第226話 直接、私の手で殺してやる
セラビミアに指摘されるまでもなく、間違いなく俺は間抜けだった。
地上から空中都市に移動する魔方陣の起動には魔力が必要だったのだから、制御センターへの入室や施設のコントロールにも魔力を使うと気づくべきだったのだ。
「魔力制御の首輪は、魔法の発動や身体能力強化の邪魔をするだけで、純粋な魔力の放出は無視する仕組みなんだよ」
だから行き先を変えられたと。
悪魔のように笑いやがって!
「早く止めろ!」
「もう遅い。見て、見てっ!」
セラビミアが指さした画面に視線を移す。
なんと、数百もの魔物が空中都市から飛び出て、地上に向かっていた。
中にはドラゴンの姿もある。
人材が豊富な公爵領といえども、奇襲されたらひとたまりもない。
甚大な被害が出るだろう。
「当主が不在で、頼れるのは新勇者だけ。どうなるか楽しみだね」
設定を狂わせる存在を許せないセラビミアは、レックスを見逃すつもりはないようだ。
追い詰めて表舞台に出すために、空中都市を利用している。
誰にも狙われず、贅沢な暮らしができる場所を手に入れたと思ったのだが、どうやら諦めなければいけないようだ。
「あ、騎士たちが出てきたよ。でも数人しかいないから、組織的な動きはできないね」
地上を映し出す画面には、屋敷から出てきた騎士たちの姿があった。
人数は五人程度だろうか。
魔物の数に比べて圧倒的に少ない。
騎士団を集めても勝てるかわからない相手なのだから、すぐに殺されて終わる……って、おい! あいつら逃げ出しやがったッ。
「あはは! おかしいね! 守るべきものを捨てて、どこに行くつもりなんだろう」
はしゃいでいるように見えるが、セラビミアの目だけは違った。
鋭く、騎士たちを見つめている。
「騎士は戦うために存在しているんだよ。魔物と戦わずに逃げるなんて許さない。神の怒りを知れ」
パネルを操作している。
何をするかわかったので、止めようとして腕を掴んだ。
「他のヤツらも巻き込むぞ」
「別に良いよ。モブの代わりは、いくらでもいるから」
「お前にとってはどうでもいいキャラなのかもしれないが、この世界の住民にとっては違うぞ」
「だから何?」
すでに攻撃命令は出し終わっていたようで、リーム公爵の屋敷にワイバーンを焼き尽くした火球がいくつも落ちた。
地面に接触すると、爆発。
大きな穴が空き、爆風が屋敷や騎士たちを焼いていく。
「ほら、モブが死んでいったよ」
「セラビミア……」
セラビミアは空虚な笑いをしていた。
お前、本当は気づいているんだろ?
この世界の住民はキャラクターでなく、自分で考え、行動する、自立した人たちだと。
認めたくないからって、後戻りできない道を進むなよ。
「止めたいなら私を殺すしかないよ」
そう言われたのと同時に、ヴァンパイア・ソードを構えた。
セラビミアが死ねばこれ以上の被害は拡大しないだろうが、空中都市が操作不能となる。
魔物の襲撃は止められないのだ。
もしかしたらレックスが操作できるかもしれないが、俺の言うことなんて聞かないだろうし、欲望に負けて世界統一を目指すかもしれない。
それだったら、まだセラビミアが操作している方がマシだ。
「魔物を止めろ」
「レックスを殺したらね」
「…………」
どうすれば止められるか必死に考えるが、すぐに答えは出そうにない。
「それにほら、もうすぐ終わるよ」
映像を見ると、レックスがリーム公爵の屋敷から出てきたところだった。
予想していたとおり、まだ滞在していたみたいだな。
セラビミアと同じ雷系の魔法を使って、飛んでいる魔物を攻撃している。
なかなかの攻撃力があるみたいで、何匹かは墜落していく。
さらに変化は続き、魔物が同士討ちを始めた。
「魅了の瞳ね」
つまらなさそうにつぶやきながら、セラビミアは画面を見ている。
「レックスも勇者一族なのか?」
「だと思うよ。雷系は勇者の血を引いてなければ使えないから。けど、強さは私の半分以下。勇者と呼ぶには弱すぎるけどね」
と言っているが、レックスの強さはなかなかのものだ。
生き残っていた騎士たちの士気は戻り、魔物との戦いに参加している。
さらにはリーム公爵の私兵と思われる人たちも参戦し、戦況は膠着し始めていた。
何度か火球を落としてるのだが、魅了の瞳というやつで魔物を操作して体当たりさせ、空中で爆発している。
「さっさと死んでくれないかなー」
つま先を床に何度も叩きつけているので、苛立ちを感じているようだ。
映像を見ていると、レックスは仲間を連れてドラゴンの背に乗った。
翼を広げ上昇すると、こちらに向かってくる。
諸悪の根源である空中都市を破壊しにきたんだろう。
ゲームで例えるなら、ラストダンジョンに向かう主人公ってところか?
魔物を操って人を殺しているので、大きく間違っていると言うわけではないだろう。
「いいよ。その挑戦受けて立つ。直接、私の手で殺してやる」
「魔力を封印されているのにか?」
「安心して。魔法や身体能力強化が使えなくても、私は最強だから」
別にセラビミアの心配をしたわけではないのだが。
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