第4章 神の思惑(4)

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 聖竜暦1249年7の月9の日――

 フューリアスとゲラートはゲインズカリオの王城謁見の間にいた。


 昨晩遅くにゲインズカリオに到着した二人は、王城近くの迎賓館に通され、そこで一晩を過ごした。

 そして、今日の午前、謁見の儀となったのだった。


 ――ここで、読者諸兄に、説明を付け加えねばならないことに気付いた。

 昨日8の日の朝早くに謁見の申し入れをして、午後に返答があったと言った。にもかかわらず、そこから入国し、王都ゲインズカーリに到着したのが昨晩遅くということだった。つまり、関門から王都へは約6時間を要することになる。つまり往復すれば12時間だ。なのに、返答は7時間と少しほどで返ってきている。なぜか。

 答えは、「狼煙のろし」である。

 こういった急を要する使節の謁見の申し入れなどの場合、イエスノーの返答であれば「狼煙」を使うことがこの世界の常とされていた。


 閑話休題――。


 かくして、フューリアスとゲラートは、ゲインズカーリ国王カエサル・バル及び、女王であり国家元首である、ロザリア・ベルモット・エル・ゲインズカーリと会見した。

 正使はゲラートである。


「女王陛下、国王陛下。突然の訪問に際し寛大なるご処断、誠に痛み入りまする――」

そう、通例的な口上を述べた後、早速本題へと切り込んでゆく。


 ゲラートの話の要約はこうだ。

 先般のメイシュトリンド王国への侵攻は大義のない横暴であり、メイシュトリンドとしては断じて容認できるものではない。我が国は、自国の人民を護るために敢えて望まぬ戦闘を行った。

 結果として、我が国は大事な人民と街を失い、そちらは多くの兵を失った。「聖竜との契約ドラゴンズ・プレッジ」をお持ちの国が、なぜにそのような暴挙をされるのか。いま、世界は安寧を享受しております。それは殊に各4大『保有国プレッジャー』がたの功績によるものです。我ら『非保有国ノンプレッジャー』各国は、それぞれの友好『保有国プレッジャー』に対し、全面協力する形で報いていく所存です。

 この安寧の時代に戦乱の種を起こすことは慎まれるがよかろう。

 いかに『聖竜との契約ドラゴンズ・プレッジ』をお持ちであると言えども、我らも自国の人民を護るためには、完全無抵抗というわけにはまいりませぬ。

 そうなれば互いに被害は甚大。国力を低下させ、ひいては人民に不平が巻き起こり、国家は安寧を失いかねませぬ。

 此度の謁見は、我が国の覚悟をお知らせするため、我が国王カールスは私を正使としてここへ遣わせました。

 その上で申し上げます。貴国が今後このような暴挙を行わないと約束されるのであれば、我が国は貴国とも友好関係国として国交を温めていきたいと考えております。


「両陛下、なにとぞ賢明なご判断を――」

ゲラートは一気にまくし立てた。


 国王カエサルは明らかに顔色を変え、激昂している様子が見えた。

 さもありなん。

 要は、いうことを聞かねば痛い目にあわすぞという脅しなのであるのだから。


「この無礼者が!! 誰に向かって口をきいておるか!!」

カエサルは謁見の間に響き渡る怒号を発した。


 ――ここまでは想定内。さて、ここからが本番だ。


 ゲラートはこれに対し怖れなどは一切見せずに返す。

「国王陛下は、さきのクルシュ川危機において、何名の兵を失われましたか――。当方の記録によると、1万1506名の貴国兵が命を落としております。対して我らの軍勢の死者数ですが、こちらは421名。実に約30倍です。この数値を見て我らの真意を推し量っていただきたい」


「つまりお前はこう言っているのだな、ゲインズカーリわれらに勝ち目はない、と。――よかろう。しかし、聖竜はどうする? あれをこちらが出さないという保証はあるまい?」

女王ロザリアが言った。


 ゲラートは、してやったりと内心思ったが、そこはおくびにも出さず、

「まさしく、おっしゃる通りでございます。そればかりは対処のしようがございませぬ。おそらく、聖竜が遣わされれば、いかに我が国と言えども、強風の前の塵も同然、一瞬で滅ぶでしょう。しかし、その先に待ち受けている事態も、賢明な両陛下であればすでに、ご理解のはず――。当方客分リチャード・マグリノフは稀代の天才研究家であります。彼こそ『世を導くもの』の異名のまま、“竜抑止力理論”を唱え、国王カエサル陛下もその考えに共感され、将軍時代にその道を前国王陛下へ畏れずに訴えられたと聞き及んでいます。そのリチャードの研究で聖竜が大量の素粒子をため込んだ後どういう状態になるかという予言についてもすでに御存知でしょう――」


「「――?」」


 玉座の二人は、眉をひそめた。カエサルはロザリアの方に目を向ける。

 ロザリアはと思った。

 カエサルが知らないことを見抜かれてしまっては、明らかにこちらが不利になる。ロザリア自身はこのことを当然知らなかったが、ここで自分まで知らないとは言えない。ここで彼女の、傲慢が顔をのぞかせた。


「もちろん、存じておる――」


 この会談、ゲラートの勝ちだ――。

 フューリアスは終止黙って控えていたが、この雄弁な友の恐ろしさをまざまざと見せつけられた思いがした。

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