第19話 早く服をきてくれ!
いい感じに酔ってきた。
頭がふわふわして気分がよい。
ベッドの上で横になって目を閉じる。
日本では椅子で寝ていることも多かったので、文明が劣るであろうこの世界のほうが快適に眠れている。
慌ただしい日々を過ごしていたこともあって、前世の記憶も薄れてきた。
俺は本当に日本という国で辛い経験をして死に、同人ゲームの世界に転生したのだろうか?
そんな疑問が浮かんでくるほどである。
いったい俺は何者なんだ?
考えてみるが答えは出ない。
酔っているせいか過去のこと思い出しそうだったので、そのまま眠ることにした。
◇ ◇ ◇
「…………様、ジャ……様!」
うるさいな!
もっと寝ていたいんだから放置してくれ。
肩を揺らす手をはねのけてから、枕を頭に乗せて完全に無視するモードに入る。
それでも相手は諦めないようで、体を揺さぶってくる。
当主である俺に嫌がらせをするだなんていい度胸じゃないか。
絶対に無視してやるッ!
俺は惰眠をむさぼるんだ!
しばらく抵抗していると我慢比べに勝ったようで、手が離れていった。
「……起きないなら。いいかな?」
生地のこすれる音が聞こえたかと思うと、誰だか知らんが俺のベッドに入ってきやがった!
寝込みを襲ってくるだなんていい根性をしている。
どこの誰かかわからんが教育しなおしてやろう。
目を開けて相手の顔を見る。
「アデーレ……?」
「おはようございます」
周囲の調査に行った彼女がなぜここにいる?
いやいや、その前に、だ。
なぜ下着姿でベッドに入っているんだ?
いくら犬要素があるからって、主人である俺と一緒に寝ようとするか!?
同人ゲームにそんなシーンはなかった……ん? そういえば『悪徳貴族の生存戦略』にはR15要素もあったな。
妻に不倫されて女性不信に陥ったので、恋愛系イベントはスキップしていたが、好感度が最大値になるとヒロインごとに、ちょいエロイベントがあったな。
もしかしてアデーレの場合はベッドに入ってくるような――って、いやいや、冷静に分析している暇なんてない!
そもそもの話だ、この状態はマズイ!
こんな所をケヴィンや兵に見られたら、好感度なんて著しく下がってしまうッ!!
まだ酔いが残っていて使い物にならない頭をフル回転させて出た答えは、単純なものだった。
急いでベッドから出ると椅子に座る。
よし! これで、仕事中に女とイチャイチャしているクソ領主という評判はさけられ……。
「もう起きちゃうんですか?」
黒いパンツと同色のブラジャーのような布だけを身につけたアデーレが、ベッドから立ち上がった。
椅子に座ったから問題は解決したと思ったのだが、どうやら違ったようだ。
仕事場に下着姿の女がいるだけで、クソ領主に見えてしまう。
「早く服をきてくれ!」
「あ! 申し訳ありません。忘れてました」
下着姿だったことを忘れていたアデーレは、俺に謝ってから服を着る。
さらに支給した魔法に対する防御能力が高いミスリルの胸当てやブーツなども身につけていく。
ようやく普段の姿になったところで、テントにケヴィンが入ってきた。
危ない。
間一髪だったな……。
「ここにいらっしゃったんですか?」
なんだかサボっていることを咎めるような言い方だな。
気にいらん。
「必要な指示は出したからな」
「ですが、いつ襲ってくるかわかりません。お酒を飲んでよい状況ではございません」
ケヴィンの視線は、テーブルの上に置かれたワイングラスに固定されていた。
俺だって死にたくはない。
襲われる可能性があるなら酒なんて飲まねーよ。
リザードマンが第三村に来るのには時間がかかる。
その確信があるから、今日は酔うほどワインを飲んでいたんだ。
「リザードマンは慎重に動く種族だ。今は第三村を滅ぼすために戦力を整え、こちらを偵察していることだろう」
「魔物にそんな知能が?」
「ある。むしろ無策で特攻すると考えているのであれば、ケヴィンの方が油断している」
断言できるのは、サブクエの内容を覚えているからである。
ゲーム内では兵を派遣すると、警戒されて数日は平和だったのだ。
すぐに襲ってくる可能性はゼロだと考えていいだろう。
「アデーレ。偵察の結果は?」
「ゴブリンが数匹いたので処分しておきました」
リザードマンも偵察を放って情報を集めていたか。
やはり慎重な種族というのは、現実になっても変わらないようだ。
「よくやった」
褒めるとアデーレは、俺の近くにきて頭を前に出した。
……撫でろとアピールしているのか。
これからもっと活躍してもらう予定なので、機嫌は取っておくべきだろう。
紅い髪を撫でながらケヴィンとの話を続ける。
「アデーレが倒したゴブリンはリザードマンが放った偵察部隊だろう。俺たちの戦力を調べていたはずだ」
「……なるほど。ジャック様の言うとおり、多少の知能は持ち合わせているようですね。兵長には哨戒を徹底するよう伝えておきます」
「それでいい。頼んだぞ」
これでケヴィンはテントから出て行ってくれるだろうと思ったのだが、羊皮紙の束をテーブルに置いて俺を見たままだ。
「これは何だ?」
「隠し畑の報告書です。ご確認ください」
仕事早すぎだろ!
もう少しノンビリしたかったのだが、サボってしまえばケヴィンの好感度は下がってしまう。
仕方ないが働くとしよう。
頭を撫でながら羊皮紙を手に取って、内容を確認することにした。
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