エピローグ

「さて、と……」

 

 タバコの匂いが充満する一室。


「目下最大の問題はこれよな」

 

 その一室の一席に腰を下ろした初老の男が円卓のテーブルに置かれている書類を指さす。

 その書類にはとある一人の少年の写真が乗せられていた。

 仮面を被った黒衣の少年。


「世界はこれの脅威で大騒ぎだ。我が国で起こった世界最大規模のテロ事件よりも遥かに注目されていると言っても良い」


「……全く。どういう原理で別に大きくともない存在が世界中の全生命に己の姿と恐怖を植え付けられるというのか。まるで理解出来ない」


「各国がこの人物の情報を熱心に求めている。……何か情報はあったのか?玲奈」 

 

 席に座っている沢山の初老の男たちと少数の初老の女たちが入り口に立っている一人の女性、玲奈へと視線を送る。


「我々が入手している情報の全てがその書類です」

 

 玲奈の答えは簡潔。

 それを聞いて

 書類に記載されているのは顔写真と推定身長、刀を持って戦うということのみ。

 もはや何の情報もないと言っても過言ではなかった。


「我々は未だ何も有益な情報を得られていません」


「そうか。では、早急にこの者の情報をかき集めるように。海外の組織が調査班の派兵を行うという打診も来ている。必要であれば要請を受けるが?」


「いえ。海外の人間は必要ありません。我が国の対ダンジョン能力は世界的に見ても最上位であり、我が国の領土的性質は他国とは異質です。他国の人間が来ても困惑し、有効的な動きを見せることができないでしょう」


「なるほど……それでは海外には断りを入れておこう。汝らの働きぶりをこれからも期待している」

 

 円卓会議。

 日本の政府高官が集まるこの一室で、とある一人の少年の議論が交わされていた。


「この人物の調査はダンジョン開発の新たなる一歩となる可能性が高い。これだけ人の理から外れた存在なのだ。ダンジョンを作り出した人物である可能性が高いと我らは踏んでいる。汝ら機関の調査を心より期待している」

 

 

 

 

 日本の首都。

 政治を担う最重要機関の会議で熱心に話される人物。

 ダンジョンを作り出した張本人。物語であればラスボスのような存在であると目されている少年。

 そんな少年は今。


「あっ。すっぱ。蟻すっぱい……大して腹も膨れないし、食べる価値はないかな。やっぱりセミが一番なんよな。早く夏来ないかなぁ……」

 

 課金しすぎて食べ物を買うお金もなくなり、飢えを凌ぐために公園で虫を貪っていた。

 ダンジョンを作り出した張本人?ラスボス?

 勘違いもいいとこだった。

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