奇妙なデュラハン2

「主人がつけてくれた地面の跡で追って来られました」


「あのボウズ……どこに向かっているんだ?」


「こっちだと……多分遺跡研究所の方じゃないかと」


 ソコが歩いていく方向からジは向かっているのは遺跡研究所ではないかと思った。


「遺跡研究所?

 なんでそんなところに……」


 それなりに立派な施設ではあるが特別盗み出すようなものもないし目的になりそうな場所ではない。


「分からない。

 けれど今はとりあえずソコを追いかけよう」


 ジたちはソコが向かった方に走り出す。


「こりゃあ……」


 遺跡研究所は一応ちゃんとした国の機関でもある。

 夜間は閉鎖され警備もいたのであるが扉は切り裂かれたように崩れていてその横に警備の人たちが倒れている。


 ニノサンが倒れた警備の人の容態を確認してゆっくりと横に首を振った。


「何があったんだ」


 異様な雰囲気がある。

 ジたちは剣を抜いて警戒しながら進む。


 先頭は暗闇でも魔力感知で敵を察知し、少し先の相手の奇襲にも対応することができるグルゼイが務める。


「ひどいな……」


 遺跡研究所の中を進んでいくと時折倒れている警備がいる。

 何かと戦ったのだろう武器を抜いている。


「この音は!」


 金属がぶつかり合うような音がする。

 誰かが戦っていると気がついたジたちは走り出す。


「バジリトさん!」


 戦っていたのはバジリトであった。


「あれはあの時のデュラハン!」


 その相手は遺跡で出会った少女の首を持つ奇妙な女型のデュラハンであった。


「ソコ……ニノサン、リアーネ、頼む!」


「承知しました!」


「任せとけ!」


 バジリトの後ろにはソコがいた。

 デュラハンからソコを守るようにバジリトは戦っているがそのまま押し切られそうになっている。


「はっ!」


 加速したニノサンがバジリトの前に出てデュラハンを切りつける。


「下りやがれ!」


 ニノサンの攻撃を防いだデュラハンにリアーネが追撃を叩き込む。

 リアーネの剣をかわしてデュラハンが後ろに下がる。


「大丈夫ですか、バジリトさん」


「ああ……どうにかな。助かったよ」


 バジリトは汗だくになっている。

 必死に防御していてギリギリのところだった。


 ジたちが駆けつけてくれなきゃそのまま切り倒されていたところであった。


「一体なぜ彼が……それに君たちも……いや、あの魔物がなぜ」


 バジリトは状況を理解できずに混乱していた。

 しかしジもこの状況がなんなのかいまいち分かっていない。


 とりあえず侵入者がいると警備のために遺跡研究所にいたバジリトが駆けつけてみるとソコがいた。

 なので守ろうとしてくれていた。


「主人、デュラハンが!」


 少しデュラハンとの睨み合いが続いていた。

 いつ攻めてくるのかと待っていたがデュラハンは突如して背を向けて移動し始めた。


「……ソコ……ああもう、追いかけよう」


 こんなところまで来たのには何か訳があるはず。

 ソコはジの制止を振り切ってデュラハンを追いかけ始め、ジは刺激しないように通路を進むデュラハンと距離を取り、ソコを押しとどめながら追跡した。


「あそこの部屋は……」


 太い鎖で施錠されたドアの上に危険物倉庫と書かれている。

 ソコに呪いをかけた魔道具が保管されている部屋であった。


 デュラハンは剣を振り上げると太い鎖を何度も切り付けて破壊した。


「あの中には……」


「待ってください」


 危険な道具があるのは分かるがデュラハンと戦うのは危険が大きい。

 デュラハンが危険な道具を欲しているとも思えない。


「私を殺して」


「うっ、ソコ!?」


 急に強く腕を掴まれてジが驚いたようにソコを見た。

 ソコはウツロな目から涙を流している。


「お願い、私を止めて。私を殺してほしいの」


「……君は誰だ」


 ソコなんだけどソコじゃない。

 ジの問いかけにソコのウツロな目が揺れた。


「私は。私は……誰?

 分からない。でも私はもう…………終わりなの。

 死ななきゃいけないの。でも死ねないの。

 誰か私を止めて」


「君はあのデュラハンなのか?」


「デュラハン……そう。私はデュラハンにされた。

 デュラハンと一つにされた」


 危険物倉庫の中からけたたましい音がした。

 ニノサンが覗き込むとデュラハンが道具が置いてある棚に向けて剣を振り下ろしていた。


「もうみんな死んだ。私も死ななきゃダメなの。

 この苦しみを終わらせて。

 お願い早く……デュラハンが解き放たれる……前に…………」


「おい……おいっ!」


 ふっとソコが気を失った。


「ジ!」


 倒れたソコを受け止めたジはパシパシとソコの頬を叩いて意識を取り戻させようとするがソコは気絶したまま動かない。

 ジはソコに集中しすぎて気がついていなかった。


 デュラハンが危険物倉庫から出てきて襲いかかってきていたことに。

 リアーネがジに向かって振り下ろされたデュラハンの剣を防いだ。


「グゥッ!」


 比較的力自慢のリアーネであるがデュラハンの力に押されて膝が曲がる。


「ほう、速いな」


 グルゼイとニノサンが一斉にデュラハンに向かって切りかかったがデュラハンは容易く2人の攻撃をかわして距離を取った。


「バジリトさん、ソコを安全な場所にお願いします!」


「しかし……」


「俺たちがデュラハンを引きつけるので」


 ジはソコをバジリトに任せてデュラハンの方を向く。

 正直バジリトの力ではデュラハンには敵いそうもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る