第7話

 ぎゅるるる。

 おなかすいたなぁ。まずはご飯を食べて、妖精の情報を聞いて回るかな。一番いいのは、この国の王都で探すのがいいだろうけど。うん? あれは!? 黒髪!! 遠くに黒髪の人がいる。あんなに目立つのに、ほとんど気にされてないけど。

 驚いて近寄って見ると、ロープでくくっている中に居た。正確には置いてある?


 「あら、勇者とか聖女という者の像のようね」

 「こ、これがこの世界の像なのか……」


 一瞬焦ったよ。本物がいるのかって。

 風邪になびく黒髪、それと一緒にはためくマントに、鎧や服もこの世界の人が着る物を着せてあるマネキンだ。いやこれは、アンドロイドではないか? 五人は、今にも動き出しそうだ。

 こんな技術もあるなんて……。まあ見た目だけだけど。


 「もしかしたらコクターンの像もここに飾られたかもね」

 「え、遠慮したいかも。それにしてもどうしてこんなところに像があるのだろう」

 「王都だからじゃない? 聞いた事あるわ。人間は、王都にそれぞれの勇者や聖女を祭ってるって」

 「え! ここって王都?」

 「え! 気が付いていなかったの? 城があるって気が付いたみたいだからわかっていると思っていたわ」

 「………」


 そういえば、城が見えていた。この国の城ならば近くにある街は王都って事になるのか。まさか森から出てすぐに王都だとは思わないだろう。と言い訳を言いたい。


 「さすがコクターンね。私が一緒でよかったわね」

 「……うん。そうだね」


 言い返せないかも。

まあ王都を探す手間が省けたと思えば。ではさっそく、食事の後に妖精の情報集めかな。


 「妖精を探すのに、王都で情報を聞こうと思っていたからまずはここで聞いて回ろう」

 「なぜ王都?」

 「なぜって、大きな街だから情報があるかもって思って。もしかして、妖精の事って聞いちゃいけない事とか?」

 「さあ、それは知らないけど」


 知らないのか。調べた事しか知らないのかも。


 「聞いても情報なんて得られないと思うわよ」

 「え? どうして?」

 「だって、普通の人間には見えないモノだもの」

 「うん? じゃツティーちゃんは?」

 「見えてないと思うわ。聞いてみたら?」


 聞いてみたらって……。店の人に猫はとか言われないなって思ったけど、動物OKなだけなのかと思っていた。まさか、そもそも見えていなかった!?


 「誰もそんな事言っていなかったじゃないか~」


 僕は脱力して座り込んだ。


 「あらごめんなさい。当たり前の事だから知っていると思っていたわ」

 「……当たり前ね。なるほど」


 それじゃ言わないよね。僕は、店員に独り言が多い客と思われていたのか。いや見えていたとしても、猫と会話しているおかしな客だって思っていたのかも。それでもあの店員さんは親切だった。


 「はあ……じゃ、どうやって妖精探すの?」

 「うーん。手っ取り早いのは。アニマが集まる場所ね。要は、モンスターがいっぱいいる場所よ」

 「は? 無理でしょそれ……」


 僕、戦うすべを持ってない。

 というか、まず当たり前を聞いておいた方がいいかもしれない。


 「まずは腹ごしらえをしながら話を聞いてもいいかな?」

 「いいわよ。私ね、人間の地域で食べてみたい食べ物があるの」

 「何?」

 「魚よ。海でとれる食べ物らしいのよ」

 「あ、なるほど。猫だもんね」

 「猫じゃないわよ!」

 「あ、ごめん」


 また怒らせちゃった。見た目は猫でも妖精だからね。


 「魚料理あるといいね……」

 「そうね」


 ううう。またジド目で見ている。もう猫だなんて言わないから許して。モフモフはするけどね。



 美味しい匂いを漂わせる食堂みどり。

 メニュー表を見ると、全て銅貨で食べられるモノばかりだ。だぶんここは、お金持ちよりはちょっと下の人達が食べに来るところなのかもしれない。

 いやこの世界でモンスターを倒す者達が集う食事処かな。そういう人たちが大半だった。


 「魚料理ありそう?」

 「うーん。たぶんない」

 「あら、残念ね」


 まあ、海が近くないとないのかもね。でも川があればあっても不思議ではないのか? うーん。


 「はい。ミートパイだよ」

 「ありがとう。おぉ、おいしそう」


 知っている食べ物を無難に頼んでみた。ただ何の肉を使っているかはわからないけどね。


 「いただきます」

 「昨日も思ったけど、それ何の仕草?」

 「へ?」


 あ、本当だ。両手を胸の前で合わせ、普通に言っていた。前世では普通にやっていたんだろうなぁ。って、そんな癖みたいのが残っているのか?


 「よくわかんないけど、前世でやっていた行為ではないかと……」

 「覚えていないの?」

 「まったく。でもその時の常識とかそういうのは覚えているみたいなんだよなぁ。不思議」

 「ふーん。ねえ、私もそれ食べてみたいわ」


 ひょいと、テーブルの上にツティーちゃんが乗って言った。

 食べたいのか。食べ物はおいしいと感じるって事だよね。


 「うんじゃ、僕が一口食べた後ね」

 「うん。わかったわ」


 って、食べるのガン見しなくても……。

 こうして二人でミートパイを堪能した。熱々でちょうどよい味付け。あぁ、幸せ。

 と、そうだった。話を聞くのを忘れちゃうところだった。


 「で、ツティーちゃん。君が常識だと思っているこの世界の事を話してもらっていい? 人間の話もね」

 「いいわよ」


 もぐもぐ、ごっくんとして、ぺろりと口の周りをかわいい舌で舐めてからツティーちゃんは頷く。あぁ……この姿が見られるのも幸せだ♪

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