遠征5
「この子は……友達かな」
「友達ぃ!?」
「おい、お嬢様に友達だって!」
「ほー、これが……」
「うるさいうるさい!」
「お嬢様が怒ったぞ!」
「逃げろ!」
顔を赤くして木剣を持って兵士たちを追いかけるウルシュナ。
友達と思ってくれるなんて嬉しい。
それに兵士たちとは本当に距離が近いようで微笑ましい。
「しかしまあ、お嬢様の友達にしてはヒョロっこい……。
何であれ、だ。
お嬢様は男の友達ってやつが皆無でな、女の友達も少ないんだが、言っちゃえば全体的に友達が少ない」
太い腕がジの肩に回される。
兵士の1人がこっそりとジに接近していた。
「刺繍するぐらいなら剣でも素振りしていたいなんて性格もあるんだがみょーに正義感が強くて、困っている人を見て見ぬ振りができなくてな。
お嬢様の良いところなんだが、子供にとっちゃそんなの疎ましいだけだから、腕っ節が立つのもあってお友達ってのがなかなかできなかったんだ。
見た目はいいからそれを知らない奴が変に近づいて火傷することが多いんだ。
それでよく俺たちに混ざって訓練したりもするんだよ。
何が言いたいかというと……お嬢様を泣かせたら俺たちが許さないからな」
グッと腕に力が入る。
今の話のどこからその結論が出るのだ。
「カクサン! 何してるの!」
ジに何かを吹き込んでいることがバレた。
「おっとっと、それじゃあ俺から1本は取れませんよ」
ウルシュナが振り回す木剣をカクサンは軽々とかわす。
あれではジとやる前に疲労困憊になってしまう。
「ハァッハァッ……」
肩で息をするウルシュナ。
いい意味で緩さがあってステキな兵士たちだ。
「や、やるよ……」
「少し休めよ」
散々兵士たちを追っかけ回してウルシュナは完全に疲れていた。
でも誘ったのは自分だし1人走り回って疲れましたじゃ格好がつかない。
やるならやるでいいけどそんな疲れたウルシュナを相手にしたってジも気後れして戦えない。
「こ、こんなのすぐに回復するわよ」
「分かった分かった、じゃあ俺にも体動かす時間ぐらいくれ」
休む時間を与えることに加えて自分の体も温める。
ジは木剣を持ってゆっくりとした動きから少しずつ速度を上げていって滑らかに剣を振る。
「ほぅ、ありゃ剣舞だな」
「剣舞?」
「剣を使った舞だよ」
切れ目なくジは動き続ける。
くるりと回ったり剣先を意識するように伸ばしたり、頭の中である人をイメージしてそれに少しでも近づけるように舞った。
「いいもん見せてもらったな」
一筋汗が垂れるほど体が温まって剣舞は終わった。
見ていた兵士たちが拍手をしてジは照れ臭そうに笑う。
「あんなのどこで習ったんだ?」
「昔、ちょっとだけ……」
昔というにはまだ子供だ。
カクサンは不思議そうな顔をしたけれどジがそれ以上語ろうとしないので突っ込んで聞くこともしなかった。
これは昔、つまりは子供に戻ってくる前に習ったものだ。
習ったというか勝手に真似していただけのようなものだけど。
「それじゃあやろうか」
「あっ、うん」
見惚れてしまっていた。
男の子なのにしなやかで綺麗と思わせる舞だった。
声をかけられてハッとしたようにウルシュナが立ち上がる。
「ルールはどうする?」
「怪我を治す術師はいるから本気で戦おう。
降参するか、みんなが審判で止めてもらおう」
「分かった。
負けても泣くなよ?」
「そっちこそ女だからって甘く見ないでよ!」
「それでは俺が……始め!」
カクサンの合図でウルシュナが走り出す。
カァンと木剣がぶつかる。
ウルシュナが切り付けてジがそれを防ぐ。
「やるじゃねえか、ぼうず」
同年代の男の子は切り合いにもならないで終わるのにジはこともなげにウルシュナの攻撃を捌いている。
「やあっ!」
ウルシュナの剣をジが剣の腹で受けて鍔迫り合いになる。
「やるじゃない」
「お前もな」
男だから力も有利だと思っていたけれどまだジの体は非力だった。
力の強さは同じぐらいであまり差がなかった。
押し切れないので体を引く。
「うっ!」
バランスを崩したウルシュナにジが反撃する。
攻守が入れ替わりジの攻撃をウルシュナが苦しそうに防御する。
明らかに攻められ慣れていない。
ちょっとずつ調子が出てきたジの攻撃にウルシュナが反撃の隙を見つけられず押され始める。
勝てると思っていたウルシュナが段々と焦り出す。
みんなが見ている前で負けるなんて有り得ない。
「はあああ!」
負けたくない!
ウルシュナが無理やりジの剣を弾いて攻勢に出ようとした。
「そこまで!」
隙が出来たと思って振り切ったウルシュナの剣は空を切った。
対してジは冷静にウルシュナの攻撃をかわして首に剣を寸止めした。
カクサンが試合を止める。
「中々強かったぞ」
ジは過去の経験もちょっとあるのでそれなりに冷静に戦えたけれどウルシュナはそうではない。
まだ子供なのに攻めに関しては目を見張るものがある。
防御は下手くそだったけど経験を積めばあっという間に父親と比肩する強者にもなれそうに思える。
「もう一回!」
負けたことに納得がいかなかったのかウルシュナが再び切り掛かってくる。
「あーあ……ああなると強情なんだよな、お嬢様」
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