困ってるなら助けよう1

 ジケはイバラツカに向かうことにした。

 イバラツカは南の方にある大きな都市で南の諸国との交易の品などは一度イバラツカに集まるような形になることが多い。


 そのために大きく発展している都市なので人も多く集まっている。

 そこにモロデラはいる。


「おーでーかけー」


「おでかけー」


「ご機嫌だな」


「うん、楽しみ!」


「うん、嬉しい!」


 今回の遠征メンバーにはタミとケリもいた。

 イバラツカは南の諸国のものが集まるので食べ物文化も混ざり合ったようなものがある。


 モンタールシュで香辛料を効かせた刺激的な料理が多かったがイバラツカまでくるとそれよりもマイルドな感じになった料理が多い。

 色々な料理があると聞いてタミとケリも行きたいとジケにおねだりした。


 二人にウルウルとおねだりされるとジケは弱い。

 保護者としてグルゼイやエニも同行してもらうことにしてタミとケリを連れていくことになった。


 一生を貧民街で過ごす人も多い中でのんびり旅行できるタミとケリはかなり幸せである。

 周りも強くて優しい人ばかりで安心安全にタミとケリは景色の移り変わりを眺めて楽しんでいる。


「不便はない、メリッサ?」


「は、はい、大丈夫です」


 ジケは馬車の隅に座るメリッサに声をかけた。


「わ、私もいていいんでしょうか……」


「もちろん。仕事も兼ねてるし、商会のメンバーなら家族みたいなもんだ」


 モロデラと交渉するということがイバラツカに行くメインの目的であるのだけど、もう一つイバラツカに行く理由があった。

 ジケたちは馬車に乗っているのだけど座席などがつけられたものではなく荷馬車に乗っていた。


 荷馬車もノーヴィス特製揺れない荷馬車なのであるが人の他に荷物も積み込んでいる。

 積まれた荷物はアラクネノネドコである。


 多少アラクネノネドコの方もストックが出来てきたので知り合い以外にも売ろうかなと思ったのだけど、ワッと買いたいという人が集まっても面倒である。

 そこでフィオス商会の方で直接売るのではなく後援となってくれているフェッツを通すことにした。


 一部の信頼できそうな貴族に声をかけてもらってフェッツの方で調整してもらうというやり方である。

 利益としてはフェッツにお支払いしたりする分少なくなるのだけど後援となってくれているお礼みたいなところもあるのだ。


 そんなフェッツから南のイバラツカにいる貴族から熱烈な購入の要望があったとジケに伝えられた。

 ここまで希望があった貴族のところに行って、いくつか種類があるアラクネノネドコをお試しいただいて買ってもらうようにしていた。


 そのためにイバラツカの貴族のところまで行くのは中々できていなかった。

 モロデラのこともあるし、まとめてその貴族のところにもいこうとジケは考えたのである。


 だからメリッサも連れてきた。

 イスコでもいいがこうした遠方に赴いて交渉なりする経験もメリッサには必要だ。


 イスコにも色々習っているようなので現場経験も積ませるのも会長の仕事なのである。


「美味いもんでも食って、ちょっと観光でもして、仕事はしっかりする。それでいいんだよ」


「……分かりました」


 ユディットやリアーネはジケといることも多いのであまりなんとも思わないが、タミとケリやグルゼイは普段会わない人なのでメリッサもやや緊張している。


「……てかこれ商品でしょ? こんなことしていいの?」


「お試しのやつだからな、別にいいんだよ。それに心地いいだろ?」


「あんたがいいならいいんだけどさ」


 荷馬車の床にはアラクネノネドコを敷いている。

 貴族にもお試ししてもらうものだけど場所も取るので一部を床に敷いて、汚れないようにシートをかけている。


 そのおかげで荷馬車の座り心地は最高だ。

 大丈夫なのかと聞いたエニもなんだかんだアラクネノネドコの座り心地は嫌いじゃない。


 流石に納品する新品の商品だと気が引けるけれどお試ししてもらうためのアラクネノネドコだからいいのである。

 荷馬車だから屋根はないけどアラクネノネドコが敷いてあるし不便さはない。


「イバラツカまでどれくらい?」


「もう着く?」


「いや、半分ぐらいだからまだまだ着かないな」


 荷馬車を引いているのはユディットのジョーリオである。

 荷馬車が大きめな都合上馬だと二頭必要になるのだけど魔獣なら一体でも大丈夫。


 でもあんまり負担もかけたくないので速度としてはややゆっくり目。

 急ぐ旅でもないからのんびりしていてイバラツカまでは半分といったところだった。


 一回だけ道に飛び出してきた魔物と戦うことになったけれどそのほかは平和なものである。

 タミとケリとしては早く着かないかと思っているようだが焦ってもいいことはない。


「村が見えてきましたよ」


 今はジョーリオが馬車を引いてくれている。

 だから御者台にはユディットが座っている。


 少し先に家が見えてきていた。


「少し早いけど……この村で休もうか」


 荷物から地図を出して眺める。

 見えている村から次の村までは距離がある。


 ここを通り過ぎてしまうとしばらく野宿となってしまう。

 時間的には早めであるが休んでおくのがいいとジケは判断した。

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