トリ頭とは言わせない2

「少し警戒した方がいいかもな」


 植物などが無事だということは魔物がいる可能性も高い。

 リアーネは真面目な顔をして警戒を強める。


 経験者であると調子に乗って魔物に不意をつかれては笑えない。

 草だけだったのが徐々に木も増えてきた。


 葉っぱの生えたしっかりとした木々である。

 ここら辺でいいのかとパムパムを見てみるとキリッとした顔でゆっくりとうなずいた。


 どうやらパムパムの記憶通りに進んでこられているようである。

 こうした場所なら住むのには良さそうだ。


「なんだ?


 ……パムパムじゃ……おいっ!」


 突如鳥の声が聞こえてきた。

 甲高い叫び声のようなものでやや遠くから響いてきて、もちろんパムパムの声ではなかった。


 その声を聞いてパムパムが走り出した。


「追いかけるぞ!」


 ジもパムパムを追いかけて走り出し、リアーネとユディットもそれに続く。

 パムパムの足は速くて引き離されていくけどどうにか食らいつく。


 走っていくと何が起きたのか見えてきた。


「ウェアウルフ!」


「それにキックコッコもいますよ!」


 二足歩行をするウルフにも似た見た目をした魔物のウェアウルフがいた。

 その手には1匹のキックコッコが握られている。


「ゴケェッ!」


 ウェアウルフにパムパムが飛び蹴りを入れる。


「コ……コケ!」


 キックコッコを手放してウェアウルフがぶっ飛んでいく。

 力なく地面に落ちたキックコッコは動かなくてパムパムは動揺する。


「リアーネ、ユディット、ウェアウルフを頼む!」


「任せな!」


「分かりました!」


 リアーネとユディットは剣を抜いて立ち上がろうとしているウェアウルフに向かった。


「フィオス!」


 ジはフィオスを呼び出してキックコッコに投げつけた。

 フィオスには申し訳ないけど少しでも早くフィオスをキックコッコに届けたかった。


 ポヨンと地面にワンバウンドしてキックコッコのところにたどり着く。

 そしてグッタリとしているキックコッコを体の中に取り込む。


「コケェーーーー!?」


 何をしてるんだとパムパムが驚いている。

 そりゃ当然の話であるがこれは何もフィオスにキックコッコを処理させるためではない。


 フィオスがプルプルと震えるとパムパムはジッとフィオスを見ている。

 伸ばしかけた翼を引っ込めてフィオスにキックコッコを任せることにした。


「パムパム、他のキックコッコは!」


 今はそれで安心している暇もない。

 ジの言葉にハッとしたパムパム。


「一緒に行くぞ!


 どっちだ」


「こ……コケ!」


 パムパムの後をついていく。


「まだいたのか!」


 ウェアウルフは1体だけじゃなかった。

 2体のウェアウルフがまとまってどうにか抵抗しようとするキックコッコを舌なめずりして品定めしていた。


 流石に2体もいるのはちょっと予想外だった。


「パムパム、お前が1体引きつけろ!


 俺がもう1体やる!」


 こうなったらキックコッコを守るためには戦うしかない。

 きらめく白い魔力の軌跡を残しながらジはウェアウルフの1体に切りかかった。


 ウェアウルフは突然の乱入者に驚いたがすぐに怒りを覚えた。

 せっかくのご馳走タイムを邪魔されたのだから当然である。


 ジの剣を飛び退いてかわし、すぐさま鋭い爪を振り回して反撃に出る。


「コ、ケェ……」


 一方でパムパムはキックコッコともう1体のウェアウルフの間に割り込む。

 ウェアウルフからしてみるとデカいキックコッコが増えた。


 美味そうなエサが自ら飛び込んできてくれたぐらいにしか思っていなかった。

 しかし怒りに燃えるパムパムをただのエサなんて侮ってはいけなかった。


「コケェーーーー!」


 パムパムがウェアウルフの懐に入り込んだ。

 キックコッコらしからぬ速さにウェアウルフはパムパムを見失い、下から顎を蹴り上げられてようやくパムパムを敵だと認識した。


「コケ!」


 空中に浮き上がったウェアウルフにパムパムはグルリと一回転して回し蹴りをくわえる。


「コケ、コッケ?」


 そして例の如くトサカを撫ぜながらキックコッコたちに声をかける。

 コケーッとキックコッコたちから黄色い歓声が上がる。


 1匹のキックコッコが歓声とは違う鳴き声を上げた。

 後ろから迫るウェアウルフが爪を振り上げていた。


「コケェ……」


 体を逸らしてウェアウルフの爪をかわす。

 交わしきれなかった羽が1枚切られて落ちる。


「大丈夫か……」


 ウェアウルフとパムパムどちらが強いかなどジには予想がつかない。

 パムパムが大きなダメージを受けてしまえばヒにもダメージがある。


 出来るならパムパムは無傷で戦いに勝利したい。

 けれどジもパムパムのことは気にかけながらも加勢する余裕はない。


 ウェアウルフの素早い爪攻撃を防ぎ、かわすのにいっぱいいっぱいになっている。


「はっ!」


 ここで焦ってはいけない。

 冷静に攻撃を防ぎながら反撃の隙をうかがい、ウェアウルフを切りつける。


 固い部類ではないので魔剣も相まって簡単に切れるが代わりに素早くて致命傷になるような大きな隙を見せない。

 魔物の怖いところは人と違うところである。


 痛みがあると人は怯んだりすることも多いのだけど魔物はそれでもそのまま攻撃してきたりする。

 もちろん怯むこともあるのだけど怯むだろうと楽観視して深追いして攻撃すると手痛い反撃を食らうことになる。

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