第60話 才能
こんにちは、リリアン・ミルスター10歳です。
10歳になり祝福を得た事で、今まで大っぴらに使えなかった能力を十全に使える様になりました。
「チョイヤッ!」
「甘いぞリリアン!」
「セィッ!」
「むむむ!」
「そこ!」
「まだまだぁ!」
今は家の裏庭にてお父様と素手による戦闘訓練中である、お母様とアーサーは隅っこにテーブルと椅子を出して、二人並んで座ってお茶を飲みながら見学中。
「フェイントッ!」
「視線の向きでばればれだ!」
「真向正拳パーンチッ!」
ドガンッ、お父様の手の平に当たった私の正拳がすごい音を立てるも、そのまま拳を握られてしまった……くっ!
「負けました」
ここからだと、普通に戦った場合は勝ち筋が無いので負けを宣言する私。
「うむ、中々の動きだったぞリリアン、さすが俺の娘だ」
メイドのユリアからタオルを貰って汗を拭きながらお母様達の所へと歩いていく、ちなみにユリアはお父様の分のタオルは準備していなかった様だ、ユリアは私付きだからねしょうがないね、ショボンとしないでくださいお父様、ちょっときもいです。
「姉様すごいです! カッコイイ!」
弟のアーサーが椅子から降りてこちらに駆け寄って来る、正面から抱き着いて来るのでそのまま受け止めてあげる……こらアーサー、顔で私の胸をグリグリしないの!私はまだお母様みたいに大きくないからそんな事しても気持ち良くないでしょう?
ニコニコと笑顔で私を褒めて抱き着いてくるアーサーは凄く可愛い、私の胸に顔を埋めようとする行為もエロをまったく意識していないしね、でもまぁこんな可愛さもあと数年なんだろうな……。
もう少し大きくなって性に目覚めたエロ坊主になったら抱き着かせないからね!
アーサーと手を繋いでお母様とお父様の居るテーブルへ向かい席に着く。
ちなみに格闘訓練中の恰好は普段着ているワンピースドレスのままやっていた、護身術というなら普段着で動ける必要があるという考え方だ。
「すごかったわねリリアンちゃん、それでジュゼフ、リリアンちゃんはどれくらいの強さだったの?」
お母様の問いかけに少し考え込むお父様。
「……そうだな……戦闘系の祝福能力の無い軍の新兵なら倒せるくらいか?」
まぁそんな所だろね、いくら祝福の能力があっても私の体はまだ10歳の女の子だ、体も小さいし筋肉も付きづらいし……そう……筋肉も付きづらいし! 大事な事だから二回言う! 女性の体って筋肉付けるの厳しすぎ……まだ成長期だから無理な筋トレは出来ないしさぁ……。
それにちょっと手加減して動いたしね……こんな可憐な美少女が戦場の流儀である勝てばよかろうな格闘戦闘をしたらまずいだろうからさ。
「護身というならもう少し強くならないと駄目でしょうね、私はお母様に似て美人ですし」
少しお道化てそんな事を言ってみた、そのうち拳を保護するグローブでも作ろうかな?
「あら、私も美人って言ってくれるのねリリアンちゃん」
そう言って嬉しそうに笑うお母様、正直に言って貴方は未だに10代後半の美少女に見える妖怪です。
「マリオンもリリアンも美人だからな、不逞な輩に狙われるかもだし護身術は必要だな……まぁ俺が必ず守るけどな!」
そうガハハと笑うお父様、まぁこの人の能力なら真正面から来る奴ならボッコボコに出来るだろうね……上級能力とそれを補助する能力持ちなんだもの……脳筋極まれりって感じの。
そのあまりの脳筋ぶりに戦場でバニスター家の人間と意気投合して、貴族になる時に名前の一部を貰ったくらい脳筋だ、お父様は私の前世が見出したのになぁ……ブレッド家の名は恐れ多くて使いにくいとか言いやがったっぽい……。
「父様、僕は?」
アーサーが少し拗ねた感じでお父様に聞いている。
「勿論アーサーも守るぞ! だけどなアーサー、お前は母や姉を守る側にならねばならんのだ、今はいい、小さいから俺が守ってやろう、だが……大きく成ったら家族や国を守れる様に強くならねばいかん、判るな?」
お父様が真剣な表情でアーサーを諭している、こんな年齢から軍人としての心得を教えていくのか……ほんと貴族ってのは……いや私も今は貴族なんだけどさ……。
「うん! 僕は母様や姉様を守る!」
なにこの可愛い弟! 私とお母様は、間に座っていたアーサーを両側から頭をナデリコしていくのであった、これが母性本能というやつなのだろうか? キュンキュンしちゃうね。
お母様の遺伝子が勝利したのかアーサーも将来イケメン決定な可愛さなんだよね、私もお母様に似てるし、お母様の遺伝子強いよね……私が男だったら無骨なお父様に似て生まれても良かったかなとは思うけどもね。
そうして家族揃ってお庭でのお茶会を過ごし、そこでお昼も食べて解散、私はユリアを連れて庭の作業小屋に移動する。
……。
……。
さて……本を売ると決めた私ではあったのだが、問題が発覚してしまった!
それは?
……私には文才が欠片も存在しないという事だった……。
この世界には娯楽小説という物はほとんど存在しない、もしくは私がまだ見た事が無いだけかもだけど、あるのは前世で普及させた本で、道徳を育てる為に教訓を籠めた物語くらいだ。
それ以外の娯楽の本といえば詩集とか歌集くらいか? お母様なんかは恋愛系の物が収集された詩集本とかを好んで読んでたりする。
研究書や辞書や勉強に使う教科書なんかは前世の私が積極的に普及させたんだけども、娯楽本関係は軍や様々な役職から引退してから手をつけようかなって思ってたからな……。
そんな訳で娯楽小説的な物をでっち上げて売ろうと思ったんだ、国営の印刷所に頼んだ作品なら内容を複製された時に国が動いてくれるし、許可なく勝手に本を複製されたら国の威信問題になるからね、このあたりの権利は前世の時に主張しておいた、まぁ手書きの写本とかは見逃されちゃうだろうけどさ。
そうして日本に居た頃に読んだ様々な小説やゲームや漫画を思い出し、パク……ゴホンッゴホンッ! ……インスパイアして娯楽小説を書こうと思ったんだけど……どうにも上手くいかない。
「むーん……」
私はテーブルに置いた紙の束を眺めながら唸る。
「どうされたんですかリリアン様?」
ユリアがお茶を出しながら心配そうに私を見て来る。
自分の分のお茶も入れて私の対面に座ったユリアの前にその紙束を置いてあげた。
内容は私の書いた小説のプロット、設定資料や構想って感じの覚書と……出来の悪い小説の書きかけの物だ。
うーん……権利が国に守られる本を売るってアイデアは良いと思ったんだけどなぁ……。
ブツブツブツブツ。
ん? 何か対面に座るユリアから聞こえてくる、そちらを向くと……。
真剣な表情でブツブツと呟きながらプロットを読んでいるユリアが居た、覚書の様な物だし、それを読んでも面白くないだろう?
ユリアは孤児院でちゃんと勉強していたっぽくて、問題無く読み書き出来るし、なんなら私に仕えだした頃からお母様所有の詩集なんかを読む為に難しい言い回しなんかを教えて貰いつつ読んだりしてたから、そっち方面の才能はかなり……あ……。
ユリアがプロットを読み終えたのか顔をあげて私を見つつ。
「面白い内容ですねリリアン様! 詩集とも違いますし、既存の物語とは発想が違って今までに無い物だったので見入ってしまいます! 様々な情景が頭に浮かんでドキドキしちゃいました!」
ニコニコと笑顔でそう語り掛けてくるユリア……へぇ……その乱雑に書かれた覚書を読んで内容が頭に浮かぶのね? へー-え……ふーん……ふ……ふふふふふ。
私はそっと椅子から立ち上がりテーブルを回り込み背後からユリアの両肩をガシッっと手で押さえる。
「ど、どうしたんですか? リリアン様?」
私はそれに答えずにユリアの肩に顔を乗せる様にしてその可愛らしい耳に口を近づけると。
「ユリア……」
「くすぐったいですよリリアン様! もう! はい、なんですか?」
「物語を書いてみましょうか?」
そう言って私の中ですでに決定した事をユリアに伝えていく。
「え? ……えええええ!!!! 私が物語を書くんですか? むりですよー!」
びっくりしたのか、大きな声をあげてふり返って私を見て来るユリア。
「そうなの? 残念だわぁ……まだまだこれ以外にも設定や構想は沢山あるのに私には文才が無いからそれらが世に出る事は無いのね……すっっごい沢山あるのになー」
私はしごく残念そうにそう言って元の椅子に座る、それを聞いたユリアがゴクリッと唾を飲みこんで。
「ま、まだまだ一杯あるんですか? えっと……それを読ませて頂く事は?」
「世に出ないなら意味は無いからね、焼却処分ね」
ニッコリと笑顔で焼却処分を告げていく私。
「そ、そんな! 勿体ないですよリリアン様! この設定を読むだけでもすごい面白かったですし、見せて下さいよ~」
ふっ、釣れたわ!
「そうねぇ……ユリアがそれを元にお話を書いてくれたら……他の設定資料も見せてあげない事も無いんだけどなぁ……」
「ええ!? ぅぅぅ……でも、ああ……うう……お、面白い物が書けるとは限らないですけど……」
「うんうん、試しに書いてくれるだけどもおっけーよ?」
「あうう……判りました! さきほど私の頭に浮かんだ情景をそのまま文章にするくらいで良いのなら……やってみます」
「問題ないわ! ありがとうユリア、それじゃぁ私はもっと他の設定を考えて設定資料を増やしておくわね!」
「……頑張ります」
「駄目なら駄目で他の金策を考えるし、あんまり気負わなくていいわよ」
あまり期待を寄せて重圧を感じさせちゃうのも可哀想だしね、まぁ本に変わる金策は考えておいた方がいいだろう。
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