よっしゃあ!!3人目はリリカ!!
2人と別れてから、リリカは足早に森の中を歩いていた。いち早くパーティを離脱して、もっと強い、頼れるメンバーを組まないといけない。あたしには力が必要、強くならないと。その気持ちで心はいっぱいだった。
森は広い。巣から離れていたさっきの残党のゴブリンを少し見かけた。
「ウインド」
見かける度に退治をしている。別に実績はもう足りている。仮に作ってもらったギルドカードには、もうボブゴブリンを退治した記録が追加されている。ただの鬱憤晴らしだ。
一番最初、誰でも良かったからといって適当に選び過ぎた。自分の見た目とスキルを利用した、ぶりっ子モードに引っかかったからといっても、もっと熟練じゃないとダメ。そう学べただけでも大きかった。パッとしない男とすぐムキになる弓使い。あまりにも遊びがいがあったせいで少し楽しくなってしまった。でもレベルはそこそこあったのに、回復役もいないとは珍しい。雑魚ばかり狩っていたのか?
「ウインド」
何体目かの残党を退治した後、リリカは少し異変を感じた。当たり前の事が行われていないような。慌ててギルドカードを取り出し、記載を確認する。
経験値が全く入っていない……?
先ほどの巣では最初の実戦であった為、緊張と負けず嫌いが作用して気づけなかった。ついさっきレベルのことを考えたということもあって、気付くのは今となった。魔法学校を飛び級、更には首席で卒業したリリカはもちろん知っている。魔物を倒すと経験値が手に入る。この世界の常識だ。
どちらかのスキルの効果?いや、そんなマイナス効果のあるスキルなんて旨みが無い。それに、2人はレベルが上がっていた。嫌がらせ?そうとしか思えない。
聞き出しに戻ろうかしら。
そんな考えが頭をよぎり、一旦は後ろを振り返る。が、今は町に戻ることが先決だと思い、前に歩みを進める。
あたしには時間が無い。足止めを喰らっている場合では無い。リリカは強くステッキを握る。
ドオォォォォォォン!!
不意に目の前で爆発が起きたかのような大きな音がした。
「何!?」
強烈な砂煙のせいで目が開けられない。何が起きたのか把握が全くできない。
「ウインド!」
風魔法で視界を確保する。状況の把握は優先的にすべし。魔法学校で習ったことだ。
パシッと風魔法が何かに当たる音がしたと同時に視界も確保される。もっとも、見たくない現実があった訳だが。
「グオオオオオオ!」
レッドドラゴンがそこにはいた。木より大きく、リリカなど丸飲みに出来そうなその巨躯から発せられた咆哮は、彼女を動けなくさせるには十分だった。
「何よこれ……こんなところにドラゴンなんて……」
このドラゴンはチヒロが前に見かけた、町では有名な湖のヌシだ。しかしリリカはこの町に来たばかり。このようなドラゴンがこのレベルの地域にいるなんて聞いたこともない。チヒロ達も、こんなに町付近にヌシが現れる事は予測出来なかった為、伝えてはいなかった。
もう既に迂闊にもこちらは攻撃をしてしまった。ヌシも怒っている様に見える。逃げられるかどうかはわからない。
「ハイウインド!!」
中級魔法。リリカが使える最大威力の魔法だ。このレベル、年齢で扱えるのは確かに天才と呼べる域だろう。しかし、ボブゴブリンを倒すには申し分無いこの魔法も、ドラゴン相手だと残念ながら通用しない。
何も当たっていないかのように、リリカの元へ歩みを進める。恐怖が心を支配した。
ドラゴンがその巨大な前脚を振り上げる。
「ハイシールド!!」
前方に空気の壁が作られる。風魔法は防御にも使用できる。これが出来るのは土魔法とこれだけだ。
攻撃は通用しなかったが、中級相当の防御は有効のようだ。前脚は風に弾き返される。
「ハイサークル!!」
続けざまに火を吐いてきた相手に対して壁の形状を変える。自信を中心に180度展開される、ドーム状の風。前方のみだと、火が回り込む可能性がある。防御力は下がるが、魔法相手ならこちらの方が有効。これも学校で習った通りのやり方。
肺活量と魔力の我慢比べは、リリカに軍配が上がった。しかし、攻勢には転じられない。
……あたしの魔力は限りがある。どうすれば良いのか。いくら考えても答えは出ない。あの2人はまだ近くにいるだろうか。いや、いたとしてもあんな事を言った自分を、助けに来てくれるかはわからない。どちらにせよ太刀打ち出来る筈も無いだろう。
逃げよう。そう思ったが、足は恐怖で動かない。
「……ハイシールド!!」
泣きそうな声で呪文を唱える。突き出された前脚は、先ほどより威力が上がっていたのか、リリカの出力が下がっていたのか、後ろに吹き飛ばす。
「ガハッ……!」
木にぶつかり声が出る。初めて味わう実戦での痛みに顔は苦痛に歪む。骨は折れていないはず。外傷だけ。でも、だからといってどうなる?あのドラゴンを怒らせた自分の責任か、1人で魔物の住むフィールドに抜け出してしまった自分の責任か……いずれにせよ責任は自分にある。憂さ晴らしをするにも、自分を責めるしかない。
「ごめんなさいお母様……ごめんなさいみんな……」
これで終わり。迫りくる恐怖から目を背けるように両瞼を閉じた。次の瞬間。
「ゴーレムインパクトォォォォォ!!!!」
けたたましい衝突音に、リリカの耳は覆いつくされた。
***
え、こんなところで語り部戻されんの?タイトルで今回オチてんじゃん。もっと先見たいんだけど……わかった、わかりました。えっと、どこから説明しようかな。
巣での戦いの後、リリカに去って行かれた俺は、絶対押しに弱いツンデレ(っぽい)魔法使いをどうしても仲間にしたかった。
「なんであいつをそんなに仲間にしたいんだ」
「いやー、ほら、だって強かったじゃん」
ポーションを飲んで多少は回復したふらつき気味のステラと共に森を歩く。巣に全員いたのか、ゴブリンの残党の姿は無い。今思えばリリカが倒してたんだんだな。
「強くてもあんなことを言う奴は嫌いだ」
腕を組んでフンっ!と首を横に振る。俺だって何も知らない状態だったら嫌だっただろう。でも彼女【転天】のツンデレ娘に性格がそっくりなんだよ。でもそんな事言ったところでバカバカしいし。どうしようかな……
ドオォォォォン!!!
「なんだ!?」
遠くから、けたたましい騒音がした。空気の痺れがここまで伝わってきたようなそれは、俺の心に不安を過らせる。
「とっとと森を抜けた方が良いんじゃないか?」
「それもそうだけど……音の方へ行こう。リリカも心配だ」
「あそこまで言われたのにか?」
「そうだ」
真剣な眼差しでステラを見つめ返す。例え仲間にならなかったとしても、ただの嫌な奴だったとしても、ここで逃げたら俺は前世より最悪になる気がする。
「はぁ……まったく君は……わかったよ。ま、見捨てるような薄情者よりは良いか。あっちに行ってみよう」
「サンキュー」
説得とは言えないような説得も終わり、俺達は音の方へと向かっていった。
と、ここまでが顛末。ドラゴンを見つけたから必死に木をよじ登って、ゴーインで顔面をぶん殴ったって訳。
「…………っ!!!!」
何となく年下がいるから、強がって落下しながら歯を食いしばる。声なんか出したらなんかいじられそう。そんな状態では無い事は分かるけど。今の一撃でドラゴンは崩れ落ちた。相当レベル差はあったようだけど、どうやらかなりの威力があるようだ。
『チヒロは25レベルに上がりました。固有スキル【火力増加】を【解析】しました。【成長】します。ステラは25レベルに上がりました。リリカは25レベルに上がりました』
そこまでレベルは高くなかったのかあのドラゴン。激痛に耐えながらステータスボイスに耳を傾ける。
ドンという音と共に俺は地面に落下した。綺麗に着地とか、そんなことは痛みの中考えられる筈は無い。というか脇腹辺りも砕けてない?めっちゃ痛いんだけど。
土の塊の俺は結構重い為、落下するだけでも結構大きい音がする。
「
追いついてきたステラが修理をしてくれる。そうそう、いろいろと機能を試してみた時に、自分でも最大出力を出せるようになった。毎回ステラが近くにいなくても大丈夫。まあ、痛みに欠損あるからなんだかんだいてもらわないと困るんだけど。
「大丈夫か?」
木の近くでへたり込んでいるリリカに話しかける。
「え、さっきのめちゃくちゃな威力の攻撃何よ?しかもあんたさっき腕吹き飛んでたわよね?なんで戻っているの?レベルも一気に上がっているし、頭おかしくなりそう」
腰でも抜かしたんだろうか?座り込んで目を点にしたリリカは、泣きそうな声でまくし立てるように疑問を一息に言い放つ。無理も無い、あれこれ情報量が多すぎる。怪我の様子は、見た感じだと大丈夫だろう。
「飲めるか?」
ポーションを差し出す。ありがと、と受け取ったリリカは、両手でそれを持って一息で飲み干す。
さて、何から説明しようか……
***
「事情はわかったわ。でも、色々と信じられない……」
木に寄り掛かったまま、顔を手で覆う。情報量の暴力に情報量をぶつけただけの状況。異世界から来たとか、体がゴーレムとか。あとは信用されるかどうかだけど、信用せざるを得ないだろう。
「ステラがマスター?悔しいけど、あんたもなかなかやるじゃない」
言われたステラは得意気にしている。その方がお前っぽいわ。
「で?経験値が入らないのもあんたの能力?」
「多分そう」
「めんどくさい能力ね……」
めんどくさい。まあ確かにそうだけど。【成長】は俺が倒した魔物の設定レベルよりパーティ全体のレベルが上がる。ただし通常の経験値が上がらなくなる。【解析】は無機物の情報がわかる。で、2つを組み合わせると固有の能力を吸収できる。ややこしいな……
「……さっきはごめんなさい。それにありがとう。あたし焦ってた。自分の事しか考えてなかったわ」
なんとか立ち上がり、俺達に頭を下げる。その所作は綺麗で、どことなく気品があるように思える。
「べ、別にパーティに入りたいって訳じゃないんだけど、まあどうしても入ってほしいってことなら入ってあげても良いんだけど?」
よっしゃツンデレキター!!頭を上げて腕を組み、そっぽを向きながら話す。自分を騙していたさっきまではと違い、こっちが本心なのだろうか。つまり生粋のツンデレ。もう俺はパーティに入れる気満々だ。
俺は横にいるステラに視線をやる。少し考えた後、口を開く。
「ダメだ」
「え!?」
なんでだよ!ほら、リリカだってもう恥ずかしさとかで少し涙出てるよ!あーほらまた顔隠した!ステラが泣かしたー!
「誠意が足りないだろうその言い方」
そうか!ツンデレという概念がねえのかこの世界!めんどくせえなこりゃもう!
「なあ、俺からも頼むよ。とりあえずパーティに強いの増やしたいだろ?こいつは恥ずかしいだけなんだよ。言い方も知らないだけで……」
「誰が世間知らずの大バカ者よ!」
リリカから拳が飛んでくる。今お前の事かばってあげてたじゃん……言っても無いし。
「ふふ、わかったよ。チヒロ君もそう言うなら認めよう」
「ありがと……」
目を擦りながら何とか返答をする。なんにせよ、これで3人目のメンバーだ。
「じゃあ、後で荷物をあなた達の家に持っていくわ。案内して」
待て待て、今なんて言った?荷物を持ってくる?
「基本的にパーティメンバーは一緒に暮らすことになっているんだ。昔からの慣習だな。君だって一緒に住んでいるだろう?」
どういう慣習だよ……14歳と1つ屋根の下?ただの犯罪じゃねえの?俺が住まわせてくれてんのはただの居候って事かと思ってた。そういう理由があったのね……まあ郷に入れば郷に従えって言うし、素直に従っておくとしますか。
「ああ、チヒロ君なら心配しなくて良いぞリリカ。何しろ性器は作ってないし、何かあったら機能停止出来るからな」
「言うなそんなこと!」
やらないしそんなこと!いやまあだから童貞で人生が幕を閉じたのかもしれないけどさ。考えてみたら俺一生もう卒業出来ないってことかよ……留年しっぱなしとか悲し……
まあそんなことはどうでも良くて、いやどうでも良くは無いけどさ。じゃ、今度こそ町に戻りますか。
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