47.水の生き物を知ってほしい

 予想外だった美術館の騒ぎも…まあ、みんなの協力で収まりつつあります。


 ただ、どの幻獣や精霊、妖精たちも3階の眺めは見てみたいらしく、一度は行ってみたいと朝早くから順番待ちをしている者もいるそうですね。


 あと、3階だけではなく1階と2階も好評で、同じ里で暮らす仲間たちがどんな姿をしているかを知るいい機会だそうです。


 草原の者たちが岩山などに行く機会なんて滅多にありませんからね。


 これを機にほかの場所に遊びに行く者も現れるようになったとか。


 いい変化が訪れてくれたようで嬉しいです。


 それから、僕たちが買ってきた各種苗木や果物の苗に種はやはりメイヤの目からすればもっともっと品種改良できるものだったらしく、そちらをしてからブドウ園と一緒に植え込みたいと言うことで一週間ほど待ち状態になりました。


 あと、小麦も品種改良を施すつもりらしく、それを知ったシルキーたちは早速ドワーフたちのところへ稲刈り用の鎌と粉挽き用の石臼、それからパンを焼くための窯を発注しに行ったそうです。


 あちらはあちらで気が早い。


 そして、2日ほどは平和な日が続いていたのですが、3日目にはまた新しい建物の建築依頼が。


「水の生き物を展示する建物?」


『ええ、そう。美術館が大賑わいになったのだから海の生き物がどんな風に生きているのかを知ってほしいってマーメイドやマーマン、ニクスたちが言い出したのよ』


「あの、メイヤ様。彼らは美術館に行けないからでは?」


『地上で活動できるように足を魚のものから人間の足にする魔法を覚えていたらしいのよ。マーマンもマーメイドも。すると、美術館の内容をいたく気に入っちゃってね……』


「今度は海の生き物を展示ですか?」


『できれば川や湖の生き物も展示したいそうなのだけれど……』


「なにか問題があるのでしょうか?」


『……アクエリアの湖でさえ湖の生き物が住み着いていないの。魔法で汚染していないほかの湖とつなげているらしいのだけれど、ときどき様子を見にやってきてはすぐに帰ってしまうみたいで嘆いていたわ』


「そちらはそちらでいつか解決方法を模索してほしいとお願いされそうです」


『……もう来ているのだけど、さすがに無理と言って突っ返しているわよ?』


「メイヤ様、感謝いたします」


『いえ、とりあえずは水の生き物を展示する場所ね。発起人のマーメイドたちのところで詳しい話を聞いてきて』


「わかりました。……でも、どうするつもりなんでしょうね?」


『考えはあるそうよ。シントがやたら頑丈で透明なクリスタルを作れることを知ったから』


 僕も海に行ったことはマーメイドなどを助けに行ったときのみですし、なぜ海の生物たちが神樹の里にいるのかも知りません。


 そこも含めてマーメイドたちに聞いてきますか。


 そう考えて海エリアに来たのですが……アクエリアもいました。


 今回も大きな騒ぎになっているような……。


『お待ちしておりました。契約者、守護者』


「アクエリア、あなたがいる時点であまりいい話のような気がしません」


『そうおっしゃらずに、話だけでも……』


「話は伺いますが……僕も海や湖、川なんて疎いですよ? 水辺とは縁遠い生活でしたので」


『そこ大丈夫ですわ。契約者様』


「あなたが今回の代表のマーメイドですか?」


『はい。我々3人が設計のお手伝い……と言いますか依頼をさせていただきます』


「どうぞよろしく。それで、今回はどのような建物を作ればいいのでしょう?」


『建物の広さはいままで通りで構わないのですが、入口から水中方向に地下へと進んでいくイメージで作れますでしょうか?』


「水中方向ですか? ……ちょっとイメージがわきません」


『では、私が考えたイメージを送らせていただきます』


 マーメイドから送られてきたイメージは、入口以外ほぼすべての部分が水中に隠れてしまっているような建物です。


 創造魔法でもなければこんな建物作れませんね。


「ん。イメージはもらいましたし試してみましょう。場所はどの辺りがいいですか? イメージだと水中に入ってもしばらくはまっすぐ進んで陸とは接触しないようになっていますが」


『それも含めて水中の醍醐味です。入口は……こちらに』


 マーメイドに指示された場所へと入口を作り、そこから水を押し出しながらの建物作りです。


 陸の建物より魔力をより使っていますが、許容範囲ですね。


 僕の魔力量も更に上がってきました。


「お望み通り透明なクリスタルで作りました。万が一でも割れないようにかなり厚めにしてあります。強化と透明化の魔法を更に施してあるので割れることはないはずですが」


『ありがとうございます。それでは海の中をご案内いたしましょう』


 僕たちは入口から内部へと入っていき水中へとたどり着きました。


 やっぱり海面が上にあると光の当たり方が神秘的になりますね。


 外で出迎えてくれているのはほかのマーメイドやマーマンたちですか。


『皆様、足元をご覧ください』


「足元? あれは貝殻? でも閉じている? あと岩からせり出している赤やピンクのあれは?」


『あれは貝殻ではなく〝貝〟です。海に打ち上げられたものは死んだ貝の抜け殻になります。あれらはまだ生きていますよ。少しかわいそうですが見ていてくださいね?』


 マーマンが貝に近寄っていきそれをツンツンつつくと、貝が開いたり閉じたりして移動していきました。


 本当に生きているんですね。


『とまあ、あれらは普段はじっとしておりますが生き物です。あと、地面から伸びている赤やピンクの枝のようなものは〝珊瑚〟といいます。あれも生きた……難しい話は抜きにしましょう。ともかく生物です。長年かける必要はありますが、ゆっくりゆっくりと伸びていきます』


「そう言えば昔、宝石の原石になると言っていたのも……」


『あの珊瑚です。形を整えよく削って磨き上げれば美しい石になります。軟らかく水に濡れるといけなかったり、汗が付いてもだめだったり、定期的に専門の磨き職人が表面を綺麗に磨いてあげないとくすんでしまったりと扱いの難しい品物ですが……』


「なるほど。ドワーフの皆さんなら扱い方を覚えるのも早いでしょうが、手入れの方法まで完璧に誰かに伝えようとすると難しいでしょうね」


『そうなります。さて、ここはまだまだ入口。お楽しみはここから先になりますよ』


 そう言えばここはまだ入口でした。


 見たことがないものばかりだったので気をとられすぎていましたね。


 それでは奥も見せていただきましょう。

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