したたかさ2
パージヴェルが反対するだろうことは分かりきっていた。
正直に言えばリンディアも最初から同行するのは反対である。
やはり危ない。
でもリンデランの気持ちも分からないでもないし若いうちに出来る経験は貴重なもので、やっておけば大人になった時に役立つことだってある。
現にリンデランは強くなった。
どこか自分を押し殺して意見なんか言わなかったような子なのにいつの間にか自分というものを持ち始めている。
リンディアは自身が子供の時にそのようなことが出来ていただろうかと考えた。
おそらく出来ていない。
今現在服飾関係の仕事をしているけれどそれも元を辿ると貴族としての役割に反発して始めたようなところがある。
当時からそれが好きだったし今でも好きだけど始めた理由は不純で、何かを成し遂げたくて始めたようなものでもない。
逃げ、あるいは現実から目を背けたかったのかもしれない。
だけどリンデランはやりたいことはやりたいと最近ちゃんと言う。
ダメだと言われても理由を聞き、改善してまた交渉する。
むしろリンデランに諦めさせるのは意外と骨が折れるぐらいである。
今回はひとまず策を練った。
リンデランとしても自分の立場やダンジョンの危険性は理解している。
だから折衷案を取ることにした。
ダンジョンを多少攻略してどんなものか分かってから参加する。
およそジたちにとって危険ならそのまま参加しないこともあり得るし、調べてからなら危険度も下がる。
あたかも最初から一緒に行くように見せかけてそこから条件を下げた。
そうすることでパージヴェルからもダンジョンに行くのもダメというところから完全に未踏破でないのならと許可を引き出したのだ。
本来ならこうした時にパージヴェルを止めるのはリンディアかヘレンゼールである。
けれどリンディアはリンデランの味方。
さらにはヘレンゼールにもすでに手を回してあった。
リンディアに抜かりはない。
ヘレンゼールも止めないならというところがパージヴェルの中にもあるのだ。
「……しかし、な。
ヘレンゼール」
「無理です」
「まだ何も……」
「しばらく領地の方にも行っていないではありませんか。
そろそろ行かないとカーミックが起こりますよ」
「それこそワシがいけば……」
「それていいなら私に苦労はないですけどね」
「うっ……」
パージヴェルにも領地というものがある。
といってもその領地はリンデランのものである。
パージヴェルは一度引退している。
自分の息子夫婦に家督を譲って領地を任せた。
しかし不幸があってリンデランの親でもある息子夫婦は亡くなってしまった。
そのためリンデランがその領地を引き継ぐことになったのだけどリンデランでは若すぎた。
そのためにパージヴェルが復帰して名目上はリンデランの領地ではあるがパージヴェルが管理しているのである。
なのだけどパージヴェルが領主の時から管理は管理代理人の執政官を置いて行っていた。
しかし全てをずっと任せきりにも出来ない。
直接領地に赴いて重要決算だったり領地経営が正しくなされているかの視察などやらねばならないことがある。
ちなみにルシウスも領地があってパージヴェルと似たようなものであるがこちらは領地と首都を行ったり来たりしてパージヴェルよりもちゃんと管理を行なっている。
「カーミックさんに迷惑かけちゃダメですよ!」
カーミックとは現在パージヴェルの領地の執政官をやっている人である。
優秀な文官で大きな裁量権も与えられているが領主でない以上限界はある。
このままいけばリンデランも支えることになろう人である。
負担をかけすぎて辞められても困るでリンデランに釘を刺されるとパージヴェルが困り顔になる。
ヘレンゼールはそうした書類仕事での相談役も務めている。
パージヴェルだけ行ってちゃんと仕事してくれればいいのだけどそうではなかった時もある。
だから1人で行かせられない。
「ちゃんと報告はあげますのでそれで勘弁してくれませんか?」
ガッツリ家中の会話の中に置かれてジも肩身が狭い。
たっぷり注がれたお茶がすっかり冷めてしまっているけどなんだかこの会話の中で手を出すのもはばかられた。
というか早く帰してくれと思う。
「……仕方がない。
危険がないことなどあり得ないがどのようなダンジョンなのか事前に報告をしてほしい。
リンデランが行くのに危険だと判断したら決して行かせないからな」
「危なかったら俺も行きませんよ」
もし手に負えないほどのダンジョンなら早々と他に情報を渡して攻略してもらうしかない。
ロマンはあるけどそのために命は投げ出すつもりはない。
「大丈夫ですよ、おじい様。
ジ君が守ってくれますから」
「スー……」
なんと答えるか迷ってパージヴェルから息だけが漏れた。
孫を守ってくれと言いたいけどあんまり近づきすぎるなよとも言いたい。
矛盾する2つの思いにただ怖い目でジを見つめるだけとなる。
むっちゃ怖い。
「……行くことになったら死ぬ気でリンを守ってくれよ」
優先なのはリンデランの無事。
最終的にはリンデランとリンディアの策略が勝ってリンデランはダンジョンに同行することを許されたのであった。
「どうせならこのままお昼食べていきませんか?」
「いや……俺は……」
「そうですか……」
シュンとなるリンデラン。
ちょっと会話を引き伸ばせば昼に差し掛かる時間になることも見越していた。
早めではあるけれどお昼を食べてもいいぐらいの時間にはなっていた。
「リンの誘いを断るのかぁ?」
「……じゃあ、食べていくよ」
あんたどっちなんだとジは思う。
リンデランの残念そうな顔を見てジにすごむパージヴェルの立場を理解しないわけではないがあまりにも孫に左右されすぎだろう。
ジが昼食を共にすることになって嬉しそうなリンデランを見てパージヴェルも嬉しいのだけど隣にジがいるのはなんだか複雑な気持ちのパージヴェルであった。
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