一生のアニキ6
そもそも被害にあったのは悪人であっても貴族である人たちがほとんど。
盗まれた品物で無事だったものが返ってくることになれば金銭的な損得と貴族的な体面がぶつかりあう。
盗みをさせていた盗掘団は国に引き渡されて厳正な処罰を受けることになったとなると相手も基本的にはそれで話を飲み込むしかないのである。
そこにジは手を加えた。
誤りに向かうのはソコ、そして一緒にジも頭を下げるのだけど子供2人がいきなり訪れて謝罪をしたいと言っても受け入れてはくれない。
実際に盗みの実行犯になったソコへの圧力、あるいは盗みによって得たものを手に入れましたジに対する良くない脅しかけのようなものもあるかもしれない。
ジはともかくソコを責められることがあってはならない。
もちろん保護者となるべき人が同伴する必要があるのだ。
起きたことについての説明をしてくれて尚且つ謝罪に対して強い後ろ盾となってくれる存在。
ジはヘレンゼールにお願いをしてついてきてもらうことにした。
事件はヘギウスを離れて国が管轄することになったが大きな関係者であることは間違いない。
事の顛末を知っている人であり説明も上手で相手に説得感と大貴族としての圧力を与えられるのがヘレンゼールだった。
横にヘレンゼールがいる中で謝罪をすればヘレンゼールが取りなしをしなくとも相手の方は許さざるを得ないという寸法である。
しかしながら予想外のこともあった。
「それでは今回のことはこれで終わりということで」
「はは……本当に悪いものが捕まりまして、盗まれた品も返ってきたのにこれ以上何をいいましょうか」
想像もしていなかった援軍が現れた。
謝罪の場には謝罪をするソコとジ、説明や保護者となるヘレンゼール、そしてもう1人オニケッタという男性もいた。
このオニケッタという男性はジが望んで集めた人ではない。
だからといって勝手についてきたというのもまた違う。
オニケッタは国の財務官を務めるお役人であった。
なぜそんな人が一緒に来ているのかというと、理由はよく分からない。
多分王様なりの気遣いではないかとジは予想している。
盗掘団が捕まって国に引き渡された。
今巷を騒がせている泥棒だったし国同士での引き渡しも決まったとなれば上の立場である王様にも話が通っている可能性は大きい。
割とジの行動は王様に筒抜けになっているような感じがあるし謝罪回りをすることもどこかで察したのかもしれない。
ヘギウスが透けて見えるヘレンゼールに加えて国の偉めなお役人まで来られてこの話は終わりですねと言われたらもう一介の貴族如きで反論は許されない。
ヘレンゼールとオニケッタという証人もいるのであとから蒸し返すことだって出来ない。
「ジさんは子供ながら善意でもって盗品の返還を決めて、苦しんであるだろう被害者の救済に努めているのです!
寛大なお心で許して差し上げるのが筋だというものでしょう!」
ついてこないでください。
そう言うこともできなくてオニケッタも盗品リストなどを持ってどんなものが返ってくるかなど説明はしてくれるのだけどなんだか少し押し付けがましい。
ジとしてはそんな盗品を返すことを恩に着せるような感じで謝罪して許してもらうつもりじゃなかったけれどオニケッタがそこらへんを押し出してしまう。
「いいえ!
私は感動いたしました!
たとえ元が盗品でも今や自分の財産であって返還の義務などないというのに、ジさんはそれを直接謝罪までしながらお返しなさるとは!
私なら絶対にしません!」
少し押し付けが過ぎるのではないかと言うとオニケッタは大きく首を振った。
善意の暴走かと思っていたけどそうでもなかったようだ。
「道端で拾った硬貨であっても拾ったのなら自分のもの……
お返しなさる決断をされるのはお心苦しかったでしょう」
ジに感動したのは確かだろうけど若干そのポイントがズレている気がする。
「お若いのにご自分で稼がれているジさんは非常に尊敬に値します!
さらには教会や貧民の支援まで!
私は教会にわずかお金も落としたことはないのですが……」
止まらないようなオニケッタの話。
聞いている限りオニケッタの価値観の中心はお金なようだ。
なんで財務官になったのかよく分かった気がした。
中には怒って金で全て賠償しろなんて無茶なことを言う人もいたけれどそんな人はオニケッタが論破してくれた。
怒っていた人が挙動不審になって逆に謝罪してくるぐらいにはオニケッタは強かった。
「これで一通り回ったな」
盗まれたものが返ってくるならと快く許してくれる人もいれば不愉快そうな顔をして渋々許してくれる人もいた。
けれど一応盗まれた家々からは許しの言質は取った。
「あの……ヘレンゼールさん、ごめんなさい!」
移動がめんどくさいとヘレンゼールが馬車を出してくれていた。
フィオス商会特製の揺れの少ない馬車である。
謝罪回りを終えてオニケッタは別に帰ることになって、ジたちも帰路についていた。
オニケッタの押し付けやジの策略的なヘレンゼールの協力もあったけれど許しは得られてソコの気もかなり軽くなっていた。
あとは時間が解決してくれるのを待つしかないと思っていたらソコがいきなり立ち上がってヘレンゼールに頭を下げた。
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