VRMMOでモンスターが村人の場合、ダンジョン運営はできません。
コトナリ
第1章 チュートリアルできませんでした
第1話 チュートリアルに間に合いませんでした
「失礼しまーす」
俺はゆっくりと、音を立てないよう重厚な扉をそっと押し開けた。
その扉は、まるでゲームの最終局面で現れる、ラスボスの居城の入り口そのものだった。
長年の風雨に晒され黒ずんだ外壁と、苔むした石畳が、この場所の尋常ならざる歴史を物語っているようだ。
門番のように静かに佇む甲冑は、今にも動き出しそうな威圧感を放ち、見る者を圧倒する。
そんな荘厳な扉の隙間から、予想だにしなかった熱気が肌を刺すように飛び込んできた。
――ウォォォォーーーーッ!!
地鳴りのような大歓声が、古城の広間を震わせる。耳をつんざくほどの興奮が広間を満たしていた。
「これから、貴殿たちには大いに期待をしている!!」
玉座に座る威厳ある声が響き渡ると、嵐のような歓声はぴたりと止み、興奮冷めやらぬ参加者たちは、思い思いの言葉を交わしながら散会していく。
「いやー、すごいチュートリアルだったな! これは確かに時間を指定するのも納得だわ!」
「ほんと、それな!」
屈強なオークの戦士、巨大な棍棒を携えたゴブリン、一つ目の巨人サイクロプスなど、多種多様なモンスターたちが、興奮冷めやらぬ様子で俺の横を通り過ぎていく。
彼ら全員が通りすぎると、先ほどまでの熱狂が嘘のように、広間はシンと静まり返っていた。
「……え!? もしかして終わったの!?」
俺はたった一人、ポツンと取り残されていた。
そこに不気味なほど静かな空間に、カツ、カツと、リズミカルなヒールの音が響く。
いかにも秘書といった雰囲気の眼鏡の女性が、まっすぐ俺に向かって近づいてきた。
「ねえ、そこのあなた。もうチュートリアルは終わったんだから、早くダンジョンに向かった方が良い……?」
その言葉は、まるでどこか遠くから響くように聞こえた。
目の前に来た彼女が俺の姿を認めた途端、その瞳が大きく見開かれる。
信じられないものを見たかのような表情で、有無を言わさず俺の両肩を掴み、問答無用で激しく揺さぶり始めた。
「えっ!? なぜ、あなたは人族のままなの!? このチュートリアルに参加していれば、モンスター種族になるはずですが……ま、まさか!? チュートリアルに参加してなかったとか言わないわよね!?」
あまりの剣幕に、俺は揺さぶられるまま必死に言葉を絞り出す。
「い、家の近所の電気工事の影響で、どうもローディングに時間がかかったようで、チュートリアルに遅れてしまって……、なので、参加できませんでした!」
「うっ!噓でしょ!! なんでチュートリアルに参加してないのおおおお!!」
彼女はそう叫ぶと、今にも爆発しそうな勢いで頭を抱え始めた。
□
期待の新星、『トライブ・ザ・レース・オンライン』がついに発売された。
人族、エルフ族、獣族、ドワーフ族、魔族、モンスター族――多種多様な種族が織りなす、戦いと競争の物語。
このゲームは、VRMMO界を牽引してきた名だたる企業が、技術と情熱を結集して創り上げた、まさに夢の結晶だ。
各社の技術を融合し、拡張性と自由度を極限まで高めたそのゲーム性は、事前情報が公開されるや否や、瞬く間に世界中のゲーマーたちの間で話題沸騰となった。
そして今日、ついにそのベールが剥がれる。
盛大なオープニングチュートリアルが開催されるとあって、プレイヤーたちは皆、指定されたログイン時間を今か今かと待ち侘びていた。
ログイン指定時刻まで、あと一時間。
俺は逸る気持ちを抑えながら、丁寧にヘッドデバイスを装着し、電源を入れた。
「『トライブ・ザ・レース・オンライン』の世界へようこそ!」
透き通るような美しい音声と共に、手のひらにすっぽりと収まるほどの小さな妖精が目の前に現れた。
「オープニングチュートリアルまでまだ時間がありますが、今のうちにキャラクターメイクを開始しますか? それとも、チュートリアル開始までお待ちになりますか? お待ちになる場合、種族はランダムで選択されます」
ログイン指定時間前であっても、キャラクターメイクだけは事前に行える。
むしろ、時間をかけて理想のキャラクターを作り込むことが推奨されていた。
「キャラクターメイクをお願いします」
「承知いたしました」
事前に練り込んでおいたキャラクター設定を、妖精の案内に従って入力していく。
「名前は『もう一度いいですか?』で、種族は『モンスター族』っと」
このゲームは種族毎で、プレイできる内容が異なる。
人族であれば、広大なフィールドを駆け巡りモンスターを討伐したり、深淵に眠るダンジョンを攻略したりできる。
ドワーフであれば、鍛冶場で鎚を打ち鳴らし、唯一無二の武器や防具を生産することができたりする。
そして、俺が選んだモンスター族は、己の配下としてモンスターを召喚し、ダンジョンを運営することができるのだ。
そう、俺はそのダンジョン運営を心ゆくまで楽しみたいがために、モンスター族を選んだのだ。
「で、生まれ背景は『闇落ちした元人族』だな」
そして、このゲームの最大の特徴の一つが、この「生まれ」という概念だ。
プレイヤーは、単に種族を選ぶだけでなく、そのキャラクターがどのような過去を背負い、どのような物語を歩んできたのかを、様々な選択肢の中から選ぶことができる。
貴族の隠し子、奴隷から自由を勝ち取ったエルフ、滅亡した国家の生き残りなど、それぞれの「生まれ」は、単なる設定以上の意味を持ち、ゲームプレイに様々な影響を与えるという。
「――キャラクターメイクが完了しました。オープニングチュートリアル開始まで、今しばらくお待ちください」
あまりにもスムーズにキャラクターメイクが完了してしまったため、チュートリアル開始までの時間が、まるで永遠のように感じられた。
焦れるような時間が過ぎた頃、再びその声が響く。
「オープニングチュートリアル開始まで、あと一分です!」
ついに、待ちに待った瞬間が目前に迫っていた。逸る気持ちを抑えきれず、ヘッドデバイス内のモニターに食い入るように見つめる。
――バン!!!
突然の爆音に、視界が真っ暗になった。
何が起こったのか理解できないまま、俺の意識を現実に引き戻す。
そして、無機質な電子音声が冷たく告げた。
「接続が切れました。エラーが発生しました。再ローディングを行いますので、しばらくお待ちください」
無機質な電子音声が、冷たく告げる。
「え!? エラー!? 嘘でしょ!?チュートリアルはどうなるのおぉぉぉぉぉ!!」
俺は頭を抱え、天を仰いだ。
目の前で、最高の体験が泡と消えていく。こんな理不尽なことがあってたまるか!
――――――――――――
読んで頂きありがとうございます。楽しんでいただけましたら、応援やフォローそして星をいただけると幸いです!
これからも頑張って続けて書ければと思っておりますので応援よろしくお願いいたします。
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