6フィオス、百人力1

「ライナス、頼みがある!」


「ん?


 金ならねーぞ?」


「はは、残念ながら今の俺はお前よりはるかに金持ちなのだ!


 食ってるケーキ見てみろよ」


「クッ……確かに!」


 みんな腹も満ち足りて、暖かい家の中でまったりと過ごしていた。

 ジはもう一個の目的を果たそうとライナスに声をかけた。


「まあ、お前の頼みなら何だって断んねぇよ。


 言ってみ?」


「お前の魔力を俺にくれ」


「はっ?」


 ジはライナスにアカデミー地下のドールハウスダンジョンで最後にあったことを説明する。

 ライナスは負けた悔しさでさっさと帰ってしまったのでほとんど話を聞いていなかったのだ。


 ジだってあれを勝ったとは言えないと思っている。

 たまたま同じ剣術を使ったので同じ剣術にのみ限定して同じ剣術の熟練度や理解度で勝負を挑んできた。


 ジはさらに改良されたものを知っていたから勝てたのであって彼女が本気で戦えばライナスなんかに比べ物にならないぐらいにあっさり負けただろう。


 ともあれ結果としては勝って、アーティファクトをもらった。

 ただしそれは自分1人だけでは何の意味もない特殊なアーティファクトなのであった。


 先日エに詰められてエの力を借りることができた。

 そこでちょっと吹っ切れたジはみんなにも力を借りようと思ったのだ。


 まずは1番声をかけやすいライナスだ。

 ライナスは気に入ったのかレディーフレマンのケーキをちょっとずつ食べている。


 もっとぱくつきゃいいのにこういう時に貧民的なクセが出る。


「ずっっっ!」


 そんなアーティファクト貰えただなんて聞いてない。

 聞いてないのはライナスが悪いんだけど今更ながらに1人で突っ走って後悔する。


「なんだよそれー!


 俺もいいとこまで行ったんだからなんかくれよ!」


「んー俺に言われてもなぁ……


 あっ、まあ……今はあれだけどそのうち」


「おっ?


 でも、わーてるよ……ただのわがままってこと。


 そんななんかくれようとしなくてもいいよ」


 今日だってこんな美味いケーキを食べられた。

 ロイヤルガードの弟子でもまだまだ訓練兵士のライナスの給料は薄給だ。


 レディーフレマンどころか普通のケーキだって贅沢品である。


「魔力だっけか?


 もちろん俺に出来ることだからお前にくれてやるよ。


 こいよ、セントス」


 ライナスは自分の魔獣であるサンダーライトタイガーのセントスを呼び出す。

 相変わらず雄々しくして美しさすら感じる。


 一足先にワイバーンライダーとなったフィオスがスッとセントスの前に降り立つ。

 そのフィオスに頭を下げるやつが何なのかみんなちょっぴり疑問だけど誰もその理由が正確には分からないので一風景として流す。


「んで?」


「こうして」


「こう?」


 手のひらを見せるように手を差し出させる。


「ちょ、バカじゃねえの!」


 ライナスの手にジが手のひらを合わせる。

 男同士で何でこんなことしなきゃいけない。


 パッと手を引くライナス。

 ドン引きした顔をしているがジが趣味でこうしているのではないのだ。


「俺だって嫌だよ」


 他に方法がないのかエスタルに聞いてみたことはあったけどあるかもしれないけど知らないって答えられた。


「ええい、俺も男だ!


 一回やるって言った以上やったる!」


「すぐ済むから」


「ひょおお!


 ま、マジか!」


 今度は指を絡める。

 ジもライナスも鳥肌が立っている。


 さっさと終わらせる。

 赤い糸が現れてジとライナスを繋ぐ。


 心なしか糸もさっさと出てきてくれている気がする。


「よし!


 終わりだ」


「2度とやるか、こんなもん!」


「同感だよ」


 ジの手を振り払うライナス。

 変な意味で手に汗かいた。


 これでエとライナスから魔力をもらえる。

 つまりは3フィオスの力がジに宿っていることになる。


 これが3フィオスの力……と実感するにはちょっと力不足であった。


「はい、ユダリカ君」


 ジがライナスの力を借りるのを見ていたユダリカがピッと手を挙げた。

 天まで届きそうな、綺麗な挙手だった。


「お、俺もやります!」


「え?」


「俺もジの力になりたい!」


 何をやっているのかは横で聞いてたので分かっている。

 ジは命の恩人で友人だ。


 卵も孵化して魔獣が生まれた今ユダリカにも魔力が供給されていた。

 この魔力もジのおかげ。


 なんなら半分持っていったって文句もない。


「えっと……」


「俺じゃダメですか」


 その顔やめてくれ!

 なんだかしょんぼりされると弱い。


 ライナスがしょんぼりしてもこうはならないのにユダリカがしょんぼりすると妙に罪悪感を覚えるのだ。

 なんというかペタンとしたミミと垂れ下がった尻尾が見えるようなそんな気分にさせられる。


「い、いや!


 ユダリカがいいならお願いしたいぐらいだよ!」


「本当か!


 はい!」


 恥ずかしげもなく手を出すユダリカ。

 ああ、なんだか尻尾を振っているように見えるのはなぜだろうか。


「意外と手、大きいんだな」


「えっ……そ、そう?」


 頬をちょっと赤く染めるのもやめてほしい。

 少し褒めただけじゃないか。


 ユダリカとも契約をしてこれで4フィオス。

 流石に魔力が増えた感じはある。


 簡単な魔法なら1、2発打てそうな感じもある。

 これまでは魔力が少なくて自分の得意属性とか考えたことなかったけど考えてみることもできるだろうか。

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