一生のアニキ3

「あったあった、これだ」


 ジが箱の中から取り出したのはナイフのように見えた。

 ただ金属製ではなく柄から刃まで全て木製であった。


 不思議な模様が刃に彫られていて工芸品の一種だろうかとアルファサスは首をかしげる。


「あとは……」


 次に取り出したのは木の板。

 手のひらほどのサイズの細長いもので、3つほど丸く穴が開けられていてそこに大中小と大きさの違う丸い石が嵌め込まれている。


 透き通るような石は綺麗であるが何に使うのか予想もつかない。


「助けて……」


「今助けるよ。

 ……信じてるぞ、ウダラック」


 ジが持ってきた箱はウダラックから受け継いだものだった。

 呪いの研究をしていたウダラックから受け継いだものは呪いに関するものだった。


 特に研究を進めていたのは呪いを解くための方法だった。

 リッチ化を一種の呪いととらえて、解呪することによってライフベッセルの破壊によらない死を実現しようとしていた。


 結局その研究がウダラックを解放してくれるものではなかったがジはそれを無駄にするつもりはなかった。

 ジは石の嵌め込まれた木の板をソコの額に軽く当てた。


「これは何をしているのですか?」


「呪いの強さを測っています」


 ジワリと小さい石の中が濁り出す。

 小さい石が濁ると次は中くらいの石が濁り、最後には大きな石まで赤黒く濁ってしまった。


「これはどういうことですか?」


「やっぱり、と言いますかソコにかけられた呪いは強いみたいです」


 見た目には分からないかけられた呪いの強さを測れる道具であり、濁りが濃く大きい石まで濁るほど呪いは強い。

 大きな石が完全に濁ってしまった。


 ソコにかけられている呪いは非常に強いものだ。


「えーと……」


 ジは呪いを解く準備をする。

 ちゃんと手にはウダラックが残した魔道具の説明書もある。


 ウダラックは言われて仕事として整理をする分には非常にうまかった。

 けれど自身の荷物についてはあまり得意じゃなかったようだ。


 ごちゃごちゃの荷物から目的のものを探すのは意外と大変だ。

 ただウダラックの説明書はすごく綺麗な絵が書いてあるので言葉だけの説明で分からないといったことは起きなさそうである。


 部屋の真ん中に置かれてぼんやりとしているソコの周りにジはビンに入れられた粉を円を描くように盛り始めた。


「お次は何を?」


「解呪というのは呪いを解くことです。

 ですが言ってしまえば解呪もまた呪いに対する呪いなんです。


 代償を払って呪いを打ち消したり追い出したりするのが解呪という呪いになるんです」


「ふうむ、なるほど」


「呪いに対抗するためとはいえ呪いをかけるのですから相応の準備が必要となります」


 ウダラックからもらったナイフで解呪そのものはできる。

 けれど無理矢理解呪した時周りにどのような影響が及ぶのか分からないのである。


 準備をして周りへの影響を極力減らせるのであればその方がいいに決まっている。

 ジは説明書に従って周りに呪いの影響が漏れ出さなさいようにしているのだ。


「さて……やりますか」


 ジは黒いローブを羽織る。

 これもまた呪いの影響を防いでくれる物で、帽子タイプになっているものはフィオスに被せておいた。


 魔法使いが使っているようなとんがり帽子がどれほど呪いに効果があるのか知らないけど可愛いからよし。

 フィオスを出しておくのはソコが暴れ出した時に拘束する必要があるからである。


「これと……これ」


 片手にナイフを、そしてもう片方の手に魔石を持つ。

 ウダラックが保管していた強い魔物の高級な魔石である。


 ウダラックは呪いの解呪における代償を大量の魔力に置き換えることに成功した。

 本来なら術者にも負担がかかる解呪なのであるが適切な魔力さえ与えればそれを代償にして解呪を行ってくれるのだ。


 そのために魔石を使う。

 人よりも多くの魔力を溜め込んでいる魔石なら代償としてうってつけ。


 その代わり大量の魔力を保有する高い魔石が必要となるのだけど今回はウダラックが残してくれていたものがあるのでそれを使う。

 ナイフをソコの額に押し当てる。


 そして魔石をナイフの柄に触れさせる。


「いくよ」


 ジはソコの虚な目を見つめる。

 最後の最後までソコから反応はなかった。


 けれどこの虚な目の奥には助けを求めているソコがいるはずだ。

 ドコやソコの母親が見つめる中、ジはナイフに魔力を込め始める。


 するとナイフに彫られた模様が青く光り出す。

 ジに出来るのはここまで。


 ここからはウダラックが作った解呪のナイフの力の見せ所だ。

 ジの魔力によって発動したナイフは魔石の魔力を吸い上げる。


 ナイフが当てられた額からナイフに彫られている模様にも似た形をした光がソコの体に広がっていく。


「う……ううぅ……」


 光が広がるにつれてソコは顔を歪めて苦しそうな声を出す。


「くぅ……」


 同時にジも苦しそうな表情を浮かべる。

 ナイフが魔石だけでなくジの魔力をも吸い上げていた。


 抵抗することもできそうだったけれどジはあえてそのまま身を任せる。

 この少しの魔力でもソコの呪いを解くための助けのなるならば。


 ソコのためなら少ない魔力でも持っていけばいいと思った。

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