第108話 旦那様、どうして賞金首の確認が必要なので?

「仕事の結果を報告しろ。先ずはユリアンヌからだ」


 ルミエのおかげで二人が落ち着いたので、本来の話をするべく命令した。


「商人に偽装した馬車を襲ってきた野盗たちを全て殺しました! こちらの被害はございません!」


「そいつらはただ野盗だったのか?」


「戦闘にはなれていない様子でした。他国の兵や騎士が偽装して荒らしていたという線は薄いと思います」


 デュラーク男爵が私兵を使って工作を始めたわけではなさそうだな。


 もしかしたら金を握らせてならず者をよこした可能性は残るが、生かして拷問にかけたところでロクな情報は手に入らなかっただろう。


 むしろ嘘の情報に惑わされた可能性もあるので、皆殺しにしたという判断は完全に間違っているとは言えない。


「死体の身元確認は進んでいるか?」


「野盗の一人は昔、第一村から出て行った村人だったようです」


「理由は口減らしか?」


 少し前まで重税で、みんなが死にかけていたからな。


 隠し畑があったとはいえ、食糧確保のために人を減らすぐらいのことはしていただろう。


「いえ、冒険者になると言って出て行った青年だっと聞いています」


 冒険者には誰でもなれるが、だからこそ稼げるようになるのが難しい。


 戦う技術を持っていなければ魔物なんて倒せないので雑用しかできず、その日暮らしすら難しいとも聞く。


 夢破れた仲間を集めて野盗に落ちた。


 あり得る話ではあるな。


「よく分かった。引き続き身元の確認を進めてくれ」


「はい!」


 ユリアンヌの話が終わったので続いてアデーレに話かける。


「そっちは、どうだった?」


「臭いと音でアジトを見つけて全員殺しました」


 アデーレも皆殺しか。


 ……少し殺意が高いな。


「山賊の他には女性の死体が一つありました」


「被害を受けた女がいたのか」


 第一村に人的被害はなかったと聞いている。


 他の村からも誘拐や行方不明の話は聞いていないので、領内で襲われた可能性は低い。


「別の領地から攫ってきたんだと思います」


 という結論になるよな。


 するとアデーレが殺した野盗の方は、ジラール領で食えなくなったヤツらが集まった集団ではなさそうである。


「理由は?」


「近くに破り捨てられた服はありましたが、村人が着るものより高価でした」


 みすぼらしい服装で生活している俺の領民とは違う、というわけか。


 説得力はあるな。


 第一村から伸びる街道に隣接している領地は、デュラーク領の他、子爵領が二つある。


 第四村は未開の森が広がっているし、第三や第二の先には険しい山が続いている。


 魔物や移動になれた冒険者ならともかく、足手まといとなる女を連れた状態で超えられるとは思えない。


 野盗どもがきた方向は、自ずと絞り込まれる。


「森を使って関所を通らず、俺の領地に移動したな」


「他領で賞金がかかっているかもしれん。確認してこい! もし似顔絵に一致するヤツがいたら、首を持ってくるんだ」


「任せて下さい!」


 アデーレはすぐに天幕から飛び出ると、そのまま去って行った。


 他領から回ってきた手配書を手に入れてから、殺した野盗たちの顔を確認してくるだろう。


「旦那様、どうして賞金首の確認が必要なので?」


「もしデュラーク領で指名手配されている犯罪者がジラール領にいるとわかれば、私兵を派遣する口実になるからな」


 うちで悪さをした凶悪犯がジラール領に行ってしまいました。


 このまま逃げられてしまうと家の沽券に関わります。


 金を払うから私兵を派遣させてくれ。


 といった感じのお願いが来るだろうな。


 断っても罰則はないのだが、相手が納得するような理由のない場合、関係がさらに悪化してしまう。


 嫌がらせが増えるだろうし、最悪の場合は面子を潰されたと言って私兵を連れて乗り込んでくるかもしれない。


 相手も男爵なので私兵は多くないだろうから、傭兵でも雇って圧力をかけてくるかもしれん。


 最悪の場合は、本格的な領地争いに発展する。


 王家や勇者が仲介に入るか、最悪はどちらかが滅ぶまで終わらない戦いの始まりだ。


 ジラール領にそこまでの体力は残っていないので、つけ込む隙を排除してやり過ごす方法をとりたい。


「そういうことですか……。ですが、旦那様が心配するほどではないかもしれません」


「どいうことだ?」


「お父様のような騎士は一人しか抱えておりませんし、私兵の数は百程度と聞いております」


 すべてヨン卿から聞いた話だろうが、俺が知っている情報より正確だろう。


 戦力の差は思ったより大きくない。


 残る問題は資金力だな。


「傭兵は、どのぐらい雇えそうなんだ?」


 ゲームでも兵が足りなければ、金を使って傭兵を戦場に出して戦っていた。


 特に初期の頃は有力なキャラクターが手元にないので、使い捨ての駒としてよく利用していたっけな。


 デュラーク男爵だって同じ方法を使うだろう。


「資金に余裕はないと聞いています。借金で身動きが取れないという噂も流れているので、傭兵を雇えたとしても数日が限界だと思います」


 傭兵は期間契約が基本だから、期日が過ぎてしまえば戦力としては使えない。


 もし現在もユリアンヌの言う状況が続いているのであれば、いきなり攻めてくるような蛮行をしては来ないだろう。


 意外に俺には余裕がありそうだ。


「ありがとう。助かった」

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