大泥棒の末裔を名乗る男3

「それでこの手記はパルンサンのものだと思いますか?」


「……少々お待ちください」


 モロデラは部屋の奥から一冊の本を持ってきた。


「これが我が家に伝わるパルンサンの手記です」


 ジケが持っているものは手帳サイズで小さいが、モロデラが持っているものは本のサイズでやや大きい。

 モロデラが本をテーブルに置いて開くと足でペンでも持って書いたのかという字が目に飛び込んできた。


「これは……確かに似てますね」


 本の文字を見てユディットが頷いた。

 ジケが持つ手記の下手くそな文字とよく似て全く読めないのである。


「似ていますよね。まだ確定はできませんが可能性は十分にあると思います」


 ジケの持つ手記を開いて並べてみる。

 多少違うように見えるが本のサイズも違うし、同時期に書かれたものであるかも分からないので少しの違いはあって然るべき。


「実は中々研究も進んでいなくて困っていたのです。よければ是非ともこの手記の解読任せてくれませんか?」


「……分かりました。お任せしましょう」


 どの道他に当てもない。

 パルンサンの研究をしていることは本当だし、散らばる資料を見た感じ本気で研究もしている。


 最初の態度悪かったという先入観を除いて見てみればちゃんとした研究者だ。


「それにしてもなんであんな態度だったんですか?」


「……あまり良くない人も寄ってくるもので」


 パルンサンの遺産目当てでモロデラに寄ってくる人もいる。

 あるいはパルンサンのものだと言ってモロデラからお金なんかを騙そうとする人もいたりした。


 バカにされることも多くてモロデラは本気であるが故にそんな人たちに傷つけられていつしか周りを疑うようになってしまった。

 ジケに対する態度もどうせまた偽物だろうと思い込んでいたから。


「本当に申し訳ありませんでした」


「いえ、事情は分かりました」


「全力を尽くさせていただきます。手記はこれだけですか?」


「他にもいくつかあります」


「本当ですか! なら解読できるかもしれません」


「手記があれば解読できるんですか?」


「ええ、よく出てくる形なんかを見比べながらこうだろうと推測してくるのですが、この本だけでは限界だったんです。ああ、なんということだ!」


 よく出てくる文字などからこうした言葉だろうと予想を立ててながら本の内容を推測してきたモロデラ。

 いくらか解読できたところもあるが未だに解読できていない箇所も多くて限界を感じていた。


 もっと多くの資料があって見比べることができればと思っていた。

 そんなところにジケがいくつもの手記を持ってきたのでモロデラは興奮が抑えられない。


「もし解読できたらなんですが考えていることがあるんです」


「考えていることですか?」


「パルンサンは多くの謎に包まれています。だからこそ人気もあるのもかもしれませんが、パルンサンがどんなことをしたのか知りたがっている人も多いです」


 ジケは持ってきていた手記をテーブルに出す。


「そうですね。私自身もご先祖様がどんなことをしていたのか知りたいと思います」


「なのでパルンサンのことがこれに書かれていたら本にしたいと思っているんです」


「本、ですか?」


「そのまま内容を書き写すのではなく、少し手を加えて物語として世の中に広めるというのはどうですか?」


 ジケはモロデラが過去においてパルンサンの本を出していたのではないかと思っている。

 手記を見つけたのは他の人かもしれないが解読できる人はきっとモロデラしかいない。


 しかし解読したところでパルンサンの話など使い道はない。

 モロデラが解読してから本になるまでの間に何かまだあるか考えた時に誰かがわざわざ解読した内容を本にしようとしたなどとは考えにくい。


 解読に成功したモロデラがパルンサンのことをまとめて本にしたと考えるのが筋の通る説明である。

 床に散らばった資料を見る感じでは文章を書くのも苦手でもなさそう。


 書けないというのなら別の人を探せばいい。


「それはいいですね! そうすればきっとご先祖様も喜びますよ! それに……実は私作家もやってまして。売れてないんですがね」


 そうなのか、とジケは内心少し驚いた。

 ならば過去でパルンサンの本を書いたのもきっとモロデラなんだろうと確信が持てた。


「でももっと有名な人がいいですかね?」


 手記はジケのもの。

 解読してもその内容はジケのものであるのだ。


 本にするというので自分がとモロデラは思ったけれど差し出がましかったかもしれないと思った。


「もし解読できたならモロデラさんにお願いしたいです」


 過去に書いていたかもしれないからだけではない。

 おそらくモロデラが世界で一番パルンサンのことを理解している。


 本を書くにしても愛を持って書いてくれる人が一番だろう。


「……ありがとうございます。たとえ本当はご先祖様でなかったとしてもパルンサンは私が尊敬する人なので」


「ひとまず本のことは置いといて解読よろしくお願いします」


「分かりました! パルンサンの第一人者、このモロデラにお任せください!」


「ということで依頼料を……」


「ええっ!?」


 もちろんタダでやらせる気はない。

 お金を取り出したジケをモロデラは驚愕したような顔で見つめている。


「これもお仕事ですよ」


 モロデラにしかできないこと。

 スキルを活かした行いには相応の対価を払うべきである。


「ぐうぅぅ……ありがとうございます!」


 床にへばりつくようにしてジケに感謝を示すモロデラ。


「立ってくださいよ……」


 こんな姿見たらご先祖様泣くぞ、とジケは苦笑いを浮かべたのであった。

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