第25話 勇者達の結束
内藤さんたちが訪れてしばらく。既に宴もたけなわ。
魔人の放った混乱魔法は、なんともカオスな光景を生み出している。
「さささ!」
「内藤さん! どぞどぞ!!」
「おお、ありがとう! 君たちもほら!」
魔人内藤が上司と分かり、イケメン剣士裕也と、器用な盗賊大智が、媚を売っている。部屋の隅では、カメラマン山口と、アシスタント森川が、楽し気に会話し、そこに時々彼女の理香子が混じり、黒魔女彩は、謎の神代に酔心しべったりだが、その神代は怖がっているように見える。
「神代様……♥」
「え、ちょっとこっち来ないで……た、たすけ」
超絶美形なイケメン神代がたじろいでいるのは面白いので放っておこう。
そして俺は、戦士忠司からの質問攻めにあっていた。
「弘樹……お前」
「すまん、なかなか言い出せなくて」
「それはいいが、いつから? お前って何物? 芸能人って? 作業場の仕事は?」
いや、忠司一度に色々聞きすぎだ。
「仕事は変わらないと思うけど、内藤さん次第かな。こないだ写真撮られたよ」
まぁ、突然俺がタレントになるとか聞いたら興味津々だよな。
「とりあえず、池袋のサンライトビルに吊るされる巨大広告は見せてもらった」
「スゲーな。お前ビル広告になんのかよ……」
「うん、たぶん電車の中刷りとか、雑誌にも……」
「ええ、マジかよ!?」
「あと、それと来週、7chの報道バラエティに出るって事になってる」
「ええええ! テレビでんの!?」
「うん、それで局の偉い人と会ったりして……」
「え? 何々、何の話?」
内藤さんと大智を残して、裕也がこっちにきた。
よく見ると、内藤さんと大智は飲み勝負をはじめ、理香子や山口、森川が観客になって盛り上がっていた。神代はまだ彩に取り憑かれているようだ。
「弘樹がテレビでるらしい。それって、いつ放送されるんだ?」
「まじ!?」
「来週収録って聞いてるから、その後だと思うけどまだはっきりは分からない」
「てか、お前そこに出て何すんだよ!」
「さ、さぁ?」
「……さぁって」
「はは、すごいな弘樹!」
酒を飲みながら俺の芸能人化の話をしていると、内藤さんと無謀にも飲み勝負をしていた大智が、デロデロになって助けを求めに来た。
「ひろきぃ、かわってくれぇ、あのひとばけものだぁ、ヒック、うぇぇぇ」
「んー? 大智君! まだまだだねぇ! わっはっはっは! 次は誰だい?」
いや、俺に助けを求めてくるな大智、あの人には勝てん。
「よーしじゃ、私から指名するぞ! 北村! 神代! 来い! どこだ!?」
うげっ、マジか!?
逃げるか?
俺は焦ってこそこそと逃げ始めるが。
「弘樹君いた! 指名されたよ! かもーん!」
「お! 北村君そこにいたか! 勝負だ! かかってきなさい! ワハハハ!」
「そうだ、そうだ! かかってこーい! あははは」
やめれこの酔っ払いめ、見つかってしまったではないか。
「神代! お前はそこでなにしてんだ! こっちこい!」
「あ、内藤さん、た、たすけ」
「ああーん、神代様……」
彩から神代を引っぺがす魔人。
そして俺には、来ないとただでは済まさない的な満面の笑みを送ってくる。
「さぁ! お前ら、グラスを出せ!」
プラスチックの透明なコップに並々注がれていく日本酒。
俺と神代と魔人が、一気飲み勝負することになってしまった。
「お前らも男なら掛かってこい! さぁ! 理香子ちゃん! スタートしてくれ!」
「みんな、いきますよ! よーい! どん!」
理香子がスタートを告げると、内藤さんは一瞬で飲み干す。
俺も神代に負けじと飲んでいくが、わずかな差で俺が勝った。
「うわははは! 私の勝ちだ! なんだ若いのにお前ら弱いな!」
「内藤さんには勝てませんよ、でも北村には負けません、油断したんです!」
「うっぷ。俺だって負けんぞ!」
「よし! じゃあ二人とも、もっかい勝負だ!」
やめてくれ魔人。
あんたは飲んだそばから体内で酒を消滅させてるだろ。
あんたに勝つ気はない。神代とやらには負けたくないが……。
しかし、理香子によって、遠慮なく再度なみなみに注がれる日本酒。
「おい、北村! 負けないからな!」
「ああ!? てめぇ! いい度胸だ、掛かってこい!」
「きゃー弘樹くん頑張れ!」
「神代様! 負けないでください!」
「わっはははは、いいぞ、その調子だ! 私も負けないぞ!」
女性陣の声援が入り、勝負をする俺たちはさらに熱がこもる。
しかし、魔人が飲む必要はあるのだろうか、と思う。
ま、いいか魔人だし。たぶん魔力補給かなんかだろう。
「よーい! すたーと!」
「ゴバババー! ゴクン。はーっはっは! 私の勝ちだ!」
魔人は瞬時で飲み干すが、俺たちは構わず無視して飲み続ける。
しかし、今度は微妙に神代が勝った。
「ちくしょー! てめぇ! もっかいだこの野郎! ぐふっ!」
「君も諦めが悪いね、フフ。負けを認めろよ! ウッ!」
「よし! さぁ、もっかい行くぞ! 理香子ちゃんほら、注いでついで!」
「次も絶対かぁつ!」
神代はそういうと、浴衣の上半身を脱いだ。
「あふぅ!」
それを見た彩が気絶した。
そうして、俺たちはこうしてデロデロになって行く。
8時過ぎから、あり得ないペースで飲み続ける俺たちのどんちゃん騒ぎ。
俺と神代はその後も飲み勝負を続け、10時には二人ともあっさり轟沈。
なぜかまだピンピンしていた内藤さんは、轟沈した神代を米俵の様に担ぎ、11時頃には、山口と森川を連れて保養所へ帰って行った。
勝負は4勝3敗で俺の勝ちだ。
だが、神代も4勝3敗で勝ったと言っていた。
そして、女性二人は隣の部屋へ移動し、大部屋には飲み過ぎて潰れた、4体のゾンビが朝まで転がっているのだった。
俺は、お酒の一気飲みはやめといたほうがいいと心から思った。
◆
翌朝、男性陣は激しい二日酔いだった。
「ほら、だらしないなぁ、朝ごはん終わっちゃうよ!」
チェックアウトの荷造りを既に済ませた女性陣。
俺たちを起こしにこっちの部屋に来ていた。
「ああ、すまん、い、今行く。行くから大きな音を」
「いくよぉぉぉー!!」
「「「うあああああ」」」
俺たちは理香子に無理やり起こされ、民宿の食堂で朝飯を食べた。
その後酔い覚ましに、朝風呂へ向かい、湯船に浸かる忠司が言う。
「ふうう、昨日はすごかったな」
「ああ、内藤さんはああいう人なんだ。関わると大変だぞ?」
「俺二度と会いたくねぇかも」
「俺も、次はできれば遠慮したいな、でも面白い人だったな」
大智と裕也も懲りたようだが、内藤さんの良さは伝わっているみたいだ。
「お前、今後あの人に振り回されながらタレントやるんだろ」
「まぁ、悪い人って訳じゃないんだけどな……大変なのは間違いない」
「なんか困ったら、俺に言え、出来る事なら手伝うからよ」
「ありがとう、助かるよ」
「頑張れよ、弘樹」
「俺も応援するぞ!」
「みんなありがとう。俺多分、これから大変なことになるけど、みんなよろしくな」
「任せろって!」
こうして、裸の付き合いで結束を固める、弘樹たちであった。
そして、垣根の向こう側では、女性陣が朝風呂で湯船に浸かって話をしている。
「理香子、あんた、弘樹のデビューの事しってたんでしょ?」
「う、うん、言えなくてごめんね」
「そんなのはどうでもいいのよ、それより、あんたたちは大丈夫なの?」
「あー、うん、それは大丈夫だと思う」
「そっか、でも弘樹が有名になったら、あんたも大変になるわね……」
「私も、最初はそう思ったんだけど今はもう大丈夫!」
「てことは、あんた達……もうしたの?」
「えええ!? なんでそんなこときくの!」
「だってもう知り合って4か月よ!? え、まだなの!? ほんとに?」
「あ、う、だって……」
「あんた、そんな良い物ついてるくせに! 使わないなんてもったいない!」
どうやら、理香子は結構なものをお持ちの様だ。
だが彩もまんざらではない。
彩はそういうと、理香子の胸をつつく。
「きゃ……!」
理香子は肩まで湯船に沈みこんだ。
「しかし、弘樹君も大変ねぇ、まぁでも困ったら何でも相談してね」
「うん、ありがとう彩」
男性陣と女性陣では、心配どころがそれぞれ違うようだった。
こうして、朝からひとっ風呂浴びた6人は、その後、民宿をチェックアウトして岐路へ着き、帰りの電車の中では前日の疲れか、全員がぐっすり眠ってしまうことになる。
◆
一方、民宿からそう遠くない、サイテリジェンスの保養所でも、内藤たちが身支度を整えていた。
「おはよう、ん? どうした神代? 二日酔いか?」
「う、うう、お、お早うございます。はい、すみません、と、トイレ行ってきます」
「なんだ、お前酒弱かったのか、二枚目が台無しだぞ!」
普通はどんな人間でも、日本酒をあれだけ一気飲みしたら壊れるだろう。
しかし、誰よりも飲んでいたと思われる、魔人はピンピンしていた。
山口と森川はそこまで飲んでいなかったのか、テキパキと機材等をまとめ、撤収の準備をしている。
「ち、ちくしょう。あいつは絶対潰す!」
神代はなぜか昨晩の事を根に持っているようで、トイレで悪だくみを始めていた。
「まず、あいつが表に出てきたら、裏アカウントを使って噂を流してやる。登録者は少ないがアイツを潰すくらい訳ないはずだ。問題は内容だが、なぁに、そんなことはどうとでもなるさ、見てろよ北村、フハハハ」
「うう、頭が……ちくしょう、北村め」
ネットのカリスマ神代は、裏アカウントですら数万の登録者がおり、その影響力は計り知れない。裏で流した噂が巡って自分の元へ届いたら、それとなく支持することで、表アカウントの登録者を巻き込み、噂を拡大する事を目論んでいた。
弘樹にはいわれのない逆恨みを加速させる神代であった。
「神代! いつまでトイレこもってるんだ、高速混む前に帰るぞ! 早く出ろ!」
「ち、ちくしょう……」
俺のテレビ収録まで、あと数日と迫っていた。
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