つながる

二次会のお店を抜け出して、少し歩いて喫茶店に入った。


「ごめんね、無理矢理連れ出しちゃって」

「いや、いいよ。俺もヒロと話したいと思ってたから」


ミルクティーを二つ注文する。


_____えっと、何から話そう?


勢いよく飛び出してきたけど、話すことを考えていなかった。


「よかったよ、ヒロが元気になっていて」


沈黙してしまった空気を破るように、大きめの声で誠君が言った。


「同窓会の実行委員に、ヒロの名前を見つけた時、めちゃくちゃうれしかったんだ。そういうことができるようになったんだって、安心した。だから、参加することにしたんだ」


そうか。

誠君が支えてくれていた頃の私なら、きっと実行委員なんかできなかっただろうなと思い出す。


「実行委員はね、溝口君が誘ってくれて、そして私はたいしたことしてないからできたんだよ」

「そうか。でも、前進してるよ?ヒロは。俺が知らないうちに」


誠君に言われて気づいたけど、私は前へ進んでたんだ。

仕事を辞めて、うまくコミュニケーションがとれなくなって何もかもが怖いと感じていた時は、誠君がずっとそばにいてくれたから安心していられた。

その後は、誠君がブラジルに行ってしまってまた一人になったけど、誠君が帰ってくるまでにはちゃんと自立したいと頑張った。


「私でも、前進できていたんだ…言われて気付いたよ」

「俺がそばで見ていたかったけど…俺の弱さがヒロを追い詰めてしまったんじゃないかと思ってたんだ…。そうか、溝口が助けてくれたのか」

「あ、勘違いしないでね。溝口君は誠君と私のことを知ってる友人として助けてくれてるだけだし。溝口君には、可愛い彼女もいるし」

「そっか…」


そしてまた沈黙。


ミルクティーを半分ほど飲んで、やっと私は自分が聞きたいことを思い出した。


「誠君は?誠君は今どうしてるの?」

「俺?俺は今一人で暮らしてるよ。母さんが春に死んじゃって。エレナとペドロも出て行ったよ」

「出て行ったの?恋人が見つかったってこと?」

「うーん、多分違うブラジル人だと思うけど、恋人と暮らすって行って6月には出て行った。それからは一人だよ」

「さびしい?」

「寂しくないことはない、でも、だからって誰かと暮らしを共にするのは今はまだできないよ。また傷つけてしまうかもしれないし」

「…そうだね」


また沈黙。


「あ、そうだ、俺、携帯買ったんだよ。仕事にも必要になったから。これ、番号」


そう言いながらポケットから出したメモの裏に、11桁の番号を書いてくれた。


「何かあったら、連絡して。ものすごい速さですっ飛んで行くから」

「あ、うん、ありがとう」

「今日は参加してよかったよ。ヒロが元気になってる姿を確認できたらそれでいいと思ってたけど、こうやって話もできたし」


腕時計で時間を確認している誠君を見て、チクリと心が痛んだ。


_____まだ帰りたくない、もう少しこのままいたい


「そろそろ行こうか?」


席を立つ誠君。


「あっ、あの、」

「どうした?」

「困ったことがなくても、電話してもいいかな?」


心臓がバクバクしている。


_____私はやっぱり誠君が好きだ


「いいよ、いつでも」


そう言いながら私の頭をポンポンとしてくれた。


「あっ!でも仕事で出られない時は、ホントごめん!」

「わかってる、そんな無茶は言わないよ」


また繋がれたということに、心底ホッとした。





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