珈琲キャンディ。

8

side．Madoka

｢円サン、どうしたんですか？」

目が合いそうになったのを、

思わず逸らすように俯いてしまう。

頭上から聞こえる、心配そうな昴クンの声に。

更に罪悪感が募り…

顔を上げられずにいると────…

｢…もしかして円ちゃんじゃないの～！」

何故かあの女の人からそう名指しされ、

反射的に顔を上げる。

どうやらこの人が、兄ちゃんの言っていた親友さんらしく。学生時代は良く家に遊びにきていて、オレとも面識があったみたいなんだけど…。

まだ小学生とかだったからか。

こんな綺麗な人なのに、オレは全く覚えていなかったんだよね…。兄ちゃんの友達って基本的にイカツイ不良仲間って感じの人が多かったしなぁ。

そんなわけで、

オレが困り果てた顔して黙っていると。

女の人…この店のオーナーさんである忍さんは、

ひとり納得したように頷いて。

何かを言いかけたところで、お店のスタッフさんに呼ばれ。残念そうに『またね』と手を振って、奥へと引っ込んでしまった。

去り際、何気なく昴クンに、

ぱちりとウインクを飛ばされて…

忘れかけてたオレの心がまた、

モヤモヤと落ち着かなくなってしまったから。

｢…今日はもう、帰るねっ！」

｢円サンっ…！」

オレはキミから逃げるようにレジへと向かい、

店を後にした。

｢円ぁ～なんなんだよ急に…」

慌てて加藤が後ろからやって来て、

バンッと背中を叩かれる。

｢あ、分かったぞ！アレだ、さてはあの忍さんて人に…」

惚れたな？と自信たっぷりに告げる加藤に、かける言葉すら浮かばず立ち尽くす。

こんな時に限って…

なんて空気読めないヤツなんだろう。

｢諦めろ、円。お前にゃハードルが高すぎってもんだぜ～？例えば…あの昴ってのくらいにさ、顔が良くなくちゃだな～…」

グサリグサリと傷に塩まで塗りたくる加藤。

何にも知らないからって…もう─────

｢もう、うるさい！…加藤のハゲ！！」

｢あだっ！…な、ハゲって…」

八つ当たりだとは解ってたけど。

流石に苛々が爆発してしまい、

オレは親友を一方的に怒鳴りつけると。

放心状態の加藤を置き去りにし、

その場から駆け出す。

結局、図書館にもいかずそのまま帰って来て。

昴クンの匂いがする布団の上で、

更に悶々と時間を費やし…

バイトから戻ってきた昴クンとも、

気まずいまま話も出来ず。

初めて背を向けて、同じベッドで眠りについた。

そんな中眠れる筈もなく。

長い夜、不安は増すばかり…

オレは自らを追い詰めて、

勝手に押し潰されそうになっていたんだ…