一生のアニキ1

「どうしてこんなことに……」


 大神殿の部屋の中でイスコは頭を抱えていた。

 盗掘団は捕まえてソコも助け出すことに成功したのだけどソコの状態は異常なままであった。


 目は虚でぼんやりを空中を眺めたまま、時折助けてと口にする。

 ジに2回もぶん殴られたのにソコの意識が戻らない。


 ソコの治療や検査のためにも大神殿に連れてこられたのだけどすぐにソコは奥に連れて行かれてしまった。

 例によって神官長であるアルファサスまで出てきた。


 相変わらず眠そうな顔をしたアルファサスがソコの治療に向かってから時間がだいぶ経っていた。

 イスコに付き添って待っているジも心配でたまらない。


「どうですか?」


「ヘレンゼールさん。

 そちらは大丈夫ですか?」


「ええ、ここに来る前に傷は塞がっていましたから」


 ソコに刺されたヘレンゼールも大神殿に来ていた。

 けれど治療を受ける必要もなかった。


 ヘレンゼールは抜かりのない男である。

 状況的に刺されることは避けられなかったが仮に問題が発生したとしても対応できるようにはしてあった。


「これも安くないのですがね」


 ヘレンゼールが懐から取り出したのは2本の瓶。

 それに入っていたのはポーションと解毒薬。


 大神殿印の高級ポーションである。

 ソコに刺されたナイフに毒があることを瞬時に察したヘレンゼールは懐から解毒薬を取り出して飲んだ。


 元々毒に対して耐性のあるヘレンゼールだったので毒の影響も解毒薬の助けもあってすぐに抜けた。

 次にポーションを飲んでケガの治療をした。


 そんなに力を込めてナイフを刺されたのでもなかったので傷は浅かった。

 なので毒さえ抜ければ問題なく動けていたのだ。


 今は大神殿でも念のため解毒してもらってジと合流した。


「ソコはまだどうなっているのか分かりません……」


 治療が進んでいるのか連絡もない。


「そうですか」


 流石に異常な状態であったことは理解しているのでヘレンゼールにもソコを怒るつもりはない。


「ソコ……お願いだ、無事でいてくれ」


「失礼します」


「アルファサスさん!

 ソコはどうですか!」


 やや重たい空気の中、アルファサスが部屋に入ってきた。

 その表情からはソコがどうであったのかうかがい知ることはできない。


「残念ながら治療いたせませんでした」


「な、なんでですか!」


 イスコがアルファサスに詰め寄る。


「顔のお怪我についてはもちろんお治しできましたが問題は精神状態の方ですね」


「せ、精神状態?」


「ソコさんは現在一種の洗脳状態にあります」


 盗掘団はソコのことを洗脳していた。

 人質は取っていたもののソコの能力の高さが魅力でありネックになった。


 手放すには惜しいほどの隠密能力。

 しかしそれを活かせばいつでも盗掘団のところから逃げ出せる。


 人質だけでは弱い。

 盗掘団は何かいい手はないかと考えた。


 そんな時に手元に以前洞窟で見つけた魔道具があったのだ。

 詳細なことはわからないけれど人を操れる魔道具なことは分かっていたのでそれをソコに使ったのである。


「ソコさんにかけられている洗脳は魔法ではなく呪いです」


「の、呪い?」


「そうです。

 かなり強力なもので神聖力でも解除することができませんでした」


 魔法と呪いの区別は難しい。

 けれど一応は別のものであるとされ大きな特徴として呪いは代償を伴うものであると言われている。


 中には魔法は魔力という代償を払っているのだという人もいるが呪いは魔力以外の代償も必要なのである。


「そんな……じゃあソコはどうなるんですか!」


「今現在我々に出来ることはありません。

 呪いをかけた人に解除方法を聞き出すか、呪いの専門家に調べてもらう他ありません」


「呪いをかけた人に聞いても無駄でしょう」


「そうなのですか?」


 もちろん大神殿に来る前に呪いの解除は試みた。

 正確には盗掘団に呪いを解くように言ったのだけど魔道具を使って呪いをかけることには成功したがその解除の方法は分からないと言われてしまったのである。


 どうしても気分が収まらないヘレンゼールが1人の腕を切り落として脅しかけてまで聞いたので間違いがない。


「ならばその魔道具や魔道具が見つかった場所などを調査する必要があるかもしれません。

 もしくは呪いをかけた本人にしか解けない可能性もありますね。


 少なくとも呪いをかけた魔道具は調査しなければならないでしょう。

 相当危険なものです」


「何という……兄さんにどんな顔して謝れば……」


 せめてソコさえ無事ならばと思っていたのに呪いにかかっていて、それが解くことができないなど最悪の事態である。

 イスコは頭を抱えて崩れ去った。


「呪いということはかけた本人にも代償があるのですか?」


「おそらくは。

 呪い殺すものではないので本人も死にはしないでしょうが精神に異常をきたす呪いなので本人にも同じような代償があるかもしれません。


 話を聞き出すなら早い方がいいでしょう」


「ジ君」


「ええ、お先に向かってください」


 話を聞いてヘレンゼールは早速動き出す。

 呪いの影響が出る前に盗掘団にちゃんと話を聞かねばならない。


 ヘレンゼールと目があったジはその意図を察してうなずき返した。

 こんな時でも仕事が早い。

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