第7話 奇術愛好家殺人事件
私は犯中たなか。
チャットで嘲笑コメントした2人をオフ会で殺すわ。
舞台は雪山のロッジ。吊り橋1本だけしか道が無い陸の孤島。橋を燃やして落とせばトリックし放題の舞台の完成よ。
橋を燃やす方法はもちろん、遠隔で火をつける装置を使うの。え? そんな装置持ってるのか、ですって? 大丈夫うちは手品師一家だから。
そう手品師に不可能はない。トリックがどんなに「どうやるのこれ?」って思う難しさだったり、使う道具が「どうやって用意するんだ?」って調達困難でも大丈夫。何故なら私は手品師だから!
ということで当日。まずは一人目を撲殺。そいつの自宅のパソコンのモニターに「まずは一人目」って残して、ついでに電話を留守電にして退出。
続きまして雪山にて。吊り橋に灯油を撒いて、見えない所に遠隔操作吊り橋バーニング装置をセット。ちょっと灯油臭くなっちゃった。けど外気温が寒いから臭いが抑えられて“ちょっと変な臭い”程度になったわ。それこそ風邪引いて鼻水出してる人には全く分からないくらいの匂い。
さて、ロッジに到着したらメンバーと初顔合わせ。
殺す予定のもう1人の他に、ぽっちゃりな男の子におじ様、眼鏡っ子に根暗なバイト。あと最後にロッジに到着したのは女子高生が2人。その娘たちの付き添いのお父さんと風邪引きボウヤのアーサーくんはそのまま帰宅していったわ。
吊り橋を燃やすのは、この2人がちゃんと帰ってからにしないといけないわね。遠隔バーニングにしておいて良かった。
そして頃合いを見てバーニング! トリックの下準備をしてから、電話線を切断。
さて夕ご飯タイムが終わったらいよいよ本番。
なんだけどその直前にロッジの前で例のアーサーくんが倒れていたの。しかも「早くここから逃げろ」って。これってまさかだけどアーサーくんを吊り橋バーニングに巻きこんじゃった? ゴメン! 本当にゴメン!
さぁ今度こそ本番。例の殺害対象をサクッと殺害!
そして今回のキモ、不可能殺人のスタートよ。
まずは二本のボーガンの矢の後端に輪を作った長い紐を通して、紐の両端をベランダの手すりに結ぶ。後は矢を一本ずつ木に撃ち放つ。
紐がヨットのマストに張られた二枚の帆を形どる様にして、浜野の死体のベルトに紐をくくってベランダから流せば、ロープウェイみたいに裏庭の中央に落とせる。
最後にベランダに結んだ紐を切って、ボーガンを発射すれば証拠は楽に隠滅。
複雑なトリックだって? 私は平気よ。やることが複雑だけど大丈夫。そう手品師ならね。
というより、これってそんなに複雑なんですか? むしろ退屈すぎるせいかお肌カサカサよ。寒くて乾燥しているせいって可能性も否定できないけど。
その後、飲み会の時間。皆が残りメンバー(私が先に殺しておいた方)の不在を話題にあげ始めた頃。
「来ないよ。その人殺されたよ、自宅のマンションで」
寝起きのアーサーくんが物騒なことを言って飲み会の席に現われたわ。何故この子、そのことを知っているの?
って一瞬ビックリしたけど、どうやら事件がラジオのニュースになっていて、それを聞いてアーサーくんは急いでこのロッジに戻ってきたみたいなの。
ますますバーニング巻き沿い確定。ほんとゴメン。
しかも話の流れで今一人でいるメンバー(私がさっき殺した方)の安否を見に行くことになっちゃって、みんなで死体発見に至ってしまったわ。アーサーくんに死体を見せることになってトラウマ植え付け確定。ほんとゴメン。
その後、『周囲に殺人鬼がいるかもしれない』ってジェイソン的な展開を危惧したメンバーで身を守るためにしばらく皆で固まって過ごしたわ。
さて、この辺でトリックの後片付けね。トリックに使ったボーガンの矢を回収する口実を作るトリックを発動させるわ。
まず「寒くなってきたから」と上着を取りに行く。当然一人だと危ないから何人かで私の部屋にGO。
スキを見て窓ガラス割り装置を作動させて、背中越しにボーガンをショット! もちろん誰かに当たらないように巧みにね。
さらに追撃の風呂場の窓ガラス割り装置も作動! 風呂場の鏡にあらかじめボーガン打ち込んでおいたものを添えて。
これで“誰かが外からボーガンを撃ってきている”って状況を作れるから、とどめに私が率先して『犯人出てきなさい!』って言えば、自然な流れでボーガンの矢の回収のために森の中に入れる。あとは矢を回収するだけ。
まぁ1つ計算外だったのが、木に刺さった矢が抜きにくかったこと。引っ張った勢いで尻もちついちゃった。
その後、捨てておいたボーガンをメンバーが見つけてくれたから、「もう狙われる心配がない」ってことで、穏やかなムードになってきたわ。
アーサーくんがみんなのアリバイや現場の状況に興味を持って探偵ごっこを始めたけど、すぐに飽きちゃったのか冬休みの図工の宿題をし始めたわ。
いい感じの平和♪
も束の間、急にアーサーくんが居なくなっちゃったの!
「うわぁああああ」
ロッジに響き渡るアーサーくんの悲鳴! 一体、何が起こっているの!?
すぐに2階でアーサーくんは見つかったけど、同時に割られる窓と射られるボーガンの矢!
そしてアーサーくんが「犯人は外にいる!」って飛び出して行っちゃった。追いかける私たち。って、なんかデジャヴ。私のトリックと同じ流れ。
そんな私の冷や汗に呼応するように、「ふにゃ」と崩れる女子高生。急に「血塗られた奇術ショーを再現する」って言い始めたわ。なんだって!?
その後、女子高生友達をアシスタントにして私のトリックを再現し始めたわ。
現場のベランダからボーガンを構えるお友達。危ない。「みんなどいて!」って言ってるけど、素人に扱わせる代物じゃないのよボーガンは!
一応、経験者っぽい他のメンバーが代わりにボウガンしてくれることになったから私たちに怪我人は出なかったけど、最近の女子高生って平気で危うい橋を渡るみたい。
そういえばさっきのデジャヴ、アーサーくんにトリック再現やらせたわよね? 実際にやった私には分かる。あの“背中越しボーガン”の超危険技、手品師の私だからできる技よ。それを小学生にやらせたの? クレイジーにもほどがあるわ!
こうして、謎は全て解かれた
ちなみにメンバーの一人が変装して偽名を使った本物の世界的な怪盗でした。余韻すべてを持っていかれたわ。
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