食うか、食われるか11
ライナスにこちらの方なんて言われると居心地の悪さを感じる。
「君たちも良くやってくれたとちゃんと聞き及んでいる。
ひとまず優先はこの変異体だ。
まだ完全に倒せてはいないようだが……このまま倒せるのか?」
リダヘーラはその赤い瞳をジに向けた。
ゴブリンを倒せるなら今の状態を維持しておくのが好ましい。
「うーん……時間をかければ可能かもしれませんがどれだけかければ倒せるかは分かりません」
「そうか。
ならばいざとなれば君にまた頼ることもあるかもしれないけれど一度私たちに任せてもらえないだろうか?」
「もちろんです」
倒してくれると言うなら反対するはずもない。
「早速かかろう」
慌ただしく動き出す。
馬車や死んだ者たちを遠く離れた場所に移動させる。
最初に噛みちぎられた騎士は助かったがそれ以降の人たちは多くがやられてしまった。
そして移動を終えたら特殊部隊の人たちがゴブリンを囲む。
「いいですかぁ〜?
えぇと、ジ君、私が合図したらあのスライムちゃんを引き上げさせてね〜」
「はい、分かりました!」
「ふふふぅ、いいお返事ね〜」
「クロッコ、準備はいいか?」
「もちろんよ〜」
フィオスに囚われたゴブリンの前に立つジとリダヘーラ。
ぽやんとした雰囲気の女性魔法使いクロッコに視線を送るとリダヘーラが剣を抜く。
また体を再生させてどうにか抜け出せないかと弱くはなったけどまだもがいている。
「いくぞ!」
リダヘーラがゴブリンの首を切り落とす。
「フィオス、こっちに!」
フィオスがゴブリンを捨てて両手を広げたジに飛びつく。
ゴブリンを食べてたせいかちょっと大きいフィオスをキャッチ。
「クロッコ!」
「はぁ〜い」
リダヘーラがジを抱えて一気に後ろに飛び退く。
そしてクロッコがゴブリンが逃げず、魔法の余波が外に漏れないように結界を張る。
「みなさーん、お願いしまーす」
リダヘーラに抱えられて結界の外に飛び出したジ。
次の瞬間ものすごい音と光に包まれて世界の終わりを見たような気分になった。
パージヴェルを含めた特殊部隊のみんなが一斉に魔法を放った。
結界の中での出来事なのに大地は揺れ強い光と轟音の只中にいるような錯覚すら起こさせた。
ライナスはここまでする必要があるのかと思ったが相手がより危険な存在になる前に確実に倒さねばならないのでオーバーすぎるように見えても全力で消しにかかった。
多少自分も強くなったような気になっていたけれど上にいる人たちは段違いの強さなのだと思い知る。
パージヴェルも強いと思っていたがやはり本気で魔法を放つとその力強さは戦争の英雄と呼ばれているに相応しいものだった。
「もしアレで倒せないようなら君の力が必要かもしれない」
リダヘーラは手を出さない。
いざという時にゴブリンと戦う人員は必要であるからだ。
「あんなのでダメだったらフィオスでも一生倒せませんよ」
光と音が収まってそこにゴブリンの姿は見えなかった。
結界の中はまるで地面をくり抜いたように陥没していて魔法の威力の高さが見ただけで分かる。
あの魔法の威力に耐えられる結界を張ったクロッコという女性も何者なのだとジは思った。
「すっげえな……」
「俺じゃ一生かかっても無理だけどお前やエなら鍛錬を続けていけばああなれるさ」
「ああなれる……かな?」
「お前がサボんなきゃな」
「……あんなの見せられてサボれるわけないだろ」
国でもトップクラスの実力者たちの力を見せつけられて諦めるどころかライナスの心には熱いものが込み上げていた。
師匠であるビクシムも実力者だけどその全力を見たことはない。
雲の上の強さで漠然として目標にするのも難しかったけれど雲の上をわずかに垣間見た気がした。
「でも今回の立役者はフィオスだよねー」
「そうだな」
「もっと褒めてやってくれ」
「よくやりましたー!」
「さすがだぞフィオス!」
フィオスの喜びが伝わる。
喜びでプルプルとジの胸で震える。
しばらく特殊部隊で陥没した地面をゴブリンが再生しないか警戒していたけれどチリの一つも残らなかったゴブリンが再生してくることはなかった。
しかし何があるか分からないのでゴブリンがいた周辺は人が立ち入れないように閉鎖されて騎士団が交代で監視を行うことにはなった。
ジなど特殊部隊でない人たちは危険であるのでパージヴェルたちがついてスキムット近くの駐屯地に向かった。
そこでキャラッグやエ、ライナスたちとは別れて別の騎士がついてジたちはスキムットまで送ってもらえることになったのであった。
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