第3話 痛い設定と噛み合わない俺たち
シータは、まるで目障りな埃でも払うかのように、パンパンと軽快な音を立てて殴った後の小さな手を叩いた。
そして、何事もなかったかのようにすまし顔で姿勢を正すと、どこか事務的な口調で説明を始める。
「今回、おぬしに申告してもらった内容じゃが、すぐにシステムを
要は、バグを抱えたままスタートしろってことか。
「そして現状、おぬしがチュートリアルができてないから、わらわが同行し、チュートリアルの代わりを務めることになったので、よろしく頼むのじゃ。あと、そうじゃ。おぬしの初期設定は、人族が闇落ちしてモンスターに生まれ変わる、だったかの? そのままの生まれの背景設定だとエラーを起こすから、こちらで『モンスターに憧れて闇落ちした人族』に変更しておいたのじゃ。そこは安心していいぞ」
のじゃロリが同行するのか……。
さっきあんなに揉めていた相手だ。
本当に大丈夫なのか……? ん? 待てよ……? 今、何て言った?
「モンスターに憧れて闇落ちした人族」だと? それってただの痛い奴じゃないかぁぁぁーーー!
思わず叫びそうになった。
「おい。ちょっと待て、のじゃロリ」
くるりと背を向け、扉に向かって歩き出した彼女の肩を掴む。
彼女の小さな肩が、僅かにピクリと跳ねた。
「ん? どうしたのじゃ? ……って、いま、の、の、のじゃロリと言わなかったか!? もしかして、わらわのことか!?」
シータの顔からみるみるうちに血の気が引き、次の瞬間には真っ赤に染まっていく。
「お前以外に誰がいるんだ! それでだ、さっき『モンスターに憧れて闇落ちした人族』に変更したから安心しろって言った件だが、一体どこに安心できる要素があるんだ!?」
怒りに任せて詰め寄る俺に、シータは顎に手を当てて「うーむ」と唸るような仕草をした後、妙に納得したような顔で言った。
「ふむ、勝手に設定を変えたから怒っているんじゃな? それはもちろん、エラーを起こさず安心してプレイできることじゃな!」
親指を立てながら、シータはドヤ顔で返してきた。
俺の血管がブチ切れる音がした気がする。
「俺が言いたいのはそこじゃねぇぇよ! 生まれの背景設定の内容だよ!」
「内容じゃと? 『モンスターに憧れて闇落ちした人族』が何か問題かの? 言葉としての響きがなんか良かったから、これじゃ! っと思って決めたのじゃが?」
シータは首を傾げながら、心底不思議そうに問いかけてくる。
「問題大ありだよ!!」
響きで決めたってどうゆうこと!? 俺は頭を抱えたくなった。
俺のチュートリアル失敗のせいで『のじゃロリ』になってしまったシータが、俺への報復として厄介な設定を返してきた──そう思った。
だが、その内容は俺の予想をはるかに超え、思わず額に手を当て、深く、深いため息をついた。
こいつ、何が問題か全く理解してないぞ……!
「よし、わかった。俺が分かりやすく説明してやろう。まず、『モンスターに憧れた人族』の真似をしてみろ」
次の瞬間、シータが火が付いたようにまくし立て始めた。
「えっ!? 嫌なのじゃ! なぜそのようなことをせねばならんのじゃ! 大体、わらわがおぬしのために考えてやったというのに、「問題大ありだよ!!」と言われねばならんのじゃ!? むしろ感謝される側のはずじゃ! それをまるでわらわの責任であるかのように言うとは……。そもそもおぬしが、チュートリアル時に電気工事を把握していなかったのが悪いのじゃろうが! 把握していれば予備電源など準備できたはずじゃ! ってか、なぜわらわがチュートリアル担当にならねばならんのだ? 他にも担当者がいるじゃろうが? それに――」
なるほど。
先ほどまでモニターの向こうにいた人物の気持ちが、痛いほどよくわかった。
こいつ、面倒くせぇぇぇぇ。
だが、このままでは俺が「痛いキャラ」の烙印を押されたままになってしまう。
冷静に、論理的に説明し、設定を改善させなければ。
「――ってかなんで『もう一度いいですか?』って名前にしてるのじゃ!?一般的な考えだったらそんな名前にしないのじゃ。そもそもとして――」
冷静になれ、ステイ・クールだ。
「わ、分かりやすく説明してあげるので、やっていただけませんか?」
「――よくよく考えたら『もう一度いいですか?』なんて名前をつけるなんて、ただのバカなのじゃ! チョーうけるんですけど、爆笑! もう草ッ! 草生える! なんだったら(笑)! もう笑止千万! ぷーくすくす、みたいな――」
ダメだ、このイライラを抑えろ。
「――ってか、『もう一度いいですか?』の夜の営みが終わった後、相手が名前を呼んだら『もう一度いいですか?』って言っちゃうわけでしょ?ってことは、永遠にリピート、エンドレスなのじゃ! とんでもない激ヤバなのじゃ! チョーうけるんですけど、爆笑! もう草ッ! 草生える! なんだったら(笑)! もう笑止千万! ぷーくすくすなのじゃ!」
俺は、もう我慢の限界だった。
「やれえぇぇぇぇーーーーー!!」
「わ、わかったのじゃ。そこまで怒らんでも……」
シータは複雑な数式を解くかのように眉間に皺を寄せ、うんうん唸りながら様々なポーズを取り始めた。
やがて考えがまとまったのか、頬を赤らめて恥ずかしそうに俺に向かってポーズを決める。
「ガ、ガオー!」
ぎこちない動きで披露されたのは、まるで子供が着ぐるみでも着たような、見るからに可愛らしいクマさんのポーズだった。
まぁ、可愛い! って違うわ。そうじゃない。
「まぁ、そうなるよな。じゃあ次に、闇落ちした人の真似をしてみろ!」
俺の言葉に、シータは再び深々と考え込む。
腕を組み、視線を天井に向けたり、床に落としたり、色々なポーズを試しては、すぐに動きを止める。
数秒の沈黙の後、困惑したような声が響いた。
「闇落ちしたっていうのは、難しくないかの? ヒントみたいなものをくれんかの?」
「ヒントか……。味方が敵や悪役になる、とか、悪事を働く精神状態になる、ってのはどうだ?」
俺の言葉に、シータの瞳に微かな光が灯る。
「なるほど、味方が敵になるじゃな……あ!」
閃いたとばかりにパンと手を叩き、任せておけとばかりに親指を立てる。
その顔には、今度こそ完璧だとでも言いたげな自信が満ちていた。
「あのシステムマスターめ、許さないのじゃ! なぜ、わらわが『のじゃロリ』の姿になって、こやつの世話なんかしないといけないのじゃ! 絶対に仕返しをしてやるのじゃ。そのためには、まずはこやつを懐柔し、あやつが困る問題を次々と起こさせてやるのじゃ! そして眠れない日々を過ごさせてやるわい! はー、はっはっは」
シータは高らかに、そしてどこか得意げに声を上げる。
その声は古城の広い空間に響き渡り、やけに生々しく俺の耳に届いた。
たぶん、システムマスターとは、先ほどのモニター側にいた人のことだろう……。
「では、それと、先ほどの『モンスターに憧れた人族』と合わせてみろ!」
「あのシステムマスターめ、許さないガオーじゃ! なぜ、わらわが『のじゃロリ』の姿になって、こやつの世話なんかしないといけないガオーじゃ! 絶対に仕返しをしてやるガオーじゃ。そのためには、まずはこやつを懐柔し、あやつが困る問題を次々と起こさせてやるガオーじゃ! そして眠れない日々を過ごさせてやるガオーわい!ガオ、ガオ、ガオ!」
なんかキャラクターが渋滞して大変なことになってるな……。
だが、これで分かってくれただろう。
「俺が言いたいことは分かったか?」
不安と期待がないまぜになった声で尋ねる。
シータは大きく頷いた。
「分かったのじゃ。気づいてやれなくてすまんかったのじゃ」
よかった。分かってくれたようだ。これで俺の痛いキャラクター設定を直してくれるだろう。
「先に言ってくれればよいものを……、そこまでわらわの決めた生まれ背景設定を気に入っておったのか」
ん?
「そして、わらわにモンスターの真似をさせてまで、わらわに憧れているってことを言いたかったのであろう? わかるのじゃ。私の姿や言葉に憧れるのも無理はないのじゃ。やはり出てるオーラが違うからの」
ん? 俺がシータに憧れている? いや、そんなことは一言も……。
「さらに、その生まれ背景設定をわらわに真似させ、わらわの口からおぬしの気持ちを伝えさせようとは健気なことじゃ」
ん? どういうこと? 俺の気持ち?
「遠まわしに、一緒にシステムマスターにやり返しを行ってくれるということを言いたかったのじゃな」
「ちげえぇぇぇーーーーーよ!!」
俺の声は、古城の石壁に反響し、どこまでも虚しく響き渡った。
どうやら、
――――――――――――
分かりにくい方に詳細の説明をしますと
シータが考えた『もう一度いいですか?』のキャラクター設定を『もう一度いいですか?』は気にいっている。
つまり『モンスターに憧れた人族』=『もう一度いいですか?』ということになる。
そして、次にシータにモンスターの真似をさせることで、モンスターがシータに書き換わる。
『モンスターに憧れた人族』→『シータに憧れた人族』=『もう一度いいですか?』
つまり『シータに憧れた人族』はもう一度いいですか?』と言うことになる。
そして、シータが言った言葉も、どうような方程式に当てはめると
シータが真似した言葉も『モンスターに憧れた人族』=『もう一度いいですか?』の言った言葉にとらえられる
つまり、シータが口にした言葉は、「モンスターに憧れた人族」である『もう一度いいですか?』の言葉として受け取れる。
それは、つまり『もう一度いいですか?』が「システムマスターを許さない」と宣言しているのと同じ意味になる。
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