26



side. Akihito




「怪我…良くねぇのか?」


様子を見る限り、

明らかに仮病だと判っていたが。


ここで焦っても仕方ないからと、俺は慎重に言葉を紡ぐ。





「う、ううん…それは平気…」



嘘を吐かれると思ったが、

保は意外にもすんなり否定して。


結果的に、より気まずい沈黙へと陥るハメになった。







不良相手のタイマンとかなら、なんてことねぇのに。


俺はこういった雰囲気には、とことん弱く。

意を決しここまでやって来たものの、どうして良いのかが判らなくて。


歯痒くも、グシャグシャと頭を掻くしか術がない。







「そのっ…悪かったな。、しちまって…」


保が俺を避けてる原因なんて、あの日のキスしかねぇだろうから…。場の空気に耐えかね、思わず自ら切り出し…謝罪を口にしたんだけど。



それを聞いた途端、膝を抱える保は。

露骨に顔を強ばらせると…背中を震わせ、俯いてしまった。




それでも俺は、バカのひとつ覚えみたいな台詞しか浮かばず。


更に保を、追い詰めてしまうことになる。








「どうかしてた…お前の気持ち知ってんのに、ノリであんなコト…」


「………でよ…」


「保…?」



顔は伏せたまま、

途切れ途切れに保の声が聞こえたかと思えば────







「謝らないでよっ…!!分かってるなら、なんで…僕がどれだけっ…」


向けられた顔は真っ赤になり、涙を流し激昂する保。



溜まりに溜まった感情が、

俺の軽率な一言を引き金に溢れ出し、



止まらない…







「お礼って何?謝るくらいなら、あんなキスなんかしないでよっ!キミが優しくする度、僕がどれだけドキドキして振り回されてるかっ…」


「……………」


「その気もないクセに、友達からなんて言わないで…さっさと切り捨ててくれれば良かったんだ!!」


「キミが僕を甘やかすからっ…キスなんてするから…」



前よりもっともっと、

好きになっちゃったじゃないか…







「たも、つ……」


取り乱し泣き叫ぶ保に手を伸ばしかけ、止める。



俺の行動全てが、保の身に重くのし掛かり、

苦しめてしまうのなら…


この手は伸ばしてはいけない。


触れる事など許されない。







「キミはどうかしてただけかもしれないよ?でも僕にはそんな気まぐれ、通用しないっ…」



だってだって、僕はキミが、





「好き、なんだからっ…!」


そう言って自ら俺の胸に縋り付く保。

向こうからの不意な接触に、心臓が馬鹿みたいに早鐘を打った。


思わず息を飲み、さっき仕舞い込んだ手を再度持ち上げると…


手探りで、ゆっくりと包み込む。





すると保は、ぴくんと小さく肩を揺らしながらも、

更に頭を強く擦り寄せてくると…


子どもみたいに声を上げ、泣き始めてしまった。

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