つまらないプライドなど捨てましょう。本当に困っているのなら」


「そうですよ、アクエリア様。私なんて、森にいる間も追放されてからも食いつなぐのがやっとでしたのに」


『……申し訳ありません。五大精霊だからと傲慢になっておりました。ともかく、マーメイドやマーマンたちに話を伺いへと行きましょう』


「それがいい。行きましょうか」


「うん。行こう」


 そういうわけでして、僕たちは湖エリアから海エリアに移動。


 そこでは……あれ?


 海族館には既に誰もいませんね?


 案内役のマーメイドさんたちものんびりしていますし。


「マーメイドさんたち、海族館を訪れる幻獣などはもういないんですか?」


『あ、契約者様と守護者様。そんなことはないですよ? 私たちの海族館では人数を区切り案内役をつけての行動になります。どうしても人数制限が厳しいんですよ。それに日が傾き始めると魚たちの行動も変化してきますし』


「なるほど。それで、もう誰もいなかったんですね」


『そうなります。申し訳ありませんが、事情を説明してお帰り頂きました。代わりに日時指定の案内予約を取り付けておりますので、その時間帯に来て頂ければ確実に案内させて頂くとも伝えてあります』


 マーメイドさんたちは本当に考えて行動しています。


 ……こう言っては悪いですがアクエリアとは大違いですね。


『それで、契約者様と守護者様はどういったご用件でしょう? また海の中が見たくなりましたでしょうか? 魚たちの行動パターンが変化しているので、どの程度会えるかはわかりませんがそれでもよければご案内いたします』


「いえ、本題はアクエリアからの依頼です。湖にも魚たちを住まわせたいそうなのですが、なかなかうまくいかず困っているとかで」


『ウンディーネ様が。水の最高位精霊様でも苦労なさるのですね』


『……はい、まことに無様なのですが神樹の里が平和になったあと、汚染されていない湖と空間をつなげて何度も魚を呼び寄せてはいるのです。ですが、すぐに逃げ帰ってしまい……』


『……想像以上の難事では?』


「はい。僕たちでは解決できそうもないためマーメイドさんたちの知恵を借りられればと」


『うーん、そう言われましても……私たちも同じような方法でいろいろな場所に転移用の穴を開けて魚を呼び寄せているんです。貝などは私たちが拾ってきて定住させてものもありますが、魚のような生物は自分たちからこの海を選んで定住してくれています』


『……話を聞くだけでうらやましい限りです』


『ウンディーネ様からうらやましがられても……あと、この海って冷たい海域も暖かい海域もいろいろあるじゃないですか。だからそれぞれの海域にしか生息しない生物たちも進んでやってくるんですよ。大半はこの海の豊富な資源を気に入って帰ろうとしませんけど……』


『まったくもってうらやましい限りです』


『ええと……ウンディーネ様も海中散歩に行かれますか?』


『是非に。どれほどの生物たちが生息しているのか見てみたいですし、なにかヒントがつかめるかもしれません』


『ではどうぞ。……あの、契約者様と守護者様も一緒に来てください。ウンディーネ様だけではプレッシャーが』


「ついていきますよ」


「私たちもこの時間の海って気になるものね」


 こうしてアクエリアも伴って行われた海族館での散歩。


 この時間でも様々な生き物が確認することができ、なにかあるごとにアクエリアは「うらやましい」とつぶやいていました。


 アクエリア、案内役のマーメイドさんが怯えているから止めなさい。

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