第42話 早乙女、私頑張ったよ2
42話 早乙女、私頑張ったよ2
「いいか? 三角関数は公式だけ覚えてもちゃんと力はつかない。日本史とかの暗記と一緒で、なんでそうなるのか、なったのかを覚えることが大事なんだ」
本人の言っていたとおり、どうやら公式は丸覚えが完了していたようだった。
だがいざ問題の時にとなるとたまにこんがらがりそうになっているのが見て取れる。それはきっとただ丸覚えしただけで、頭の中でその仕組みを理解できていないからだ。
「ここがこうなるから、ここは二分の一が完成するわけで……」
「おおっ、おっ!? ここってそういう意味だったんだ!? 凄いよ早乙女! なんか初めてちゃんと数学を理解できた気がするよ!!」
数学は最も苦手意識が原因で躓く人の多い教科。だから初めはそれを取り除いて、理解する楽しさを教える。
まあ人にそんな大それたことを言えるほど、自分の中の苦手意識を完全に払拭できているかと言われれば怪しいところだが。普通に文系教科の方が得意だし。
「とりあえずこの調子で、今日の自習時間中に三角関数はある程度全部終わらせよう。そっからは実際に一人で問題を解いてみてくれ」
「う、うん。ありがと……でも早乙女はいいの? 自習時間って、あと二時間くらいはあるけど……」
「余裕があるかって言われたらそうでもないけどな。でも……ちゃんと教えるって、約束しただろ。柚木もやる気出してくれたみたいだし」
「そ、そっか」
かぁ、と静かに顔を赤くする紗奈に、夏斗は不思議そうな表情を浮かべる。
そんなに変なことを言っていたか? と。
それを見て悠里は更に焦りを加速させた。
(オイ、オイオイオイ。なんか柚木が見たことない顔してるんだが? 初めてアイツが女の子に見えてるんだが?)
そしてその様子を隣の席から見ていた悠里は、変な汗を掻きながら内心勉強どころではないほどの焦りを見せていた。
男女構わずコミュニケーションをとり、すぐ友達として接する紗奈。彼女の事を悠里も夏斗も友達と思っており、実際にそんな関係だった。
だというのに今の顔は明らかに……
(思い過ごしだと、いいんだけどな。いや、いやいやいややっぱり流石にあり得ないだろ。あの柚木が、なぁ……)
「ねぇ早乙女。私、その……もっと頑張るから、さ。もし赤点取らなかったら、ご褒美くれない?」
「ご褒美?」
「うん……。私のこと、紗奈って呼んでよ」
「っっ!?」
(っっっっぁっぉぉぉっ!?!!)
違う、違う違う違う違う。え、違うよな? 違うと言ってくれ。誰なんだお前さては影武者か? あの男勝りな女もどきはどこへ行った!?
手元のシャーペンを震わせる悠里の視線の先で、夏斗は驚いた様子で紗奈に見つめられて静かに動揺している。
そして────
「ま、まぁ……それで柚木がもっと頑張れるなら」
「えへへ、やりぃ」
(あーもうダメだ。あれは完全に女の顔だ。そして夏斗よ、お前何平然とOKしてるんだよ。もうお前が怖えよ……)
もう、ため息を吐いて考えるのをやめた。
(ゆ、柚木を下の名前で。……なんか緊張するな)
じぃ、と目の前の紗奈と視線を合わせる。
美少女だ。ずっと近くにいて、男友達のように接していたからあまり意識はしていなかったけれど。今目の前にいるのは、確かに美少女なのだ。
そんな彼女が嬉しそうに、笑っていた。
(って、何ドキドキしてるんだ俺!? 相手は柚木だぞ!? あの、ガサツで俺より男みたいな……)
「じゃあもっと教えて? 早乙女せんせっ」
「お、おおおおうっ。そう、だなっ」
自分の中で一瞬、変わりそうになった彼女への認識に首を横に振りながら。一旦ご褒美のことは忘れ、先生に専念することで気を紛らわせる。
それを″気のせい″で終わらせることなどできない事を、分かっていながら。
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