それから

元旦に結婚の約束をした。


「これから先は二人で力を合わせて頑張っていきなさい」


お父さんはそう言ってくれた。

もう、絶対に心配をかけたくない。


_____私は誠君と幸せになる




結婚式はしないつもりだったけど、誠君がどうしても花嫁姿をお父さんに見せたいからと、身内だけの食事会のようなパーティーをすることにした。

一生懸命働いて、結婚の資金を貯金した。


「ヒロ、やっぱりこっちのドレスの方が可愛いよ」

「えー、私はこっちがいいけどなぁ」

「じゃあ、両方着る?」

「ダメダメ、そんな予算ないから」

「俺はなんでもいいからその分、ヒロがお色直しすればいいよ」

「ダメです、これにしましょ、ね?」

「わかった、ヒロが好きなドレスでいいよ」


二人で貯金したお金で、最低限の生活必需品を買った。

アパートも探した。


カーテンをつけて、テーブルを置いて、冷蔵庫とレンジ。

小さな食器棚には、おそろいの二人分のカップやお皿が並べられた。


10月になって、小さな結婚式を挙げた。

私の家族と、溝口君と、誠君の会社の先輩が来てくれた。


「おい、誠!しっかり神谷かみやじゃなかった、浩美をつかまえとけよ!お前にはハンデがあるんだからな」

「ハンデ?あ、うん、わかってる」


溝口君は、ブラジルでのことを言ってるのだろうな。


「はじめまして、浩美さん。誠は真面目でまっすぐな奴です。なんか過去にやらかしたらしいけど、これからは俺がしっかり見張るんで安心してください」

「はい、これからよろしくお願いしますね」


誠君の職場の先輩は、優しそうな人だった。


「浩美、おめでとう!綺麗な花嫁さんね」

「ありがとう、お母さん」

「姉ちゃんも、ドレスを着ればちゃんと花嫁に見えるよ」

「もう、失礼ね」

「お義兄さんにも挨拶しとくかな」

「仲良くしてね」


「浩美、おめでとう!綺麗だよ」

「お父さん…」


ダブルのスーツを着て、赤い顔でシャンパンを手にしている。

ぽんぽんと私の頭を撫でてくれる大きな手。

私は何度、この手に温もりをもらったのだろう?


「ありがとう…お父さん。私、絶対幸せになるから、安心して見てて」

「あー、楽しみにしとくよ」


うんうんとうなづいているお父さん。


指輪の交換をして、みんなで写真を撮った。

お店の人に頼んで、何枚も写真を撮ってもらった。


この日が、私の人生で一番の幸せな日だった。


_____これからもっと、幸せになる



…はずだった。


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