心強い仲間
「よう!」
「ソコ!」
オセドーと別れて家に入ったジを迎えてくれたのはソコであった。
なぜか余り物のご飯を食べているソコはジに向かって軽く手を上げて挨拶した。
「まさか……」
「そっ。俺が派遣されたってわけ」
人さらいをするような連中は真っ当な組織ではない。
すぐに見つかればいいのだけど普通に探していてはなかなか見つけられないだろうと思っていた。
だからジはユディットにヘギウスに行ってもらっている間に情報ギルドに向かった。
闇の組織の話は闇に聞くのがいい。
なぜか情報ギルドではVIP待遇だったのですぐに動いてくれるだろうとは思っていた。
そして情報ギルドの方から連絡役として派遣されたのがソコだった。
まさかの人選にジも驚きが隠せない。
ソコと別れたのだってそんなに前のことではないのだ。
「一応今後もうちとジのところを繋ぐのは俺の仕事みたいなんだ」
「そうなのか」
ガルガトなりの配慮だろうか。
ジとしても知らない人やガルガト本人に来られるよりはソコの方が安心ではある。
「これが裏で危ないことやってる奴らのリストだよ。人身売買をしているのはその中で丸ついてるところ。今はまだ獣人が売りに出されるっていう情報はないって」
ソコは懐からリストを取り出した。
ジがそれを受け取って見てみると犯罪組織の名前が書いてあった。
「ありがとう。助かるよ」
「“面白いやつを寄越してくれた礼だ。出来るだけ力になるように”って師匠も言ってたからね」
「ふっ、師匠のそんなマネなんてして大丈夫か?」
ソコはガルガトの表情と口調をマネしてみせる。
意外と特徴は掴んでいてジも思わず笑ってしまう。
「バレないバレない」
後々なぜかバレていて怒られることになるのだけどソコはそんなことも知らずにジと一緒に笑っている。
「一つ聞きたいんだけどケルンの店の角近くで活動している連中は分かるか?」
ケルンの店の角近くとはエスクワトルタがさらわれた、危ない連中が集まっていた場所のことである。
情報ギルドに行った時にはまだエスクワトルタがさらわれたという情報しかなかったので広く犯罪組織の情報を集めてもらった。
しかし今はもう少し進んでさらわれた場所の情報がある。
犯罪組織も繊細なものであまり摩擦などは好まない。
その周辺で活動していない組織がいきなり離れた場所で人をさらうことはあり得ないのである。
「ケ、ケルンの店の角? ええと……俺まだ町にあんまり詳しくなくて……」
当然ソコはまだこの町で活動を始めたばかりである。
店の名前を言われたところでその場所がわからない。
「ちょ、ちょっと待ってて!」
ソコはジの持っていたリストを持って家の外に出ていった。
「……なんだ?」
何をしてるんだと思っていたら程なくしてソコが満面の笑顔で戻ってきた
「えっとね、エルンの店の角の近くで活動してるのはね、これとこれとこれと……」
ケルンな、と思うがとりあえずツッコむのはやめておいた。
家の外に出たところで知識が降ってくるはずもない。
きっとソコは誰かに聞いてきたのだとジはすぐに気がついた。
まだまだ未熟なソコではジに対応しきれないことがあるのは明白。
ガルガトもそれは十分に分かっている。
そのためにソコにちゃんとした情報ギルドの諜報員をソコに付けてあったのである。
ソコもそれは知っているのでジの質問に答えるために聞きに出たのである。
「近くで人身売買をしたことがあるのはこれとこれか」
広く探している時間はない。
ハズレの可能性はあるけれどある程度絞ってスピーディーに探さねばエスクワトルタが手遅れになってしまうかもしれない。
ジはリストの中から現場に近い犯罪組織かつ人身売買を行なっていた過去がある組織に目をつけた。
「この二つについて詳細な情報をお願い出来るか?」
「うん、分かった」
「頼むぞ。人の命がかかってるかもしれないんだ」
「任せておいて。師匠はすごい人だから」
「もうすっかりガルガトの弟子だな」
ちょっとばかり情けない少年だったのにほんの少し見ない間にソコもだいぶ男になってきたものだとジは感心した。
ソコも仕事はちゃんとやらねばと分かっている。
少し名残惜しいような気はしながらも後ろ髪引かれる気持ちを振り切ってソコはジの家を後にした。
「獣人の情報がないか……」
捕らえたエスクワトルタを売りたいと思うのならどこかで情報が出てくるはず。
なのにその情報がない。
情報がないというのもまた情報である。
「…………」
ジは腕を組んで考える。
まだ出来ることは何かないか。
「もう一ヶ所、行ってみるか」
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