あいつ兵士辞めるってよ4

「前に言ってくれたよな。


 俺がダメになったら養ってくれるって」


「……そんなこと言ったかもしれない、かな?」


「あれ、嬉しかったよ」


「ま、まあ必要なかったけどね……」


 エはちょっと照れくさそうに頬をかく。


「エが言ってくれたように俺もエが困ったことがあったら助けたいと思ってる。


 俺も今はちょっとだけお金があるんだ。


 エを養うことだって出来るよ」


「…………もう」


 ジが鈍い男なことは分かっている。

 まだまだ自分たちは子供で、ジがそうした意図で言っていないことなど分かってるのになんだかまるで。


「……バカ…………」


 エの顔は真っ赤になっていた。


「それに目標がないって言ってるけどエだって目標に向かって頑張ってるさ」


「どういう、こと?」


「目標がないって足掻いてる。


 目標を見つけたいって努力してる。


 目標を見つけるっていう目標があるんだ」


 過去のジは目標を見つけるということすらしなかった。

 日々をただ生きていた。


 その点でエは目標や生きる意味を見出そうとしている。

 今仮に目標がなくてもいい。


 何もなく怠惰に


 何かを見つけようと足掻くことは決して無駄なことじゃないから。

 目標を見つけようと努力することは素晴らしいことだから。


「きっと探していればエのやりたいこと、やるべきことが見つかるよ。


 それが兵士じゃなかっただけの話で、誰しもそれを探す権利がある」


 ジは過去でその権利を投げ打ってしまった。

 今は今でやりたいことが多すぎるかなっていうのはちょっと悩みだったりする。


 でも目標にすることに向かって努力することはすごく素晴らしいことであると身をもって実感した。

 過去ではジという枷もあってエが本当にやりたいことを見つけられたか疑問に思う。


 でも今回は、今回こそはエにもやりたいことをやってほしいと思う。


「辞めちまえよ。


 俺が支えるからさ。


 エが本気でやりたいことを、人生の目標って堂々と言えることを見つけようぜ」


「……見つかるかな?」


「見つかるさ。


 ……見つかんなくても養ってやるから大丈夫だって」


「ん……あんがと」


 実は1つ目標というか、やりたいことはある。

 兵士を辞めれば少しやりたいことは実現できる。


 なんなら今この状況もやりたいことの一部であると言える。


「まあ……でも兵士辞めてもお金ぐらいは稼ぐことは考えなきゃな」


「それはそうだね」


「教会の仕事はどうだ?


 エならあっちの方からお願いしたい……なんだよその目」


「ふぅーん?」


「な、なんだよ?」


「どこから私が辞めるって聞いたのか不思議だったけどそっちの方からね?」


「うっ!」


 さすがにエの勘は鋭い。

 このタイミングで教会のことを口にしたのに違和感を感じた。


「アルファサスさん……かなぁ?」


 ドンピシャ。

 エの燃える様な瞳に見つめられて思わずジは目を逸らしてしまった。


 今も昔もこの目には弱い。


「……まあでも教会はいいかも」


 割と教会の人はみんなチヤホヤしてくれる。

 仕事を辞めるかもとポロッと漏らしたのも確かに教会でだと思い出した。


 大変だけどやりがいもある。

 治療魔法をもっと極めればジの役にも立つかもしれない。


 寮に入らなきゃいけない兵士よりも教会の方が多少緩く働くこともできる。


「まあでも!」


 エはパッと立ち上がった。


「とりあえず兵士は辞める!」


 吹っ切れた様な笑顔を浮かべてエは振り返った。


「教会でも働いてみるし、後は……ジのところでも雇ってよ」


「ウチでか?


 いいけど」


「それでもダメだったら……ジに一生養ってもらおうかな」


「……任せとけ」


 今度はジがエを支える番だ。

 過去の恩返しってわけじゃないけどエがしてくれようとしていた分を少しでも返していきたい。


 それでようやく対等になれるんだ。

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