第163話 確保ーーーっ!!

「子供は……用意できるか分からんが、すぐに使える男は連れてこよう」


 種族を維持するための危機、ということであれば即戦力――成人男性の方が好まれるだろ。


 子供は優先度低めに設定して、将来、孤児が増えるようであれば派遣も考えてやる程度にしておこう。


「大口を叩くのはかまわんが、本当に用意できるのか?」


 相手は俺の素性を知らないこともあって、疑わしそうな目で見ていた。


 ただの平民や冒険者では難しい。


 また奴隷商だったら、アラクネは自分たちが売られることを警戒しなければならなかっただろう。


 そう言った意味では、領地持ちの貴族であり、まともに取引しようと思っている俺と出会えて運が良かったと言えるな。


「当然だ。俺はこの地域一帯を治めている領主だからな」


 この場で証明できるものはないが、自信ありげに答えた。


 ドライアドが紹介ということで、信じてくれれば良いのだが……。


「領主って何だ?」


 まさか単語の意味が通じないとはッ!!


 隔絶された世界で生きていたこともあって、知識に偏りがあるみたいだな。


 面倒だが説明しなければならんぞ。


「広大な土地と、そこに住む人々を管理する立場である人物だな。仕事内容は……族長と似たようなもんだ」


「ほう。お前、偉かったんだな」


「だから、男を用意するぐらいできる」


 ようやく理解してくれたようで、アラクネは納得したような表情を浮かべた。


 やっと、取引ができる。


「だがタダじゃないぞ? 対価をもらいたい」


「当然だな。お前は何を求める?」


 話が分かる相手で良かった。


 一方的に搾取してくるようであれば、集落をつぶしてアラクネを奴隷にしなければならなかったからな。


 相手は抵抗してくるだろうし、奴隷にできても禍根は残る。


 自主的に、そして喜んで働いてもらったほうが、俺の利益は最大化されるだろう。


「アラクネの糸や生地だ」


「そんなんでいいのか?」


 俺たちにとっては貴重品でも、アラクネにとってはそうでもないようだった。


 反応からして日常品みたいな扱いなんだろう。


「アラクネ以外には作れないからな」


「ふむ、私たちにとっての男みたいな扱いか」


「微妙な例えだが大きく外れてはない」


「なるほど、よい取引ができそうだな。詳細は集落に入って話し合おう」


 初手の話し合いは上手くいったようだ。


 あとは交換レートを決めて、ゆくゆくは金で買い取れるようにしたいな。


 外界から遮断されていた小さな集落であれば、金の価値を教えるところから始めないといけない。


 先は長そうだ。


「私はアラクネの族長、トリシュ。お前は?」


「俺はジャック・ジラール。特別にジャックと呼んで良いぞ」


「分かった。それではジャック、私に付いてこい」


 背を向けたトリシュが、蜘蛛の足を器用に動かして歩き出した。


「二人とも……」


 護衛として前にいたアデーレとユリアンヌの肩に手を置いてから、顔を近づける。


「アデーレは俺の護衛、ユリアンヌはグイントと一緒に集落の様子を確認してくれ。特にアラクネの戦闘能力や文明レベルは把握しておきたい」


 領内に未確認の部族がいたのだ。


 敵対していない今だからこそ、戦力調査を済ませておきたい。


 文明レベルも把握できれば、男以外にも交易対象になりそうな商品が出てくるかもしれんしな。


 戦うにしても、友好的な交流をするにしても、相手の把握は必須である。


「旦那様の命令であれば……」


 護衛に選ばれず、ユリアンヌは落ち込んでいそうな声を出した。


 今はトリシュとの交渉を優先したいから、後でフォローでもしておくか。



 俺たちも歩き出して門をくぐり抜けて集落の中に入った。


 糸を使って木の上で住んでいるかもと思ったが、家は地面の上にある。


 デザインは田舎村の家といった感じなのだが、とにかくサイズが大きい。


 入り口なんて人が三人~四人ほど横に並んでも余裕がありそうなほどの幅がある。


 下半身が大きい影響なんだろうな。


 ぱっと見で、家は十軒ほどあって、外にいるアラクネは三人ほど。


 全員が若く、黒い髪をしている。


 もちろん全員女。


 アラクネの糸で作られたと思われる服は、光沢があって手触りが良さそうだ。


 真っ白で汚れない点も注目していて、花嫁衣装にも使えそうである。


「え、あれ、男じゃない!?」


「オスって感じの匂いがする!!」


「私、初めて見たよ!」


 集落にいるアラクネたちと目があった。


 驚き、しばらくして歓喜の表情に変わる。


 魔力を開放しているらしく威圧感もあって、身の危険を覚えてしまう。


「確保ーーーっ!!」


 アラクネの一人が叫ぶと、残りの二人が飛びかかってきた。


 百年単位で男を求めていた種族を侮っていた。


 まさか、見た瞬間に襲いかかってくるとは。


「旦那様に手を出させません!」


 いち早く反応したユリアンヌが短槍をくるりと回転させ、石突きをアラクネの腹に当てた。


 普通の人間であれば吹き飛ぶぐらいの威力ではあったが、アラクネは数歩後ずさるだけ。


 アラクネは足を上げ、鋭い先端で反撃してきたので、ユリアンヌは後ろに下がって回避。


 追撃しようとアラクネが前に進もうとして……糸に巻き付かれて倒れてしまった。


「客人に手を出すんじゃない!」


 どうやらトリシュが、下半身から蜘蛛の糸を出して絡め取ったらしい。


 襲ってきたもう一人のアラクネも糸で簀巻き状態になっている。


 俺たちを見つけて叫んだヤツは口を塞がれていた。


 一回に放出する量が多い。


 助けられたことより、思っていたより糸の生産量は高そうといったことにばかり目が行っていた。




========

【あとがき】

毎日薬を10錠弱飲んでいるのですが、まだ体調不良が続いています……。

もう、しばらくは現在の状況が続いてしまいそうです。


そんな流れからの宣伝です(何回もごめんなさい……)。

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