親は娘を、娘は親を心配し1

 ちゃんとした国の承認を受けてスイロウ族を助けに向かっている。

 先行した騎士たちが通る領地の領主のところに向かい、勅書を見せながら事情を説明したり通行の同意を得る。


 国の商人があるので通行の同意が得られないことはまずないけれど時に道が塞がれていてとか事情がある場合もある。

 いきなりのことで通る分には問題ないと答えるのが精一杯な領主も多いが賢い領主の中には兵を出して案内したり先回りして宿泊を手配してくれていたりもした。


 国の承認があるので費用面でも過度に浪費しなければ国の方で負担してくれることになっていて、なんと今回はジたちの分まで負担してくれる。

 その代わりにスイロウ族との繋ぎ役を期待されているのだろうとジは考えていた。


 速く走ったところで次の町まで間に合わないことも多くて野営しなければならないこともある。

 しっかりと訓練されたゼレンティガムの騎士たちは野営もお手のものである。


「心配か?」


 ジは焚き火を見つめるエスクワトルタに声をかけた。

 いつもならジの膝にいたがるフィオスであるがエスクワトルタの不安を感じてか、嫌がることもなくエスクワトルタに抱かれたままだった。


 ジも考え事をしたりする時には無意識にフィオスを触ったりする。

 その感触が好きな人にとっては精神的にも落ち着くような感覚がある。


 エスクワトルタがそれで少しでも落ち着くならとジはフィオスをそのままにしている。


「うん……お父さんは強い人。だけど戦士だから1番前に出て戦う……」


 最後にエスクワトルタたちが出発してからスイロウ族たちがどのようになっているのか分からない。

 無事でいてくれるといいのだけど良くない想像ばかりが広がってしまう。


 奴隷として売ることを考えた時に女性ならともかく男性だともしかしたらそのまま切り捨てられる可能性もある。

 もちろん力はあるのでそうした用途のために残されることも考えられる。


 当然まだ抵抗を続けていることだって十分にありうる。

 しかし他からスイロウ族の情報を得られもしないので結局は不安に思う他にできることがない。


 特にエスクワトルタの父親は戦士なので前に出て戦う人になる。

 余計に無事かどうか心配なのだろうと心中を察する。


「焦る気持ちもあると思うけどこれからエスクワトルタの協力が必要になる。しっかりと休んだ方がいい」


 大丈夫とか無事とか安易には口にしない。

 口に出していうのは簡単だけど本当に無事かは分からないので言えないのである。


 けれどいくつもの領地を越えてエスクワトルタたちの領域にも確実に近づいていた。

 エスクワトルタたちスイロウ族が暮らす水源地近くはあまり人の手が入っていない自然が豊かな場所である。


 一歩間違えると迷子にもなってしまう可能性もあるのでエスクワトルタの案内は必要だ。

 いざ案内する時になって体調を崩してはいけない。


「フィオスはそのまま抱いてっていいからさ」


「……ありがとう。私も寝る」


 エスクワトルタを含めてエとウルシュナの女の子たちは馬車の中で寝ている。

 ちょっと重たい足取りでエスクワトルタは馬車に入っていった。


「大変な役割を押し付けてしまってすまないな」


 そろそろジも寝ようかなんて考えていると隣にルシウスが座った。


「なんですか、大変な役割って?」


「周りの子に気を遣ってくれているじゃないか」


 エスクワトルタやトースだけではなくウルシュナに対してもジはよく見てくれている。

 今のところ不調など大きな変化はないけれどそれはジが気遣ってくれているからだとルシウスは笑顔を浮かべる。


 気丈に振る舞っているウルシュナにもストレスはある。

 今回の同行は後継者教育の一環であるし慣れない野営など負担になることが多い。


 それでも気心が知れた友達とジが細かく見てくれているのでウルシュナも普段通りに元気にいてくれる。

 ジとしてはあまり意識してやっていないことなのだけど他者を細かく思いやるのは意外と難しい。


 男ばかりの騎士では女の子の扱いだって不得意なのである。

 すぐに動かせる中に女性の騎士がいればよかったのだけど都合もつかなかった。


 今はジの護衛であるリアーネとジがいるので大きくは心配していない。

 ルシウスは感謝していた。


「友達のことを気遣うのは当然ですよ」


「その当然が難しいのだ」


 ルシウスも周りから気遣いのできる男と見られているが娘であるウルシュナとの距離感は測りきれていない。

 色々な人に聞いてみたけれどやはりその家族で違った距離感というものがあるのだ。


「私を含め騎士も君たちを守るがいざとなったら娘を頼むよ」


「……はい。俺は友達は見捨てません」


「まだまだ子供だというのに君がいてくれると心強いよ」


 ジが商会を経営して自立していないのなら騎士に誘ってもいいぐらいだとルシウスは思う。

 単純な強さだけではない能力がジは高い。


「明日には禁猟地となるところに入るだろう。君ももう休みなさい」


「分かりました。ではお先に失礼します」


 ジは自分たちで持ってきたテントの中に入ってすでに寝ているトースの横で寝始める。

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