スイロウ族はいずこ1

 禁猟地となっている水源地近くはコルモー大森林という名前で呼ばれている。

 その名の通り大きく森が広がっているのだが奥の水源地には大きな湖がある。


 大森林という名前の通りコルモー大森林には木が鬱蒼と生えている。

 人が通れるような道もなく、そのため馬車どころか馬でも通行は難しい。


 なのでコルモー大森林の手前にある町で馬車と馬を預けて徒歩での移動になる。

 ここからはエスクワトルタの案内が大事になってくる。


 まず向かう先はスイロウ族の集落である。

 そこで無事にいてくれるなら問題解決に大きく前進する。


「ここは自然が豊かだな」


 モンスターパニックで虫が大量発生して国中の自然は荒れ果てた。

 けれど虫が来なかった場所もある。


 強い魔物がいたり虫に対して捕食者が多いようなところなど自然が残されているところもあるのだ。

 このコルモー大森林もモンスターパニックに荒らされなかった場所の一つ。


 禁猟地でありながら木などを切り倒すのも禁じられているのでモンスターパニック前と変わらぬ光景が残されていた。


「アクスマンティスだ!」


「総員戦闘準備! 第1、第2前に出ろ!」


 自然が豊かということは同時に魔物なども多いということになる。

 それら全ての魔物が臆病なはずもなく人を見れば襲いかかってくるものも当然に住んでいた。


 禁猟地であるが禁じられているのは積極的に魔物を追いかけ回すような行為であって、通常に襲いかかってくる魔物を倒すことまで完全に禁じられてはいない。

 手のカマが斧の形のように変化したカマキリがアクスマンティスである。


 ルシウスが素早く指示を出して騎士たちが戦闘態勢を整える。


「私たちはいいの?」


「危なくなったら戦うけど基本は自衛だけしとけばいいよ」


 ジの立場は微妙な感じであるが戦闘員として付いてきているのではない。

 エスクワトルタとトースの精神安定剤的な役割である。


 騎士たちの慣れた連携の中に混ざってはジは邪魔になってしまうし、周りを警戒しながら大人しくしているのが最もいい選択だ。

 見ていても騎士たちは連携の取れた良い動きをしている。


 普段からしっかり訓練をしていることが分かる。

 そしてその戦いの端にはウルシュナも加わっている。


 メインには据えないが今回はウルシュナも戦っていくようだ。

 端の方でサポート的な動きをしているウルシュナの動きもなかなか悪くない。


 訓練された騎士たちは魔物を圧倒する。

 統制の取れた動きであっという間に魔物を倒してしまった。


 今回の目的は魔物の討伐ではない。

 魔物の素材を持ち帰る必要はないので魔物の死体は一ヶ所に集めて火で燃やして処理する。


「やるじゃん、ウルシュナ」


「でしょ? 私だって遊んでるわけじゃないかんね!」


「か、カッコよかったです、お姉様!」


「おね……ちょっとトース!?」


「ふふ、ありがと、トース君」


 キラキラとした目をするトースにウルシュナは気を良くして頭を撫でてやる。

 トースのシッポが激しく振られて、エスクワトルタはそれをすごい顔で見ている。


 こんな風に慕ってくれる相手もあまりいないのでウルシュナもちょっとお姉さん感を出している。

 アカデミーでもウルシュナやリンデランを慕う人はいるけれど声までかけてくる人はいない。


 直接お姉様などと言われて熱のこもった視線で見られれば気分が良いのも当然である。


「ケガ人、消耗は?」


「ケガ人なし、消耗は軽微です」


「ではそのまま進行する」


 魔物を一々避けていては時間がかかりすぎる。

 真っ直ぐにスイロウ族の集落まで向かい、かかってくる魔物は倒す。


 鍛え上げられたゼレンティガムだから出来る強行軍。

 ゼレンティガムにも治療を行える魔法使いはいる。


 多少のケガはすぐさま治療もして少し強引ながら進んでいく。


「あれ、私たちの家が近い証」


「あれ?」


 エスクワトルタが木を指差した。

 なんら変哲もない木に見える。


「上の方」


「…………あっ」


 エスクワトルタに言われたように木の上の方に目を凝らしてみると黒い布が枝に縛り付けてあった。

 枝葉の中にあっては黒い布はほとんど目立たなくて言われなければ見つけられないほどである。


「この先……ウソ!」


「エスクワトルタ!」


 チラリと木々の間に家が見えた。

 エスクワトルタが走り出し、ジは素早くその後を追いかける。


「ひどい……」


 森の木々を多少伐採する権利がスイロウ族にはある。

 そうして場所を作り、伐採した木材で建てた簡素な家がスイロウ族の住処であった。


 スイロウ族の集落にはついたのだがスイロウ族たちはいなかった。

 壁が壊された家や中には完全に倒壊してしまっている家もある。


「お父さん……お母さん……」


 エスクワトルタが入った家は自身の家だった。

 見た目上損壊は少ないが中に入ってみるとひどく荒らされていた。


「大丈夫か、エスクワトルタ?」


「…………」


「エスクワトルタ?」


 ゆっくりと部屋を見回したエスクワトルタが壁の方にふらりと歩いていった。


「なんだあれ? ……針か?」


 エスクワトルタが見つめる壁の上に何本もの針が刺さっている。

 よくよく見れば違和感を感じる針。


 そんなところに普通は刺しておかない。

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