お宝鑑定1

「こちらが財産目録となります」


 ある時オニケッタがジの家を訪ねてきた。

 盗掘団から押収された財産がどれほどジの元に来るのか確定したので目録を作って報告に来たのである。


 色々な手続きやジが盗まれた人への財産の返還を決めたのでそうしたところで名乗り出るのを待っていたりと時間がかかった。


「思っていたよりも多いですね」


 目録をめくりながらジは少し驚いた。

 いくつか謝罪回りをして盗まれたものを返してきたそれでもまだ残っているものは結構あった。


「名乗りでない貴族もいますから。

 後ろ暗い入手経路のものが混じっていたりあるいはこうしたものから財産的な状況が押しはかられて脱税などの調査に繋がることを避けたい人がいるものです」


「なるほど……」


「後ろめたいことなどしなければ売られなかった物は返ってきたのでしょうに。

 なんと愚か。


 やはり現金で持っておくのが1番です」


「そうですか」


 やっぱりケニヤッタは少しばかり独特な感じがある。


「盗掘団が適正価格で取引したのでもなければどれをどれほどの金額で売り払ったのか調べることはできません

 そのために金銭につきましては今回賠償の対象とならず全額ジさんのものとなりました」


 お金が手に入るのはちょっと嬉しい。

 美術品でもらっても困るけどお金なら使い道はいくらでもある。


 前の持ち主が透けて見えるようなこともお金なら少ない。

 目録を確認していくがほとんどは小型の美術品のようなものであった。


 ソコが盗み出したものがほとんどなので簡単に手に取れるようなものが多い。

 中には何回か往復して盗み出したそれなりに大きなものもあるけれど数は多くない。


「目録だけでは分からないものも多いでしょうから一度どのようなものがあるのかご確認なさるのがいいと思います。

 このあとお時間があるようでしたら見に行くこともできますよ」


「じゃあお願いできますか?」


「分かりました」


 ーーーーー


「1つおうかがいしてもよろしいですか?」


「なんですか?」


 ジには美術品ってやつは分からない。

 ミュコぐらいになれば芸術のようなものだと分かるけど絵を見てもジはあまり何も感じない。


 それならフィオス商会の表にかけてあるフィオスの絵の描かれた看板の方が何倍も価値があると思う。

 だから多少の目利きも兼ねて助っ人を連れてきた。


 イスコである。

 今はフィオス商会の一員となったイスコは以前まで方々を旅して古美術などを取り引きを行っていた。


 美術品を見る目に関してはプロである。

 だからついてきてもらってものを見てもらう。


 細かな価値の鑑定は後ほどにして例えば特別な管理が必要なものとか良いものとそんなでもないものの数がざっくりわかるだけでも用意が違ってくる。

 あんまり高価なものがあるならジで管理せずヘギウスやゼレンティガムに寄贈でもして管理してもらった方がいいかもしれない。


 売却も考えるけど高いものを抱えているのにはそれなりにリスクも伴うのだ。

 オニケッタに連れられて盗掘団の財産を押収した衛兵所有の倉庫に向かっているとイスコがおずおずとジに話しかけた。


「いや、あの……会長は……貴族とお知り合いで?」


 ジが何者なのか気になった。

 何者であろうとフィオス商会で働くことに決心は変わらないのであるがよくよく考えるとジの不思議さに気がついた。


 助けを求めた時点でもすでにおかしい。

 子供の商会長など世界広しといえどいるものではない。


 そこからジはヘギウスとゼレンティガムの力を借りて盗掘団を先回りして捕まえた。

 やったことや行動力もさることながら助けを求めた相手を冷静に考えると驚くべきことである。


 この国で生きているなら一度は名前を聞いたことがある貴族。

 少し前に考えてみてジの人脈がとんでもないことに気づいたのだけど聞くような機会もなかった。


「うん、知り合いだよ」


 正確にはリンデランやウルシュナは友達で、ヘギウスやゼレンティガムと大きな枠で言えば友達というよりも知り合いになる。

 流石にパージヴェルやルシウスを友達という勇気はない。


 ひっそりとメリッサに聞いてみたら王族もジと知り合いだと言う。


「……会長は一体……」


「何者だと聞かれても俺は俺だよ。

 ジ。


 他の誰でもない、ジさ」


「他の誰でもない……」


 その言葉にイスコは少しドキリとした。

 自分は今、自分としていられているだろうか。


 他の誰かでもいい自分の姿になってはいないだろうか。

 子供の商会長の下で働くなど他の商人に話したら頭でもおかしくなったのかと言われることだろう。


 それでもジのところで働きたいと思ったのは自分を変えたかったし、自分を知らない人たちがいるところで働きたいと思ったからだった。

 ジは今二本の足で立っている。


 イスコだって立っているのだけどジと違って自分は別の商人がイスコに成り代わって立っていても構わないのだ。

 他の誰でもない。


 ジが何気なく言った言葉が胸に突き刺さったような気がした。


「イスコもいつかは楽しく仕事できるようになろうよ」


「楽しくですか?」


「うん」


 先日の商品開発会議でイスコは1人曖昧に笑っていた。

 生き馬の目を抜くような商人の世界を生きてきた。


 その中でイスコは周りに騙され、だからといってそこから成り上がるような力も運も気力もなかった。

 だから旅するように古い美術品に手を出した。


 競争相手も少なく利益も少ないので手を出してくる商人もいない。

 商人の争いから逃げ出した。


 けれど商人そのものからは逃げ出せない情けなさがあった。

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