第4話 因果応報
「神様、僕昨日きのこ食べてから変なんです」
【ほう、どんな風に変なんじゃ?】
「なんて言うか、手のひらからモワッと何か湧き上がる感じです。なんでしょう、これ?」
【ようやく我が眷属として新しい権能が芽生えたかの】
「権能ですか?」
【そうじゃ、今までは我に言われるがまま菌を集めてきてたじゃろ? 保菌能力こそ我の与えた第一の権能じゃ。普通はその身に菌を多く集めるのは大変危険な行為なんじゃが、お主は平気だったじゃろ?】
「はい、特に体に異常は見られませんね」
【そしてここからが本題じゃが、細菌街に保菌者が少なくなってきたと感じてきたことはないか?】
確かにそうだ。
最初に比べて日毎要求する菌の桁も増えてくる。
けれどそれは同じ場所で過ごしてる限り仕方のない事なのでは?
【じゃからまず最初にお主には菌を活性化させる力を与えた。名付けて細菌活性じゃ】
「そのままですね」
【いやいや、名前はあれじゃが強い能力なんじゃぞ? これさえ有れば我がいなくても浅漬けが作れるんじゃ。どうじゃ、凄いじゃろ?】
ふふんと胸を張る神様。
けど僕はこんな力なくたって困らない。
なんなら話し相手の神様がいなくなる方が嫌だ。
【その顔はまだ納得いってないって顔じゃの】
「はい」
【よし分かった。なら我が直々にお手本を見せてやろう。よーく見ておくのじゃぞ?】
お手本という名の行動を心に刻み、僕はどうにかして神様の興味を引く。
確かにこの力は僕の身に余る能力だ。
けど、こんな力が手に入ったところで環境が良くなるわけではないと頭のどこかで思っていた。
【くぅ、まだ納得できんか。ならば違う方法を教えてやろう。これは禁じ手なのじゃがな? あくまでも逃げるための手段として使うと良い。良いな?】
その手段は僕が考えてるものの斜め上にぶっ飛んだ内容だった。
冒険者なら通って当たり前の道。
そこに眠っている菌を活性化させる事で今まで以上の暴力を振るわれないようになる。そんな手段だった。
◇
翌日。力を使いすぎたとかで神様は僕の寝床で微睡んでいる。
新しい力を得たとしても僕の生活が変わるわけもなく、いつものごとくポーターをして日銭稼ぎだ。
ただいつもと違うのは、重いものを持っても全然疲れない事だった。そして。
「おいクソガキ、お前一人だけ余裕そうだな?」
「そんな事ないですよ、歩き通しでクタクタです」
「生意気な奴め!」
いつものごとく理不尽な暴力が僕を襲う。
一発、二発。
モンスターに向けられるべき力が弱者の僕に振るわれるのだけど……
「なんだこいつ! 異様に硬いぞ。殴った手が痺れていけねぇや」
「何やってんだよリーダー。弛んでるんじゃねぇか?」
冒険者にとってポーターは遊び道具だ。
リーダーがバテたらその仲間が暴力を振るいにくる。
泣き顔を見せなければエンドレスで殴り続けられる。
その上で仕事をしろとうるさく、金払いも悪いのが冒険者だった。だと言うのに、今日の僕はまるで痛みを感じない。
「みなさんお疲れのようですね。休憩にしますか?」
「くそ、なんでこいつ一人だけピンピンしてんだ?」
「ブルーベアーも昏倒する猛毒を喰らっても平然としてやがる。ヤクでもやってるんじゃねぇか?」
「ちょっとリーダー、しっかりしてよね? 幻滅なんだけど」
「うるせぇ! まだ俺は疲れてねぇ! ポーターごときが冒険者様に指図するんじゃねぇや!」
僕を殴って疲れた冒険者達はいつもなら休憩に入る時間でも僕に負けたと言う事実を受け入れられずに探索を続行し、そしていつも以上に体力を消耗して早い時間に探索を終えた。
行きから帰りまで一切の休息なく、僕は元気だった。
けれど案の定資金払いは良くなかった。
殴る蹴るされても痛くないので、どうやって諦めさせようかと思案してると、神様から授かった権能の使い道を思い出す。
「ぎゃぁああああ、痒い痒い痒い!」
「うぇえええ、腹がくるしぃいい」
「いやぁああああ! 私の美貌に翳りが!!」
リーダーが耐えきれずに服の上から股間を掻きむしり、強面で筋骨隆々の戦士が顔を真っ青にしながらその場でうずくまる。
紅一点の魔法使いに至っては顔中に吹き上がったニキビにこの世の終わりのような声を出していた。
結局お金はもらえなかったけど、ほんの少しスッキリした心地だ。そして同時にこの力は恐ろしい能力を秘めていると知った。
神様が禁じ手と言ったのもわかる気がした。
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