第4章 神の思惑(6)
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王城謁見の間の玉座にロザリアは腰掛け、虚空を見つめていた。
ゲラート・クインスメア――、メイシュトリンド王国執政。さすがである。あれほどの人材は我がゲインズカーリにはいない。カエサルは悪くない。野心にあふれ、我に従順である。だが、いかんせん知能が薄い。
しかしそれも、これまでは、だ。
あの漆黒の武具が出現してしまった以上、さすがにカエサルと言えども、単独ではどうにも
(何とかしなければ、世界統一など夢のまた夢となってしまう――)
思えば、ゲラートを初めて目にした時から、この心のうちに燃え上がるものが芽生えたと言ってよかった――。
――10年前、ロザリアは21歳であった。ゲインズカーリはまだ北の小国でメイシュトリンドとは友好関係にあった。先王にはロザリアしか子が無かったため、ロザリアを後継者として学ばせるために、早くから国政に従事させていた。そうして頃合いを見て、執政に任じたのである。
この執政就任式典において、先王は友好各国から国政に携わる者たちを来賓として招き、ロザリアのお披露目を兼ねて、今後のつながりを作らせた。
ゲラートもメイシュトリンド国政トップとして、この式典に出席していた。
この時ゲラートとロザリアは初めて出会うのだった。
言葉を交わしたのはほんの数分であったかもしれない。が、ロザリアはゲラートのその知性と人柄に敬慕の情以上のものを感じていた。まだ若きロザリアにはそれが何なのかはあまりよくわからなかった。ただ、日に日に彼女の心の中で、いつかゲラートに一目置かれるような人間になりたいと、そう思うようになっていった。
名実ともに国政のトップとなった彼女はその後もよく学び、国内外からの評価も高かった。
そんな時である。
西のウィアトリクセンが四聖竜の一柱、黒雷竜ケラヴナシスと『
当時のゲインズカーリは北の辺境に位置する小国であり、南西に位置するヌイレイリア王国からの圧力で、わずかながらに農耕が可能な平野部分で、頻繁に国境争いが起こっており、田畑は荒らされ、思うように食料を収穫することが叶わないでいた。
ロザリアはこの問題の収拾に奔走していたが、ゲインズカーリが産出できるもので交渉材料となるものは、その山岳地で採取できる良質な鉄鉱のみであった。
ヌイレイリアはこの鉄鉱を、休戦の条件に要求してくるのが常だった。
さすがにこのままでは、いつかこの鉄鉱も尽きてしまうかもしれない。そうなればヌイレイリアは牙をむいて本格的な侵攻を開始するか、もしくは、ゲインズカーリの経済が崩壊してしまい、いずれにしても早晩、国家は失われるであろう。
ロザリアは
しかしながら、父王は耳を貸さなかった。どころか、ついにはロザリアを執政から解任し、ローラン・スミスという先任の執政だった者を、新たな執政に再任したのである。
どうして愛娘より、この
公にはなっていないが、裏にはいろいろと事情があったのである。
事の発端は、ロザリアとカエサルが恋に落ちたところからだった。今にして思えば、カエサルのような男にどうして熱をあげてしまったのか、ロザリア自身にもよくわかっていない。一言でいえば、若気の至り、とでもいうべきか。いずれにせよ、そういう男女の仲になってしまったのは事実である。
ローランはこれに目を付けた。
ロザリアにその地位を奪われたこの男は、いつかその逆襲をと胸に秘めながらも、ロザリアの部下として、先任の執政として、先王とロザリアに仕えていた。その仕事ぶりは従順で、当然先任の執政なのだから、その能力も非常に高く、ロザリアもよく師事して学んでいたほどだった。
しかしローランは、いつか復讐をと企んでいたのである。
ローランはまず、ロザリアに接近した。若く美しいロザリアを我が物にできたなら、それはそれで痛快だ。
だが、これはあえなく失敗した。さすがに年齢差20以上という間柄では、若いロザリアから見れば、そのような対象とはなりえなかった。むしろ、仕事以外ではロザリアに距離を置かれるようになってしまっていた。
そこでローランは、先王に接近して、疑心暗鬼に陥れる作戦に出た。
簡単な話だ。
ロザリアとカエサルの関係を利用して、二人が共謀して王を力づくで追い落とし、ロザリアが女王に就く計画が浮上していると吹聴したのである。
先般から、ロザリアと先王の間で『聖竜との契約』について意見が対立していることにも触れ、この策は時期を得て、思った以上の成果を上げることになった。
しかしながら、ローランはすでに狂気に支配されていた。先王の洗脳に成功し、ロザリアを追い落としたこの男は、さらに高みを見てしまった。これが彼にとってあだとなった。
王城内の勢力の
ロザリアは激昂した――。
カエサルに身を差し出すだけではなく、さらに国王の地位をも約束し、王国軍を味方につけると、一気にローランを攻め滅ぼしたのだった。
対外的に、先王がこのような失態を犯したというよりも、自身がクーデターを為したという方が劇的であり、良くも悪くも、一気に注目を集めることにもなる。ゲインズカーリの未来にとっても、その方がいい流れになるとロザリアは計算した。結果として、ロザリアの名は世界に響くこととなった。
そんな状況に興味を持っていた、
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