第14話「優しい麦」
数日前。それは喫茶ニシキノが窃盗事件に巻き込まれる前。
深夜二時。人気のない喫茶店近くの公園で日向はレシピ本脱却の協力者…北条(ほうじょう)麦と出会う。
「来た来た。安心した…来てくれないと思ったから」
「…はぁ…はぁ…すいません。電車止まってしまってて…走って来ました…」
肩で息をし、こちらに駆け寄ってくる少女は「すいません」と何度も頭を下げた。
「まぁ、良し。許す」
と、言い切ると日向は句読点の代わりに優しい笑みを投げかけた。
端(はた)から見た人物は彼女が今から窃盗事件を起こすとは思わないだろう。
「じゃ、さっそくだけど、裏玄関の鍵は持ってきてくれた?… 」
「は、はい。こちらに」
朝七時半、待ち合わせ場所で出会ったクラスメイト二人が高校に向かう温度で話す麦と日向。
しかし、今は深夜二時。
日向の瞳にはハイライトが映っておらず、底知れない闇がかっていた。
そんな少女の言葉通り、月光を受け、銀色の光を放つ鍵を手の上に乗せた。
「助かるわ。ご苦労さん」
「は、はい」
震える口の形を懸命に動かす麦。無理はない、犯罪紛いのことを企(たくら)む者に力を貸すのだ。
「でも、意外ね。まさかあなたが協力してくれると思わなかったわ。私はもっと…
「本当に喫茶店を荒らすんですか?」
「えぇ…「お願いします!考え直してください」
すると、麦は日向の手を握り上目遣いで頼んだ。
前かがみになり服の襟(えり)から白い肌を見せた。
「…!?…そういうのいいから。何と言われようと私は復讐(ふくしゅう)を成し遂げる」
幼い頃に異星人に村を全滅させられた子供のように鋭い瞳で睨みつける。
「すいません」
「…私も言い過ぎたよ。ごめんね」
謝罪の気持ちを一切感じられない冷たい言葉を紡いだ。そして、「じゃあね。気をつけて」とぶっきらぼうに放つと、背中を向け、喫茶店へと足を運んで行った。
「…」
残された麦は日向の背中が完全に見えなくなったタイミングで怪盗のように自身の〝顔〟を外す。
そこにいたのは…
そして、数十分後。
裏玄関の鍵を手にいれた日向は強引に裏口の扉をこじ開け、嘗(かつ)て二色乃(にしきの)鴨観(おうみ)が孫(モモ)にやらせたように店内を荒らしてやった。
「少々…やりすぎたかな」
破損した窓からさす月明かりに照らされた横顔は犯罪者にしては美しく、幼さが残る顔立ちだ。
しかし、瞳の奥には言葉と違い、罪悪感が感じられず、感情を無くしたように真っ黒に光っていた。
動き過ぎたのか、はたまた緊張感から吹き出たのか…額に浮かぶ汗を袖(そで)で拭き取ると、目的である秘伝のレシピ本が入った棚のある休憩所に向かう。
バリィバリィとガラスの破片でできたカーペットを踏み鳴らし、休憩所の引き戸を乱暴に引いた。
そして、入口から見て左の壁に沿って置かれた棚に向かい、レシピ本の入った引き出しを探していく。しかし、
「…!?どういうこと!?…レシピがない!?」
上から三番目の鍵付き引き出しが乱雑にこじ開けられており、中にはレシピ本は愚(おろ)か埃(ほこり)一つ入っていなかったのだ。
チッ!と鬼の形相(ぎょうそう)で舌打ちを零すと、慣れた手付きでスマホ端末のロックを解除し、メッセージアプリ画面から音声電話を開始する。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜…
華やかな木琴の音が暗闇の店内に響き、タップ一つで受話器を取ったのは勿論、協力者である麦だ。
「あ、あんた、隠してなんかいないよね?」
『…か、隠してなんかいませんよ!』
「ク、クソッ!」
舌打ち混じり言葉を落とす日向。焦っている気配が電話越しにも伝わってくる。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜
「はっ!夢か…」
♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜
時刻は午後二十二時。カルメラカフェでのアルバイトを終え、帰宅→食事→入浴を済ませた日向はどうやら寝てしまったようだ。宿題をするため勉強机に向かってからの記憶がない。
喫茶店荒らしの夢を見てしまっていた。脳内は自首しろと迫ってきているのか?
♪。.:*・゜♪。.:*…ピッ!
目覚まし代わりとなったスマホからの着信音を若干切れ気味に切ると、長方形の受話器を取った。
「もしもし…」
『もしもし、香坂(こうさか)さん?』
声の主は宿敵喫茶ニシキノでアルバイトをする萌木(もえぎ)檸檬(れもん)。
数時間前に尋ねたいことがあったので電話をかけたのだ。自分(ひなた)の着信履歴に気づき、折り返してきたのだろう。
長方形から中性的な声に一報入れた理由を聞かれたため、回答を返すべく口を開いた。
「あなたも酷いわね。まさか麦(ともだち)に罪を被せるなんて」
『?どういうことです?』
語尾にハテナマークをつけ、聞き返す檸檬に強めの口調で言葉を投げる。
「しらばってくれても無駄よ。あの夜、私に鍵を渡してくれた人物は北条麦ではなく檸檬(あなた)でしょ」
「…」
〝…〟を使い、沈黙を貫(つらぬ)く気配が長方形端末から聞こえてきた。
図星で返す言葉もないのだろう。しかし、容赦なく言葉を並べてやる。
「どうせ白牛家の商品(へんせいき)でも使ったんでしょう。面接の時みたいに。麦(あの子)の首もとにそれらしき小型シールが付いていたわよ」
実は麦が前屈(まえかが)みになった時、首元にイボのようなものがついてあったのだ。
イボにしては平べった過ぎるため、小型シール状の変声期でもつけて、麦の声に変えているのだろう。
「…」
「…」
「…聞いてるの!?」
「それは私じゃない…」
細々と震える声で否定されるも「嘘つかないで」と冷たい言の葉を放つ。
相手の沈黙が退屈なので中断していた宿題に取り掛かろうと、ペンを持った。
参考書のページを捲(めく)り、指定された範囲の宿題をすらすら解き進めていく。あと一年も満たない内に大学受験生となってしまうので、勉強には気を抜けないのだ。
「私…麦が裏口の鍵を手渡した協力者なんて…知らなかった」
「え?」
第一問目を解き終えた同時に放たれた言葉に自然とペンを持つ手が止まる。
「ど、どういうこと?」
「嘘…まさか麦が犯人だなんて…」
会話に食い違いが生じる。どうやら麦が協力者であるという事実に衝撃を隠せないらしい。
驚愕(きょうがく)する気配が長方形(スマホ)から感じる。
「あなたが北条麦に協力させたんじゃない!」
そう、関係の浅いはずの北条麦と香坂日向を結びつけるコネクターとなったのは間違いなく端末(スマホ)の先にいる檸檬だ。
(檸檬(あの子)に違いないわよね…)
口に手を当てて考え込むような素振りを見せる日向。
ここで数日前のことを思い出してみよう。
「あなた喫茶店を潰したいと思わない?」
アニメの世界なら許されそうだが、ここは現実。
未成年にして犯罪に手を染めるような発言を口にした日向は話し相手である檸檬の背中にそう問いかけた。
「あなたは…」
幼い頃見たことがある。モモ程記憶には残っていないが、母親に連れられて喫茶ニシキノのレモンティーをよく好んで飲んでいた少女だ。
時刻は午後十八時。喫茶店のアルバイトを終えた檸檬は先日の面接にて面識のあった日向に突然声をかけられたものだからその顔に戸惑いの色が張り付いて拭(ぬぐ)えない。
「あの…なんです?」
こんな時に麦がいてくれたらなぁ…とシフトを恨みつつ、続けて
「私が世界征服したいっていうのは悪い意味に捉えられても困ります。私が思う世界征服とは…
「あなたその約束をしたのは…本当に二色乃(にしきの)モモの双子だと思う?」
「…え?」
柔らかさが失われた声で反射的に聞き返してしまった檸檬。早く次の一文を吐けと急かすように相手の口元を凝視する。
実は幼い頃檸檬と世界征服の契りを交わした相手はモモ…ではなく彼女の双子の姉…杏(あんず)だった。
しかし、それはモモが作った真っ赤な嘘であり、真実はモモに化けたみるくが約束したもの。
檸檬の中では約束を交わした相手は杏(あんず)という見解になっている。
「あ、杏?…とかじゃなかったの…ですか?」
興味深い発言に思わず、敬語を忘れてしまう。慌てて語尾をデスマス語に変えた。
「そんな都合のいい話あるわけないでしょ?モモ(あいつ)は一人っ子よ。あなたが約束したのは杏(ふたご)じゃなく…白牛(しらうし)みるくよ!」
「…」
「…え?」
真ん丸な瞳で聞き返す。数秒「…」に身を委(ゆだ)ねた後、疑うような表情でこう尋ねた。
「どういうこと…?そんなこと何故あなたが知っているのよ」
「私が働くカルメラカフェに白牛みるくの姉がいる。彼女から聞いたのよ。みるく(いもうと)を伝ってね」
日向が隣のカルメラカフェで働いていることよりも
みるくに姉(いちご)がいたことよりも
何よりも反応を示したのは…
「ど、どうして…嘘をついたの。店長…」
頭の中に浮かぶのは自分に微笑みかけてくれた店長モモの笑顔。しかし、どうして空想上の杏(あね)を
「ど、どうして!ねぇ、何でなの!」
こう見えても檸檬は幼い頃おふざけ半分で交わした「世界征服」の約束を今でも信じ、成し遂げたいと願っているピュアな人物だ。
完全に年上(けいご)と忘れ、荒々しい口調で日向を問い詰める。
「し、知らないわよ…あなたのこと嫌いなんじゃないの?」
「え、えぇ…」
「だ、だって考えてもみてよ。幼少期の無知で世間知らずの約束を今でも頑なに果たそうとしているのよ?気持ち悪いと考える人は少なくないと思うけど…」
「き、気持ち悪い…」
その五文字はピュアな心に面白いぐらいに刺さったようで、
「嘘…私のことそんな風に思ってたの…?」
「酷いと思わない?それにモモ(彼女)は…
と、それから日向は自分の母親とモモの祖母(おうみ)の関係性、起こったことを全て話してやった。
レシピ本を奪ったことについては敢(あ)えて、祖母が背後にいたことを伏(ふ)せた。勿論(もちろん)、同情を買うためだ。
「そんなことがあったなんて…」
これには檸檬も動揺したようだ。
脳裏に浮かぶモモの印象が変わってきているのが手に取るように分かる。
「ねぇ、私を喫茶店を潰してみない?」
「…」
「あの喫茶店からは世界征服なんて出来やしないわよ。人から盗んだレシピで人の心が付き動かせると思う?」
「…ざ、残念ですが、私は喫茶店(ここ)を裏切れません」
ぺこりと頭を下げ、一刻も早く日向の目の前から立ち去ろうと足取りを進めようとする。
「…なっ!」
苦渋の表情が波紋(はもん)のように広がっていくのが日向(じぶん)でも分かる。
モモの祖母(おうみ)と自分の母親のいざこざには一切関係のない檸檬だが、断られたことが自分の苦しみを否定されたように感じてしまった。
「ちょっと、待って!北条麦は手伝ってくれた…」
「…え!麦が!?」
先日喫茶店ニシキノで開かれたアルバイト面接でみるくの次に印象に残っていた北条麦の名前を勝手に使う。
勿論、これは咄嗟(とっさ)に思いついた嘘だ。
しかし、肝心の檸檬はお得意のピュアさで気づいていない様子。動揺の色が広がっていくのが視認できる。
「本当に…?」
「本当」
ここでボロを出してはいけない。
罪悪感が顔に出そうになるが、冷静さを取り繕(つくろ)いを並べていく。
「…分かりました。協力します」
「!」
すると、好都合なことに檸檬は同意の言葉を口にした。
「これで決まりね。あなたは明明後日の深夜二時ごろに近くの公園で鍵を持ってきてくるだけでいいから…」
「待ってください。私からも一つ条件があります」
「な、何?」
ここで不穏な空気が流れる。BGMをつけるとしたらバイオリンとチェロが奏でる不吉なメロディーが奏でられるのだろう。
「私親が厳しくて深夜帯での行動ができないんです」
「まぁ、そうよね」
「だから、麦に頼んで鍵を入手してください。わかっています私も協力します。麦が喫茶店から鍵をとってくる時に援助しますから」
何か焦っているのか額に汗を浮かばせながら早口に言葉を投げかけてくる。
「えっ!ちょっと待って!鍵なら今とってくることもできるじゃん!」
「で、では、これで失礼します」
日向の問いを聞こえない振りをして、背中を向けて走って帰って行ってしまった。
頭上に手をやりブロンドヘアを揺らしながらやがて見えなくなっていく少女に向かって
「やっぱバレたか…」
と、力のない声で呟く。
どうやら麦が協力していないことが嘘だと射抜かれたようだ。
制服を見る限り高校も同じようだし、二人の仲だと本人に確認せずとも嘘か否かが分かってしまうらしい。嘘をついた罰が当たったのだろう。
うまく出し抜かれてしまった日向は肩を落とし、そのまま夕日に背中を向け帰っていった。
正直、裏口を守る裏玄関には強行突破で入れぬことはない。しかし、近隣住民や監視カメラの目もあり、ちゃんと鍵を入手する必要がある。
復讐なんて言葉は警察相手に通用しないのだから。
「はぁ…」
負のオーラを発するため息を零す。
しかし神様は見てなかったようだ。数時間後、イ〇スタに一つのメッセージが届く。
差出人は北条麦。
開けると同時に本文に視線を吸い込まれた。内容はこうだ。
こんにちは。香坂日向さん。
檸檬ちゃんから話を聞きました。私も香坂さんに協力したいと思い、鍵の受け渡しを手伝わせて頂きます。
しかし、私が手を貸した事は他言無用を約束してください。
深夜二時。喫茶店近くの公園で待っています。
北条麦
もしかしたら北条麦は元々喫茶店に対する印象があまり良くないのかもしれない。檸檬を通じて、自分の過去話を聞いたのならば協力してくれる可能性だって大いにある。
「やった…」
怪しい!怪しすぎる!これがもし友達から相談された内容であれば、やめときなよ〜と説得するだろう。
だが、日向には止まれない理由があった。
「良かった。これで間に合うよ。お母さん」
実行日である明明後日は日向の母親の命日だった。
自室のベッドに座りながら、丸印が書かれたカレンダーに視線をよりそっと呟く。
そして、現実に戻る。
日向の嘘が一転、麦と巡(めぐ)り合わせた。
しかし、数日前の回想を突然途切れるような発言が端末の向こうから聞こえてくる。
『だって…その会話相手…北条麦ですもん』
「…な、なんですって!?」
しかし、日向も少々現実離れした世界の人間を十数年やっている。
「声どうしたの!?」と驚くことなく、また「声変わりした?」と惚(とぼ)けることもなく、落ち着き払ったトーンで次のように言った。
「…また、白牛家(あ)の変声機を使ったのね」
しかし、辻褄(つじつま)は合う。
交渉をしたあの日の檸檬が麦ならメールをしたのも待ち合わせ場所に来たのもおかしくはない。
友達であろう檸檬の姿では手助けは行いたくなかったのだろう。
「そもそもなんであんたたち入れ替わっているのよ」
『そ、それは私が学校であんまり馴染めてないから…その、お互い入れ替わることで青春を…麦は停学…じゃなかった、授業遅れていた分勉強が追いついていないから…』
聞き取りにくい文章を口元でモゴモゴ言わせる檸檬。
「ごめん、聞き取れない」
『…な、なんで麦が鍵を…』
「聞いてる?」
またもや会話が食い違わない。
衝撃を受けた檸檬は着信を切るのとなく、携帯端末を床に落とし、部屋から逃げるように出ていく。
『ねぇ!聞いてるの!』
と、何度も日向の声が聞こえるも言葉を返す者は誰もいない。
(わけがわからない!)
(どういうことなのよ!)
脳裏にいくつものハテナマークを浮かべながら、遊園地のお城としか思えない自宅の長い廊下を駆けていく。
「お父様っ!」
そして、大声で重い扉を開けたその部屋は檸檬の父親の自室。
悪趣味な肖像画がこちらを睨みつける。
「どうしたんだ…檸檬」
「檸檬お嬢様…!落ち着いて下さい!」
檸檬の父親…柑橘(かんきつ)と秘書を務めている美女が焦りを含ませた語調で言葉を投げかける。
しかし、檸檬はその足を止めることはなかった。ズンズンと部屋に入り込む。
「麦に何をしたのよ!」
バンッ!と勢いよく書斎を叩き、居座る柑橘(ちちおや)に顔を近づける。
「お父様っ!約束したわよね!私の友達は何がなんでも手を出さないって」
「あっ…えぇ…れ、檸檬…落ち着くんだ」
「落ち着けるわけないでしょ!?」
生まれてから十六年。反抗することなかった父親に向かって今初めて怒鳴(どな)りつけた。
血走った瞳で父親を睨みつけ、口元に怒りの色を浮かべる檸檬。
「お父様!いい加減私の友達を選ぶのはやめて!麦はお金で釣られるような馬鹿な同級生とは違うの!分かるでしょ?」
檸檬は麦が鍵を渡していた(裏切り者だという)ことは全く知らされていなかった。
自分と勘違いした日向から内容を聞かされた今、麦の黒幕が父親であることぐらい簡単に分かる。
この父親、ストーカーにしたてあげるほど麦を気に入っていないのは目に見えていたからだ。
「麦に鍵を盗むよう命令したのはお父様ね!」
「それは誤解だ!私は彼女を試しただけなのだ」
「試した…まさか、」
娘にしか分からない、萌木柑橘の試練とは…お金だ。
お金を餌(えさ)に人がどこまで狂えるのか知りたがる祖父に育てられた柑橘がまとまな人間になれる訳がなく、〝逆の意味で〟お金に拘る人生となる。
「お金の前を破れる友情などあってはならないのだ!お前と付き合う人間はお金に拘らない真人間であって欲しいのだ!」
これが父の口癖になる通り、檸檬が小さい時から彼は娘の友達…酷い時にはその親に大金を見せ、こう言うのだ。
「檸檬(むすめ)には近づかないでくれるか?」
と、放たれた子供は歳を取ればとるほど頷(うなず)くようになる。
柑橘は檸檬に近づいて欲しいわけではない。大金を前に動じず、首を横に振り、檸檬のそばに居続けてくれる人を探してきたのだ。
「小さい時からそうじゃない!私が出会う友達友達に大金を渡して!…
「私が子供の時、親はお金で買った金に汚い子供に囲まれ、本当の友情を恵くんでこなかった。親が金を見せなくても、冷たい態度を取っても近づいてくる輩(やから)も少なくなかった…お前には〝ちゃんした〟友達を選んで欲しいのだっ!!」
ここで柑橘の言う〝ちゃんとした〟は檸檬と…世間と食い違っているのは言うまでもない。
眉間に刻まれた皺(しわ)をより一層深ませ檸檬の言葉を食うようにして発言していく。その言葉はどこか言い逃れをするようにも聞えられた。
「だから、麦(あのこ)にも渡したのだ!誤解による停学処分の件を謝るために一千万円を…!」
「しゃ、謝罪をするために渡したの…?」
ぎょっと驚きの瞳を見せた檸檬。
少々話題がズラされたような気がしたが、そんなことはどうでもいい。
父親(かんきつ)は他者…ましてや親子ほど離れた歳の子供に対し、大金を差し出し、頭を垂れるなんて…
想像できないぐらいの発言に開いた口が塞がらない。
「しかし、あの子は…
「受け取らなかったのよね」
檸檬の言葉に父親だけでなく美人秘書も俯(うつむ)く。言いにくそうにしている柑橘の顔色をよんで、口を開いた。
「逆です、檸檬お嬢様。柑橘様が大金を提示した時、麦は追加を要求しました」
「つ、ついか…を?」
驚きのあまり手足が凍りついてしまった。今まで鼻水垂らしながら大金を大事そうに持ち帰った者はいたが、追加なんて…
一千万円では満足できなかったのだろうか。
「それで私は渋々倍の二千万円を渡した」
「二千万円!?女子高生一人に!?」
大金を前に欲が出てきたのだろうか。しゃっきんを抱えてるなど何でもいい、裏があると願いたい!
「麦が…そんなこと…」
分かりやすく落ち込む娘(れもん)に対し、父親は書斎(しょさい)を離れ、近寄りこう言った。
「だから、言っただろう。世の中の人間は金で釣られる愚(おろ)かな人間しかいないのだ」
「うん」
「これでもうあの喫茶店に用はないな…潰れてもいいだろう」
「…うん」
数時間 喫茶「ニシキノ」
相変わらず顧客の姿がない喫茶店。描写がめんどくさいのではない、数分前にはカフェオレを頼んだ老人が来ていた。
彼がドアチャイムを鳴らし、退出するタイミングを見計らってモモは〝その人物〟の背中に声をかける。
「レシピを盗んだ犯人ですよね…緑さん」
背中を丸めながらテーブルを吹いていた彼女の瞳孔が少しだけ大きく見開かれた。
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