キャンプの始まりは過去話風味

 今日はブシドージャーキャンプの日。上里春風は朝早くから琴城邸に来てきた。春風の全身はキャンプグッズでコーディネートしていた。

「上里さん、キャンプを張り切っていますね……」

 葉月涼太はにこやかに春風を見ていた。

「せっかくのキャンプだから楽しまなきゃ損ですから」

 春風は涼太にそう笑顔で答えた。見ればブシドージャーのメンバーもキャンプに向けて完全装備でやってきてキャンプへのモチベーションの高さを伺わせていた。しばらく待機していると琴城邸の前にマイクロバスが止まりゾロゾロとブシドージャーが乗り込んでいった。楽しいキャンプの始まりだ。


◆◆◆◆◆


「ところで琴城常陸さんってどんな人なのですか?」

 春風は涼太に琴城家の前当主、琴城常陸について聞いてみた。それは個人的な興味だった。

「常陸様のことですか……彼は稀代の天才剣士として剣術界では相当な有名人でした。そして世界最強クラスの妖魔狩りだということは言うまでもないでしょう」

「まぁ……わたしも妖魔808体斬りの狩人の話は聞いたことがありますが、そういう話ではなくて人柄について聞きたいんです」

「常陸様の人柄は一言で表現すると豪放磊落ですね。いつも豪快に笑っている親分肌の人でした。そんな太陽のような人だから多くの人が集まるのでしょう……緋月くんとはちょうど正反対ですね」

 そう言って涼太は笑った。

「なるほど琴城さんは太陽のような父親の影響を受けて成長したのですか」

 そこまで言って春風は自分のことを考えた。父親は上里一族の当主になるには少し優しすぎた。だからこそ当主の座を返上して大禍社に身を寄せたのだろう。そう考えてみると自分と緋月は似ているなと春風はそう思った。

「ところで上里さんには特別にいいことを教えてあげましょう……緋月くんと柚さんの関係です」

「幼馴染と聞いたんですけど」

「水無瀬家は琴城家の臣下として戦国時代より関係を深めていました……しかし、柚さんは水無瀬家に引き取られた身なのです」

 春風は柚の意外な過去に驚いた。

「柚さんの本当の両親は水無瀬の親戚筋の家系なのですが柚さんが生まれた勅語に不幸がおきて両親はいなくなった……それを不憫に思った常陸様が水無瀬の当主を説き伏せて柚さんを引き取ったのです」

「そんなこと初めて聞きました」

「それが直接の原因ではありませんが、それが一因となって柚さんは剣の道を歩んだ、不幸に負けないように強くなるために、だから上里さん、あまり柚さんにちょっかいを出してはいけませんよ」

 春風は乾いた笑いをするしかなかった。

「なるほど、葉月さんは私に釘を差すためにその話をしたんですか?」

「まぁ、先日、柚さんと喫茶店に誘われたのを目撃しているので彼女のことを話しておくのは損はしないかと思いまして」

「数日早く話してくれればよかったかな……」

 春風は涼太に向けて苦笑いするしかなかった。


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