第十三話:ズッガ虫
リンロとトゥーチョが一時放心状態だった間拾われずにいた
煎餅を囲むように群がっている10匹の虫、この虫こそまさしく【ズッガ虫】である。
体長約5センチ程の黄色い小さな山に熟していない
頭の正面に赤く光って見える半円は2つの
「ズガ、ズズッガ。ズーガッカドズーガーカッ、ガガズドズカッズ」
~ズッガ虫の
「あのっ隊長っ。お菓子がまるごと落ちているこの状況、おそらくですがあの人間達の仕掛けた罠ではないでしょうか」
「何? 罠だと?
ズッガッガッ、この甘党神様が俺達に与えて下さった恵みを罠呼ばわりとは。まったく俺も、ブッ飛び思想の部下を抱えちまったもんだなぁ。
このお菓子をよく見てみろ、我々の同類が作った蜜がかかっているだろう? これはな、甘党神様からの我々への
【今すぐこのお菓子で栄養つけ、目の前にいるトゲギザ頭人間とマスコットクマ団子ダルマ野郎を
それを聞いて自身の失言に気が付いたズッガ虫(部下A)は、
「失礼致しましたッ!! なるほどっ! そういうことだったのですねっ! 意図を汲み取れず大変申し訳ありませんっ!!」
彼同様、他のズッガ虫達も隊長の説明に納得を見せていた。
「それじゃあまずは、俺が先人をきって行ってくるからお前達は後から着いてこいっ」
「はいっ!!」×9
我を忘れたかのような隊長が、煎餅に向かってまっしぐらに飛びかかりかぶりつく。
ムシャ ムシャ ムシャ
(ズッッほぉ~っ! ズッっめぇ~いっ!!)
そうして煎餅のぴったし十分の一を食べ干し腹を満たすと、隊長は満足げな表情を浮かべ引き返し始めた。
「お前ら~、ちゃんと均等に等分して仲良く食べるんだぞ~」
そう言いながら明らかにリンロ達とは逆方向に向かい何事もなかったかのように歩いて行く隊長に対し、後からやって来た部下達は隊長との
グルンッ!!×9
「? …………ハッ!」
(お~っと、そーだそーだ忘れていたーんっ)
隊長が素知らぬ顔で部下達の方を振り向き言う。
「な~に少し助走つけようと思っただけだよ。ほ~ら見てろ~」
そう言った隊長の助走は開始2・3歩で失速。以降リンロ達に気付かれぬよう暗殺者さながらに草花に身を隠しながらゆっくりと近付き、やがて二人足元まで辿り着いた隊長は内心恐る恐るで噛み付いてみせた。
ズガブッ
リンロとトゥーチョの足に噛み付いた隊長は急いで二人から離れ、部下達に自身の顔がよく見える位置に立つと見たかとばかりの勝ち誇った顔で二人のことを見上げた。
「イタ」
「イチョ」
二人は全くもって痛くも
(うん……そもそもこれはお菓子を食うための口実な訳で……自分の無力さを実感して落ち込む必要はないよなっ。今のは忘れるとしよう)
「よぉーしっ! 帰るぞお前達ぃーっ!!」
隊長の急な
「えッ? あ、あのっ隊長。
見たところまだ倒せてはいないような気がするのですが………。それにこのまま帰ってしまっては僕達、ただの食い逃げになって甘党神様の罰が当たってしまうのではないでしょうか?」
「ならーんっ!! 当たらーんっ!!
お前達は生存確認もできないのかっ!?
こいつらはどう見たって死んでいるっ!! ほれっよく見てみろ。【テンションとリアクションがないないどこいった】になっているじゃないかぁーっ!!
あの死体共を見てもまだ俺の言っていることが信じられない者がいるのなら、もう一度噛んで確かめてくることを許可してやる。但しっ! もし俺の言ったことが本当だった場合、疑った者達全員の今晩の食料からそれぞれ1%ずつ
「ズッガ!!!?」×9
(ズッガッガッ、さすがに
食いしん坊の俺達にとってこのダメージは痛すぎるだろう!
ズガガッ、これで俺の隊長としての信望は保たれたまま無事帰還確定だなっ)
ところが隊長の安心を他所に2匹のズッガ虫達がリンロとトゥーチョの元に向かい動き出していた。
「僕達、隊長のことは信じています! ですが隊長の名誉のため、部下として僕達は1%の食糧を犠牲にしてでも不安要素を完全に
(っ!!? なんだコイツらぁ~! 今まで隊長
アーーーっ! ったく、もうこの際バレたらバレたで仕方がないっ! 俺の
そして2匹の部下が二手に別れ、リンロとトゥーチョに噛みついた。
ズガブッ!×2
「イタ」
「イチョ」
二人に噛みつき終えゆっくりと戻ってきた二匹が、息を呑む隊長に報告をする。
「追い討ち完了しましたっ! これで大丈夫です隊長っ!!」
「………………」
(あれ? …………バレてない?)
「…………あいつら死んでただろ?」
「はいっ! 近付いて見た時には既にどちらも表情が死んでおり、隊長の一噛みで絶命しておりましたっ!!」
(バレてないッ!!!!)
「ほ……ほぉ~らなぁ~っ! だ……だが~……あの心意気は素晴らしかったぞお前達ぃーっ!! よぉ~うしっ! お前達のその
さあっ! お前たちぃーっ!!
帰って昨日の【お菓子こぼしまくって延々とスカートに上書き保存しちゃってる系美少女】が落としていったお菓子たちでダウンポーパーティーだZEEEいッッッッッ!!!!! ズッガッガッガッガッ!!!!!」
そうして
衝撃の
(ダメだ……。さっきの衝撃のせいで、俺の今日一日の記憶がほぼ飛びかかっている。
えっと~ロコイサ王があのサイコロ頭人形で~、ロコイサ王を拐ったダブルホワイトコットンキャンディーが~今の優しそうなお爺さん…………ということはつまり)
状況を把握しリンロが手を打った。
「あのお爺さんに頼んで、ロコイサ王返してもらえばそれで即解決ってことだなっ」
「チョはッ! お前はバカっチョかっ。どこをどう見たらそんな発言ができるんだっチョ。さっきヤツが
言っておくが、あれはまだヤツのヤバさの
仮にリンロの言う通りにしたとして、ヤツの警戒度が一気にMAXになってロコイサ王様救出作戦が余計困難になってしまうだけッチョ」
「うん…………って言われてもなぁー。
相手が人間だってんなら俺に出来ることも限られてくる訳で……あのお爺さんのことだって危険にさらす訳にもいかないしな」
「チョあッ!? まさかお前っ、ロコイサ王様のこと見捨てる気っチョかッ!!?
チョうならお前を【ロコイサ王様見捨てた罪】と見なし!! ロコイサ王様代理としてオレ様が
リンロに有無も言わさずトゥーチョは即座に地面に正座をし、
「おいおいっちょっと待ってくれトゥーチョっ。誰も見捨てるとまでは言ってないだろっ。俺だってトゥーチョにはデカイ恩あるし
だから今考えてたんだ、俺は限られた中で自分にも何かできることがないかって。それで一応、打開策2つくらいは既に思いついてある。
でも別にトゥーチョがロコイサ王を助けるのに俺の案も力も必要なくて、一人でなんとかするって言うならそれでもいいけど……。もしそうなったらトゥーチョには悪いけど俺も生きなきゃならないし、
「ッ!!!! …………そうか、そんなにオレ様に協力したいんなら仕方ないっチョね。お前の
「ごめん、恩を
じゃあさっそく一つ目の作戦を発表させてもらうんだけど─────────
【カウリに電話で頼んでみようっ】」
(………人任せだっチョ)
カウリに電話をかけるリンロを黙視するトゥーチョ。
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「あれっ? 繋がらない……珍しいなっ」
「…………。
何も手ェ出してないのに一つ消えたっチョ」
「…………まーこれはしょうがないとして、二つ目の作戦の方は俺とトゥーチョがいれば出来ることだから心配いらないぞ」
(…………何か嫌な予感がするっチョな……)
「そんで二つ目の作戦なんだが、それ即ち【トゥーチョがあの玩具屋さんの中からここまでロコイサ王を運んで来てそっから俺が二人をロコイサ王国まで運ぶ作戦】だっ」
「…………」
リンロのその作戦を聞いた直後、どうにも気が乗らない様子で渋い顔を見せたトゥーチョ。
あれっ? 別に難しいことを頼んだつもりはないんだけど………にも関わらずあんだけロコイサ王に忠誠を尽くしてたトゥーチョがあの反応……。あ~非常に残念ながら、どうやら俺はトゥーチョに恩を仇で返さなきゃいけなくなってしまったようだ。
覚悟を決めたリンロはエンジンを吹かすかのように、不信の眼差しの調整をしトゥーチョから逃げる準備を始めた。
一方リンロのその様子を目にしていたトゥーチョは。
(チョわッ! 何だっチョかあれ!
信用のない目に変えたり元に戻したり、完全に
きっとこれでオレ様が断ったらリンロのヤツ「あらっ? そんなことしたら【ロコイサ王様の救出案断った罪】と【ロコイサ王様見捨てた罪】がダブルで罪が増えちまうんじゃないかぁ~?
ダブルホワイトコットンキャンディーだけになぁっ!」なんて言ってくるに違いないッチョッ!! くチョぉ~! オレ様がやりたくないことを強制的にさせてくるリンロの術中にまんまと
が、花を眺め始め2秒と経たぬ内に不安が抑えきれなくなり、今度は
「ロコイサ王様好き、ダブルホワイトコットンキャンディー嫌い、ロコイサ王様好き、ダブルホワイトコットンキャンディー嫌い、ロコイサ王様好き、ダブルホワイトコットンキャンディー嫌い、ロコイサ王様好き、ダブルホワ……ダブホワ嫌いッ!! ダブホワ嫌いッ!! ダブホワ嫌いッ!! 嫌いッチョ!! 嫌いッチョ!! ヤダッチョ!! ヤダッチョ!! 行きたくないッチョ----ッ!!!!!!
………ロコイサ王様好きッチョ」
逃げる準備が万端だったリンロは、突然のトゥーチョの異常行動に
思わず心配になり声をかけるリンロ。
「……お……おいどうしたトゥーチョっ、大丈夫かっ?」
「ヨシ、リンロ。ソノサクセンデイキマチョー」
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