妖記憶屋、開店です

雲咄

プロローグ

大昔。人ならざるモノ達が夜な夜な活動を始めれていた時代。人々は、そのモノ達に怯え、畏怖していた。

そのモノ達は、自分達の生き方を本能のままで動いていたり、欲望のために活動したりと毎日を楽しそうに過ごしていた。

人は、そのモノ達を『妖』と呼んだ。

妖は、長年人々を驚かせたり恐怖をよんだりしたが、それも長くは続かなかった。

何時しか妖などいなかったかのように人々は信じなくなったからだ。

妖は、自分の生きる意味を忘れていき、長年生きていたせいか大切な記憶すら薄れていく。

自分達はどうやって生きていたのか。

何をして生きていたのか。

唯一の存在がいたのか。

忘れていくというのは、一種の恐怖だった。

覚えていたはずの記憶が無くなっていく。それが十年先のことなのか、一年後なのか、それとも明日なのか――。


時は流れ、現在。

昔とは違い、妖などおとぎ話のように語られていく時代。

元々森だったはずの場所は光り輝く街となり、木で出来ていたはずの家は鉄ですら建てられるようになった。戦などないかのような平和な世界。

ほとんどの妖達は、一番大切な記憶を忘れていき塞ぎ込んでいた中、ある噂が流れ始めた。


人気のない路地裏から小さい道がいきなり出てきて、その道に誘われるかのように歩いていくと、古風の家が見えてくるんだ。夏のはずなのに、桜と彼岸花がよく目立っていてまるで異世界に迷い込んだ気分になったよ。

そこには一人の人間がいて、俺達を見るとこう言うんだ。

『いらっしゃいませ。私はこの記憶屋の当主でございます。なんの記憶を見つけて欲しいのですか?』

って。

俺は、藁にもすがる思いでその当主に尋ねた。

『記憶って……』

『貴方様の大切な記憶を見つけるのが、この記憶屋の当主の務めです』

『そんなの、人間にできるわけ……』

『できますよ。嘘だと思うのでしたら、一度試してみたらどうでしょう。あぁ、でも――』

当主は、一度誰もが見蕩れるかのような笑みでこう言うんだ。

『お代は、約束をお一つ必ず守ってください』

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