のんびり休日4
「ええ……少し見てくれるかしら」
少し寂しげに笑うリンディアの頼みは断れなくてジは不思議に思いながらジは承諾した。
ヘギウスの邸宅のとある部屋。
中には所狭しと服があった。
ほとんどが女性もののドレスであったけれど隅の方に男性のものの服がいくつか。
しかしそれは小さくて子供用の服に見える。
この家にいる男性といえばパージヴェルだが確実にパージヴェルのものではない。
「すごーい……」
「カッコいい……」
ピシッとしていてデザインもいいとジでも思える。
「これはね、息子……そして孫のためのものだったのよ」
「孫?」
ジはリンデランを見た。
リンディアの孫はリンデランだ。
服からすると少し小柄かもしれないが着れないことはない。
顔がいいので男装しても似合いそうだなとは思う。
ただそんな趣味があったとは意外である。
「わ、私じゃありません!」
ジの視線の意味に気がついたリンデランが顔を赤くした。
リンデランに男装趣味があったということではない。
この服たちはリンディアがいつか生まれてくるだろう男の子の孫のためにと作ったものだった。
女性が当主になれないなんてことはないがやはり男性が跡を継ぐことが多い貴族社会。
リンデランの親はまだ若いこともあって何人か子を持ちたいと思っていた。
きっとその中には男の子もいるだろうとリンディアも期待をしていた。
結果的には亡くなってしまったのでこうした服だけが残されたのであった。
中にはリンデランの父親、リンディアの息子に向けて作られたものを子供用に手直ししたものもある。
「どうかしら?」
「大変素晴らしい服ですね」
ジも興味がないというだけで一般的な美的感覚は持ち合わせているつもりだ。
普段から着ていてもよさそうなものもあれば気合の入ったものまで色々ある。
けれどどの服も過度に派手ではなくて落ち着いた雰囲気があって割とジの好みではあった。
「あなたが着てくれないかしら?」
「……えっ」
なんとなく予想はしていた。
ここに連れてきてもらって服を見せてもらって終わり、とはいかないだろうと。
「しかし……」
「着る人がいない服なんて悲しいものじゃない?
服は誰かが着てこそなの。
……あなたならこの服を着るのに相応しいと私は思うの」
もっと良い人もいるはずだと言いたいけれどリンディアの思いもむげに出来ない。
むしろこの服を着るのにジでは力不足ではないかと思うのだけど作った本人がそう言うなら少し着てみよう。
「俺で良いのなら着てみてもいいですか?」
「こちらこそお願いするわ」
と、いうことで始まるファッションショー。
メイドさんが何人か手伝って服を着る。
派手な色のものもあるけどそれはジが好まないので落ち着いた色のやつを着ていく。
落ち着いた色なのだけどだからといって暗いという印象もない。
リンデランとタとケが着替えたジを評価する。
最初は恥ずかしかったけど褒められていると気分も良くなってきて恥ずかしさもなくなってくる。
布地もいいものを使っているので軽くて肌触りも良く、見た目だけじゃなくて機能性も良くて動きやすい。
「ジ兄カッコいい!」
「うーん、さっきの方が好き」
「ちょっとこう……前髪あげてみませんか?」
こうして着替えてみると意外とタとケでも微妙に好みが違ったりするのは面白い発見である。
中にはオシャレな服だけじゃなく魔物の素材を生かした丈夫な服まであった。
破れにくかったり、少しのほつれなら勝手に直るなんてものまであって驚きだった。
「ちょ……これは」
「はい!
着ますよー」
「ええ……いや、その」
「はーい」
段々とメイドさんたちも乗ってくる。
悲しいかないつの間にかヘレンゼールはいなくなり、残された男はジ1人なのでもはやされるがままになるしかない。
「これもう関係なくない?」
「どうですかね……?」
「いいんじゃないかしら」
「聞いてなーい」
整髪料で髪を撫で付けられてレンズの入っていないメガネもかけさせられた。
「じゃじゃーん!」
「おおー!」
「満点!」
「いいじゃないですか!」
「あら……似合ってるわね」
完全に遊ばれた。
真っ白い布地で作られたピシリとした礼服をジは着させられていた。
仕事の出来る男みたいな格好に、なぜか髪も整えてメガネまでセットで服以外のところまでコーディネート済み。
普段とは違うジの姿に3人が顔を赤くする。
ジは慣れない格好に不安げだがリンデラン、タ、ケは最高評価だった。
なぜか誇らしげなメイドさんはやっぱりメガネをワンポイントにしてよかったと胸を張る。
「……今から画家を呼ぶので絵にしませんか?」
「それは遠慮しとくよ、リンデラン」
最近体格も成長してきた。
貧相だった体が肉がついて見栄えするようになってきたので服も似合うように多少はなったのかなとみんなのキラキラした視線を見てジも恥ずかしながら思う。
「好きぃ……」
「カッコいい……」
「お気に召してくれたかな?」
タとケがフラフラとジに近寄って抱きついた。
ケはワイルドな感じのカッコよさ、タはクールな感じのカッコよさが好きなようである。
普段のジももちろんカッコいいけど着飾ってオシャレしたジは初めて。
装飾品も付けているのを見たことないので本当に新鮮でタとケも大興奮である。
しかし公式的なお堅い場所ならともかく普段からこの格好はしていられない。
オランゼの用意したあの服に比べたらこちらの方が遥かに良いけれども普段着ではない。
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