不確定性原理と俺が半分の現実と向き合う方法
カフェイン
第1話 先生は半分の先生と俺が現実の世界
まずは自己紹介から始めるとしよう。
俺は判文利明(はんぶとしあき)
周りからは重度の厨二病として見られているどこにでも居る16歳の高校生だ。
他人から見れば、ただの厨二病だが、実際俺には不思議な力がある。これを俺の力というべきかは難しい所なんだが、これは本当の事で、この力は、俺を振り回し続けているのが事実だ。
突然だが、この世は可能性のある世界と無い世界が無限に分岐し、無数の世界が重なっていると言われている。パラレルワールドや多次元宇宙論なんかがそうだ。
俺の左右の目はその分岐を、それぞれ見ることが出来ると言ってもいいだろう。
普段両目を開けて見ていても殆ど差がない世界なんだが時々像がブレる時がある。
それがどういうことなのか、先日の出来事を見てもらえれば分かるだろう。
そしてそれが俺に何をさせようとしているのか、きっとこれから分かるんだろう。
左目の世界、と呼んでいる。これが俺が普段暮らしている世界だ。
普段は両目を開けて生活している。すると、なぜか左目が優先されるんだ。
だから、学校生活はみんなと同じだ、ただ、少し、じゃないか、結構ドン引きされている感じはするけど、友達もちゃんといる。
その日も特に何も起きずに授業が終わろうとしていた。まぁ、殆どの日は何も起きない。
だから俺は普通に高校生活を送れているのだが、時々……。
キーン、コーン、カーン、コーン……。
先生「来週テストするからなー、予習しとけよー」
ある日、授業が終わった直後、先生の突然のテスト宣言で教室がざわめいた。
「えー、マジかよぉ」
「テスト範囲分かる?」
「ノート見せて!おねがい!」
ざわついた教室で、生徒たちがお互いに声を掛け合っている様子が見てとれる。
その先生の発言の直前から、比較的後ろの席に座っている俺の視界がブレ始めた。
先生左「来週テストするからなー、予習しとけよー」
先生右「来週テストあるからなー、予習しとけよー」
左目に映る先生と、右目に映る先生が二重になりだしたのだ。
利明「ま、また、前兆だ……」
隣の席の生徒「え?何?」
隣のクラスメイトが俺を見て、いぶかしげにつぶやくのを横目に……。
利明「め、目が、まずいぞ……」
俺はそうささやくと、格好つけて利き腕である右手で、左目を抑えようとした。その瞬間、同じ部活動の同級生、矢成道彦(やなりみちひこ)が俺の右腕をつかんだ。
道彦「おーいとしあきー、部活行こうぜー」
こいつは子供のころからの親友で腐れ縁だ、馴れ馴れしく軽い奴だが、優しくて良い奴だ。
利明「ちょっとまて、俺の左目を封印しないと何か大変な事が……」
道彦「あはは、またかよ、お前それ好きだなぁ、良いから部活行こうぜ」
先生の方へ視線を向けると、左右の視界のブレがどんどん広がっていく、教室を出ようとしている先生は、もう数歩分の距離が開いている。それを放置すると、どんなことが起きるのか、俺はだいたい知っている。だから急がなくちゃならない!
俺は慌てて、空いてる左手で左目を覆い隠した。
利明「ちょっと離せって!先生に用事があるんだよ、先に部室行っててくれ!」
道彦「なんだよ……じゃ、先に行ってるぞー」
ブレていた像は片目だけになり、はっきりと見えるようになった。
俺は左目を抑えたまま、慌てて先生を追いかけた。
教室を出ると、下への階段に差し掛かる、先生が見えた。
その瞬間、ほかの生徒が先生に声を掛けた。
生徒「先生、来週のテストの範囲なんですけど……」
次の瞬間、振り向いた先生が、階段から足を踏み外した!
俺は、左目を手で押さえたまま、猛ダッシュで先生へと近づき、寸でのところで袖を引っ張った。バランスを崩した先生は今にも階段から落ちるところだった。
先生「おっとと、利明、お前凄いな!足早いんじゃないか?」
俺は、先生を助けることができたとわかると、恐る恐る左目を覆う手をどけた。
すると、両目で見ている景色にブレは無くなっていた。
利明「あ、危ないっすよ、先生、気を付けないと」
先生「ありがとう、そうだな、気を付けるよ。で、なんだ?友崎……」
先生は何事も無かったように、呼び止めた生徒と会話を始めた。
そう、この左右の目はこれから何か、大変な事が起きる時に、見ている視界に左右のブレが生じる。といっても正直なぜなのかはわからないのだが、それが、起きない場合と、起きる場合を、左右の目で同時に見ているんだと思う。そして、俺の目が見ていない側の世界は、たぶん確定していない。世界か、俺のどちらかが、それとも両方が、曖昧な重ね合わせの状態のまま確定していないのだと思う。
どういうことか分かりにくいと思う、だから例えて話そう。
左目で見えていた先生は、たぶん何事も起こらなかっただろう、正直分からない。
右目で見えていた先生は、俺が助けなければ大けがをするところだった。
これが出来事だ。この二つの出来事は何かを切っ掛けに分岐した結果、同時に重ね合わせの状態になっている。これは量子の世界では今も普通に起こっているただの物理現象だ。
そのまま、両目で見ていた場合、右目の先生が大けがをした後、俺が瞬きをすると、どちらかの世界に、世界全体が収束する、この場合、先生が怪我をする確率は50%だ。
右目を閉じて、左目で先生を見ていた場合、見えている先生には何事も起こらないが、右目を開けた時に、先生がもし大けがをしていれば、瞬きした収束後の世界では、やはり50%の確率で怪我をすることになる。
今回は、左目を閉じて、右目の先生を助けた。その結果どちらの先生も怪我をすることがなくなったため、収束後の世界でも先生が怪我をする確率は0%になった。
当然、右目を閉じて、何も起きない左目の先生を見ながら、存在しないと思われる右目の先生を助けることは出来ない。だから右目を開けた時、右の先生は怪我をしているだろう。瞬きのあとは同じく50%の確率で怪我していたはずだ。
そこで、もし両目を開けて、右の目に見える先生だけを助ける事はできるのか?
それは、袖を引っ張る先生が右か左か、つかんでみるまで分からないんだ。
左の先生をつかんでしまったら、右の先生は落ちてしまう。
運よく右の先生を掴んだら、落ちるのを止めて、どちらも助かる結果になる。
でもどちらを掴むかは50%ずつなんだ、結果、怪我をする確率は50%になる。
だから、俺は悪い事が怒る映像を見る側の目、つまり右の目で物を見て、その間は左目を塞ぎ、右目だけでこれから起きる悪い事を防ぐ必要があるんだ。
それに、目はつぶるだけでは存在が消える訳じゃない、光を完全に遮らないとダメなんだ、明るさを感じている時点で、世界は存在し、見ているのと変わらない。
シュレーディンガーの猫という思考実験を知っているだろうか、ここでくどくど説明するつもりはないが、俺にはあの箱の中身が、あの猫が見えたまま、二つの世界を重ね合わせの状態で見ていて、どちらかの世界に望んで干渉することが出来る、ということなんだと思う。
ややこしい話だとは思うが、子供のころからこれに悩まされていて、誰かが怪我したり、死んだりするのを、助けたり、または助けられなかったりしてきている。
誰かを助けられるかもしれないのに、何もしなければ助けられない確率が50%、そんな高い確率で人が大けがをしたり、大失敗をしたり、死んだりすることを、俺は黙って見過ごしてはいられない。
何もしないで、50%の確率で助かったとしても、俺の右目は階段から落ちて大けがをする先生の苦しむ姿を見る羽目になる。だから俺は、厨二病であり続けるしかないんだ……。
利明「お、俺の目が……くっ……」
目を閉じないよう頭を抱えてかがみこむ俺。
それを見た、ほかのクラスの女生徒が俺を見て言う。
女生徒達
「なぁにあの人?」
「あれでしょ、Bクラスの、クスクス……」
まぁいい、先生は助かったんだ、これでいい。さぁ、部活に行くか……。
その日のそのあとは、何事もなく終わった。
部活については……そうだな、いつか話そう。
この視界のブレはいつ起きるか分からない。
だから、俺は常に、この不安定な世界で、慎重に生活をしているのだ。
この先も、何が起きるかは全く予測ができないが、大事に至らない事を願うばかりだ。
明日も平穏な一日でありますように……。
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