第5話 倒木チェック

 二日目の朝を迎えた。相変わらずスマホとアクションカメラは常に充電中で動画配信プラットフォームでの配信は問題ない。むしろ絶好調だ。


 異世界転移した? それとタイムスリップ? という噂が広がっているらしく、チャンネル登録者数は既に百五十万人を突破している。百万人を狙って無人島配信していたのに、今や二百万人も時間の問題だろう。


 視聴者は最初、俺が生きていけるのか随分と心配していたが、今は落ち着いている。俺の装備はアウトドア用品でかためられていて、しばらく生きていく分には困らなそう。という認識なのだ。とにかくタモ網とファイアスターターの存在が大きく、食い物に困ったらデカムシを捕獲して焼けばいい。水もあるし。と


 ただ、いつも同じ絵を見せることは配信者のプライドが許さない。今日は虫食べる系配信者としてはお約束の倒木チェックだ。


「よし! お前等、今日は倒木チェックするからな! 基本的に見つけたものは全部食べるから、そのつもりで!!」


 アクションカメラを自分に向けて配信する。もちろん音声は伝わっていないが、無言で進めるのはちょっと違和感がある。やはり今まで通りのスタイルで行きたいのだ。


 コメント:相変わらず無音www

 コメント:ルーメンさん、なんか言ってるwww

 コメント:あれじゃね? 倒木映してるし

 コメント:あぁ、倒木チェックね

 コメント:定番だな

 コメント:異世界倒木チェック? それとも未来?


 分かってるじゃないか、コイツら。流石は俺の視聴者達だ。よく調教されている。


 しかし一つ困ったことがある。倒木チェックに必須のナタがないのだ。完全に朽ちている倒木なら別だが、そーいうところには虫の幼虫が少ない。ちょうどよく朽ちている倒木をナタで割るといい具合に入っているのだ。手元にある刃物と言えばサバイバルナイフだが、これは今後身を守る意味でも大切だ。倒木チェックで駄目には出来ない。


 よし。こうなったら……。


「ナタがないから、今日の倒木チェックは派手にいくぜ!」


 さっきデカムシを食って腹は一杯だ! チカラは漲っている。俺は二メートル程の倒木──妙に軽い──を持ち上げると、振り回して生木にぶつけ──。


 ──ドシャ!! 倒木は粉々になり、生木がゆっくりと倒れ始める。……何があった? いや、確かに身体に【力】は感じているが……。


 ──ドドン!! 二十メートル程度の生木が横高しになり、少し空が開けた。もう、倒木チェックどころの騒ぎではない。一体、俺の身体には何が起きているんだ? 縋る様な気持ちでスマホの画面を見る。


 コメント:……

 コメント:……何があった?

 コメント:アレ? チャンネル間違えた?

 コメント:なんかもの凄い映像だったけど……

 コメント:樹ってあんなに簡単に折れるの?

 コメント:折れるわけねーよ


 うん。そうだよな。視聴者も俺と同じように戸惑っている。


 もしかして、俺は異世界に来てとんでもない【力】を授かってしまったのか? 神やらに会った記憶はないが……。


 試しに倒れた生木を持ち上げると、簡単に持ち上がってしまう。


 コメント:おいおい……マジかよ

 コメント:ハルクモードじゃん

 コメント:ハルクルーメン! 爆誕!!

 コメント:虫食べる系配信者、異世界転移すると怪力に!!

 コメント:ステータスオープンって言ってみてください!

 コメント:スキル! ギフト!


 マジかよ! これはとんでもないスキルを授かっているに違いない!! アクションカメラを自分に向ける。


「ステータスオープン!」


 ──シーン……。ちっ、もう一度だ。


「ステータスオープン!!」


 ──シーン……。ちっ、想いが足りなかったか。


「ステエエエタスウウウオオオープン!!!!」


 コメント:ルーメンさんの顔見ろよ

 コメント:残念。異世界はステータス制ではありませんでした

 コメント:ごめんなさい。私が焚きつけました

 コメント:気にすんなって

 コメント:大丈夫だよ。ルーメンが悪いんだ

 コメント:そうだね


 なんで俺が悪いことになってんだよおおおお!! ステータス、出て来いよおおおおお!!


 一人打ちひしがれていると、急に身体から【力】が抜けた気がする。空腹と言うわけではなく、ふと、いつも通りになった感じだ。


 試しに地面に転がっている生木を持ち上げようとするが、全然持ち上がらない。何故さっきは……。


 何か、考えられることはないか……。俺は配信中だということも忘れて考え込んだ。


 ……もしや、さっきの怪力はデカムシを食べたことによるバフ効果なのか? 昨日はデカムシを食べたらすぐに寝ていたため気が付かなかったが……。これは検証する必要があるぞ。


 俺は配信を切り、タモ網を持って海岸へと向かった。

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