第29話 俺の所にこい!
「うぉおおお!!」
叫び声を上げながら無理矢理体を動かして跳躍し、レッサー・アースドラゴンの尻尾をやりすごす。
先ほど使った魔法で魔力の大半は消し飛んでいるし、他にも魔法を使う予定なので、魔力を使った身体能力強化はできない。
攻撃ではなく時間稼ぎに専念するか。
連続で爪を振るって攻撃してきたので、後ろに下がって回避する。
距離は十分に取ったはずだったが、どうやら攻撃の範囲内らしい。
レッサー・アースドラゴンは体を伸ばして噛みついてきたのだ。
慌てて横に飛んで転がる。
立ち上がって自分のいた場所を見ると、地面がえぐり取られていたおり、レッサー・アースドラゴンの口の中には土が入っていた。
顎を上下に動かしているので土でも食ってるのかと思ったが、なんと俺に向けて土の塊を放ちやがったッ!
不意打ちだったので回避は不可能。
魔法を使う時間はない。
だが、絶望はしていなかった。
「ジャック様ーーーー!」
俺の目の前にアデーレが立つと、双剣を巧みに使って土の塊を受け流す。
軌道がそれた土の塊は小さなクレーターを作って、地面にめり込んでいた。
アデーレが助けにくる姿が見えたので、俺は同人ゲームにあった好感度システムを信じて賭に出たのだ。
結果は成功。
目には見えないが、好感度が高ければ命の危機があっても俺を助けてくれるようである。
「よくやった。同時に攻撃するぞ!」
「はいッ!!」
腕のしびれは、とれた。
俺は右、アデーレは左にわかれてレッサー・アースドラゴンを双剣で攻撃する。
上から尻尾が振ってきたので、右に飛んで回避。
地面にめり込んでいたので突き刺してみたが、手に残ったのは硬質な感触のみ。
攻撃に使っている尻尾は特に堅いんだろうが、それでも攻撃が通じない悔しさは残る。
「私のジャック様に攻撃するなんて! 許さないッ!!」
アデーレは牙や前足の攻撃を避けながら懐に飛び込み、腹の肉を斬り裂いていた。
傷は深くないが両手に持った双剣で、いくつもの傷を作っていく。
俺は傷を付けることすら出来なかったのに。
圧倒的な実力差があると実感してしまい、強敵を前にして悔しさがこみ上げてくる。
力がなければ奪われる人生になってしまうだろう。
また絶望した生活は送りたくないので、もっと力をつけなければ――。
「ジャック様! 危ない!」
アデーレの声で、俺は周囲を見ていないことに気づいた。
目の前に尻尾が迫っている。
魔法は間に合わない!
ヒュドラの双剣を体の前に滑り込ませたが、直撃してしまい吹き飛ばされてしまう。
防護柵に衝突すると破壊してゴロゴロと地面を転がった。
「ガハッ」
口から血が出た。
全身がバラバラになったんじゃないかと思うほど痛い。
が、生きている。
俺を狙った攻撃ではなかったのだろう。
運が良かった。
「ジャック様! 大丈夫ですか!」
顔を真っ青にしたケヴィンが駆け寄ってきたので、手を前に出して止める。
額から流れ流れ落ちる血を拭ってから、ヒュドラの双剣を杖のように使って立ち上がった。
「問題ない。そろそろ次の作戦に移行する。すぐに動け!」
痛みに耐えながら大声で命令した。
「か、かしこまりました!」
気迫に押し負けたのか、ケヴィンは防護柵で待機していた兵を連れて去って行く。
リザードマンたちは動いていないようだ。
レッサー・アースドラゴンの戦いに巻き込まれたくないとでも思っているのだろう。
まあ、仮に攻めてきたとしても残っている冒険者に任せればいいか。
ギルド長のメイソンもいるみたいだし、人数は減ったがなんとかなるだろう。
「アデーレ! 俺の所にこい!」
一人で戦っていたこともあって傷だらけになっていた。
バックステップで距離を大きく取ると、アデーレが俺に向かってくる。
傷をつけられて怒り狂っているレッサー・アースドラゴンは、当然のように追ってきた。
リザードマンが命令するような声を上げているが、無視している。
どうやら怒りによってコントロール不能になったようだ。
合流してからアデーレと一緒に走り出す。
向かう先は村の中心。
穴が空いていた場所は蓋がされていて、今は見えない。
俺と一緒にアデーレが落とし穴の上に立った。
「グガアアアアア!!」
涎を垂らしながらレッサー・アースドラゴンが叫んだ。
腹や喉にいくつもの切り傷がある。
アデーレのおかげで計画通りに進んでいた。
「ジャック様……」
不安そうな目で見ているアデーレを抱きしめた。
別に安心させるためではない。
逃げるために必要だからである。
レッサー・アースドラゴンは目の前にくると、口を大きく開けて飲み込もうとする。
「グア!?」
急に地面が消失して落下していった。
『シャドウウォーク』
巻き込まれそうになった俺たちは、影の中を移動して落とし穴の外に出た。
二人分だったこともあって、残っていた魔力のほとんどを使ってしまった。
目眩がして膝をついてしまう。
傷の具合も悪いので意識を失いそうになるが、必死に耐える。
作戦が成功するか見届けなければいけないからだ。
「大樽を投げ込め! ジャック様の働きを無駄にするんじゃないぞ!!」
鬼の形相で叫んでいるのはケヴィンだ。
兵たちは落とし穴に大樽を投げ込んでいく。
動きは洗練されていて、何度も繰り返し練習していたことを物語っていた。
「止まるなッ!」
「急げ!」
「途中で落とすなよッ!!」
落とし穴では大したダメージを与えられなかったようで、レッサー・アースドラゴンは、穴から出ようとしている。
頭に大樽が当たると、割れて中に入っていた水が飛び散った。
目にもかかったようだ。
地面に落ちた大樽も水をぶちまけて、レッサー・アースドラゴンを濡らしていく。
「これで、本当に倒せるのでしょうか?」
不安そうに呟いたアデーレの頭を撫でた。
俺だってわからないが、そんな素振りを見せるわけにはいかない。
「当たり前だろ。俺が計画したんだ。別案もあるんだし、最後は必ず勝てる」
「そうですよね! さすがジャック様です!」
まったくもって素直なヤツだ。
こんなんじゃ、いつか悪い男に騙されて酷い目にあうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます