俺の家族です2

「最近私のところにも報告が上がってきていたんだ。私の名前を借りて傍若無人に振る舞う不届き者がいるとな」


「そ、それは……」


「たとえ知り合いだとしても一々貴様が気に入らないことを私がどうしようというのだね?」


 デオクサイトは相当お怒りの様子。

 ちょび髭の男の護衛たちはデオクサイトの兵士に気圧されて動けない。


 安い護衛では鍛えられた本物の兵士に敵うはずもないのだから仕方ない。


「それに彼らは私のお客だ」


「へっ……」


「お前のことは知らないが彼らは私が招いたお客様なのだよ」


 終わったとちょび髭の男は思った。


「連れていけ。少し話を聞く必要がありそうだ」


 デオクサイトは投げるようにして兵士にちょび髭の男を渡す。

 ここで暴れるほど馬鹿ではなかったようでうなだれながら大人しく連れていかれる。


「ジケさん、申し訳ありません」


 デオクサイトは胸に手を当ててしっかりと頭を下げた。


「私の領内で起こっていた問題に巻き込んでしまいまして」


「いえいえ、大丈夫ですよ」


 むしろ助かったのはちょび髭の男の方だ。

 あとちょっとデオクサイトが来るのが遅ければジケが剣を抜いていた。


 ムカつくちょび髭切り落としてしまおうかと考えていたのだ。

 首都近郊においてジケの名声は高い。


 ジケの商売柄関わらない人も多いので平民街では知られていないが、貧民街と一部の貴族の間ではジケ、あるいはフィオス商会は有名である。

 そんな態度をジケが取りはしないのであるけれど舐めた態度を取る人もだいぶ減ったものである。


 しかしやはり離れた都市に来るとジケは見た目からただの少年なのである。

 身なりは綺麗になったので平民ぐらいには見えるかもしれない。


「お詫びと言ってはなんですが、この近くに行きつけのお店があります。甘いものはお好きですか?」


「ええ、好きですけど……」


「ジー」

 

「甘いもの……」


 どうしようか。

 そう聞く前にタミとケリのキラキラとした視線が突き刺さっていることにジケは気がついた。


 タミとケリはもちろん甘いものが好き。

 辛いものを食べてきたのだし甘いものが余計に食べたい気分であった。


 グルゼイがいたら渋ったのだろうけど、この場に反対するような人はいなかった。


「ぜひご賞味いただきたい」


「ではご厚意に甘えさせていただきます」


 せっかく甘いものを奢ってくれるというのだからそうさせてもらう。

 ジケはデオクサイトについていくことにした。


「えへへぇ〜」


「ふへへぇ〜」


 タミとケリは嬉しそうにジケを挟んで手を握っている。

 ジケが家族だと言って守ってくれようとしたことがとても嬉しかった。


「商談の時にはいらっしゃらなかったですが可愛らしい同行者がいたのですね」


「はい、俺の大事な人たちですよ」


「うっへへぇ〜」


「大事な人!」


 タミとケリはもうニッコニコ。

 2人の笑顔に当てられてデオクサイトも自然と笑顔を浮かべる。


 軽く話を聞いて見知らぬ子を養子にしようとするなんてとんでもないことだと憤っていたが、ほんの少しだけ気持ちも理解できなくない。

 こんな娘たちなら欲しくもなるとデオクサイトも思う。


「改めて……ご迷惑をおかけしました」


 デオクサイトの行きつけのお店はケーキ屋さんだった。

 多少いかつめの見た目をしているデオクサイトからは連想にしにくい感はある。


 デオクサイトが適当におすすめケーキ頼んでくれてみんなでそれを食べる。


「それで、あそこにいたのは偶然ですか?」


 デオクサイトが現れたのは少し出来すぎかなとジケは思っていた。


「あそこに行ったのは偶然というか、あの男が目撃されたと報告があったので向かったのです」


 領主の知り合いを名乗り傍若無人に振る舞う男がいるということは以前から聞いていた。

 どこかで懲らしめてやる必要があるとデオクサイトは考えていた。


 ちょび髭と見た目にわかりやすい特徴があるので見つけたら報告を上げるように言っていたところにちょび髭の男がいると聞いて現場に向かったのだ。

 そしたらジケが絡まれていだという話。


「なるほど。そしてここにお誘いしたのは?」


「……別の目的もあります」


 お詫びにケーキ屋さんというのも不自然であるとは言い切れない。

 ただ強引に誘った感じは否めない。


 ジケが突いてみるとデオクサイトは笑いながらあっさりと目的があったことを認めた。

 ちゃんとお詫びしておきたかった気持ちが大部分なことは確かなことである。


 ただちょっとした目的もあったのである。


「なんてことはありません。少し伝えておきたいことがありまして」


「なんでしょうか?」


「つい先日、この都市に向かっていた商団の一つが壊滅しました」


「商団が壊滅ですか?」


「どうにも状況から人の仕業ではなく魔物に襲われたのだろうということなのですが……」


「前にもそんなこと言ってましたね」


 正体不明の魔物に襲われたみたいな話が以前の商談の時にあったことを覚えている。


「おそらくその関連だと思われます。住民の不安を避けるため封鎖まで行わないのですが魔物を探して討伐するつもりです。いつお帰りなられるかは分かりませんがもう数日滞在なさった方がいいかもしれません」


「そんなことがあったんですね。教えてくださってありがとうございます」


 何もなければもう帰ろうと思っていたところだった。

 それならもう少し滞在を伸ばしても構わない。


「お土産にいくつかケーキを包ませましょう。寝る前に食べると背徳的でいいですよ」


「女の子に恨まれますよ?」


「それでも抗えない」


 デオクサイトが穏やかに笑う。

 ユーモアもあって意外と女性にもモテそうな人だなとジケも軽く笑みを浮かべたのであった。

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