リアーネからの救援要請4

 今回モンスターパニックで発生しているのは小型の虫。

 これはキックコッコがエサとしているものでもある。


 そう、虫によるモンスターパニックが起きている原因はキックコッコなのである。

 大量に増えたキックコッコは大量に虫を捕食する。


 しかし増えるキックコッコに対して虫はそんなに急に増えはしない。

 キックコッコによって一瞬絶滅ぐらいにまで虫の数は激減した。


 追い詰められた虫たちはとにかく隠れて生き延びて、そして数を増やして子孫を増やそうとした。

 そのタイミングで人がキックコッコを討伐し始めた。


 今度はキックコッコの方が周辺から根こそぎ討伐されてしまった。

 その上キックコッコに押されるようにして他の魔物も地域から逃げ出してしまっていた。


 天敵もいない。

 ただ本能として生き延びるために虫は数を増やし続けた。


 すると足りないのはこちらでも同じく食べるものである。

 未だに冒険者はキックコッコを探しているので虫たちは首都とは逆の方に広がった。


 抗えぬ本能に従い数を増やしながら移動する虫たち。

 これが今起きているモンスターパニックであった。


「そうなんですか……」


「虫と言っても魔物。


 普通の虫は大勢で固まっているとそんなに襲ってくるものではありませんがモンスターパニックによる大量発生と飢餓のために人にも襲いかかってくるのです。


 なので早期の鎮圧を図るために我々も派遣されたのです」


 キックコッコと違って小型の虫は倒しても旨味が少ない。

 どれだけ倒したかのカウントも難しく冒険者は倒したがらない。


 だから素早く事態を収めるために国の兵士を動かしたのだ。


「ですのでさらに先は一般の方は通行止めとなっているのです」


「えっ……」


「申し訳ありませんが安全のためなのです」


「そうですか……どうにかなりません?」


 それは困る。

 建国祭までは日数があるので多少の足止めは構わないのだけど呼んどいて食料不足にあえがせるわけにいかない。


「何か事情がおありですか?」


「俺たち商人でして、ちょっと商売関係で……」


「特別な事情があるなら許可が下りないこともないですが……」


「事情があっても厳しいですかね……」


 どう見たってジたちだけは厳しいところがある。

 ユディットはともかくジは完全に子供。


 その2人だけでは防衛力に不安があると見られてしまうのでこうした事態の下では許可されないだろうと小隊長は思う。


「どうしようか……」


 ここまできて足止めくらうなんて思いもしなかった。


「ここいらは虫の被害もありますがそのせいで食料品などが不足したりして価格が高騰してます。


 それで盗賊などの悪行に手を染める人も増えているのです。


 お急ぎでなければ事態が落ち着くまでは留まるのがよろしいかと思いますが」


「なるほど……話は分かりました」


「1つお聞きしてもいいですか?」


「俺ですか?」


 小隊長の話を聞いて今後どうしたものかと険しい顔をするジ。

 騎士の1人が馬を寄せてジに声をかけてきた。


「もしかしてですけどフィオス商会さんですか?」


「そうですよ」


「あっ、ホントですか!」


「フィオス商会?」


「あれですよ、隊長が自慢してたじゃないですか。


 俺もとうとうフィオス商会の馬車買ったーって」


「それが……こちらの?」


「そうですよ、青円の商会。


 青い円のマークが特徴で子供が商会長って話ですけど……あ、もしかして……」


「そのまさかですね」


 ジの乗っている馬車にはフィオス商会のマークがちゃんと載せてある。

 あまりそれで気づいてくれる人はいないが少しずつそうした商品以外のところも話が広まってきているようだった。


「……ヤバいっすよ、そんでフィオス商会といえば大貴族と繋がりもあるし王族とも……ヘギウスの隠し子なんて噂まで」


「聞こえてますよ……」


「あ、おいっ!


 すいません!」


「いてっ!」


 小隊長に殴りつけられる騎士。


 以前からヘギウスと懇意にしているジにはヘギウス家の隠し子だという噂があったりもする。

 それでもパージヴェルの方じゃなくて商人なのでパージヴェルの弟のウィランドの方の隠し子ということになっているらしいけど。


 なんかウィランドの方も否定しないらしいのでそんな噂が細々と続いている。


「大丈夫ですよ、噂は噂です。


 ウソのものも多いです」


「本当のものもあるんだ……」


 ジの方も事細かに否定はしない。

 よほど不利益になることじゃなければ放置しておく。


 今のところの大体の噂はそんなに悪いものじゃない。

 ウィランドの方が否定しないなら隠し子の噂はそのままにして他に対する牽制にしておく。


「不味くないですか?


 もし本当に貴族方と繋がりがあったら……


 せめて隊長にぐらいは報告入れといた方が」


「ううむ……」


「報告上げりゃ何もなくても言われるのは小言で済みますが上げなくて問題になった時が問題ですよ」


「そうだな」


 こういう時の後ろ盾。

 ジから仄めかしたものでもないがあっちが何かしてくれるからありがたくその行動を待つ。


「ひとまず上の者に聞いてましょう。


 もしかしたらお通しできるかもしれません」


「本当ですか、ありがとうございます」


 少なくともこれで責任は逃れられると小隊長は思った。

 誰かに告げ口することなんてしないけど勝手に勘違いしてくれるならジは何も言わないのであった。

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