合流2


 勇者リオンと合流した俺は、一先ず今後の行動指針を決めるために彼を創造神の神殿内部へと招待した。


 恐らくここからはこの世界に侵略してきた亜神勢力との正面からのぶつかり合いとなるだろうが、それにしたって相手の詳細が分からないままぶつかるのは避けたい。

 なるべくこちらにとって有利な状況を整えるために、こうして彼を招待したという訳である。


「こ、ここが神界ってやつか。まさか生きて訪れる機会があるとは思いもよらなかったな」

「え? 違うわよ。ここはケンジの奴の別荘みたいなものね。本物の神界は鉄の箱が走ってたり、天を突くような建物が聳え立っていたり、ゲームセンターとかいう場所で小人を操作して戦わせる競技のある場所なの」


 ゲームセンターの情報は余計だが、ミゼットの視点からすればそういう事になるらしい。

 どうやら日本へ訪れたミゼットは、創造神オレの住まうあの世界こそが神界だと信じて疑わない節があるらしく、魔法では説明のつかない文明の利器に触れた事からも勘違いを起こしているようだった。


 俺からすればこの創造神の神殿の方が神秘的に感じられるのだが、それは文化の違いというやつだろうか。

 ただ、さすがの勇者リオンもそこらへんまでは気が回らなかったらしく、ミゼットの言葉を鵜呑みにしてしきりに頷いていた。


 勇者には申し訳ないが、君に地球の事を知られたら何らかのきっかけで転移してきそうな怖さがある為、このまま勘違いを利用させてもらう事にする。


 ちなみに勇者を誘ってからここまで話を聞いた限りでは、どうやらマナ枯渇を起こす前の世界、つまりは創造神の居た頃の世界というのは相当昔の話になるらしい。

 既に彼の生きていた世代ではその世界を創り出したと言われる創造神の存在は御伽噺にすらなっていないような、そんな出来事の話なんだとか。


 元々マナ枯渇を知り得たのもその世界の亜神達が騒ぎ立てたからに他ならないようで、人間達自らが気付けた訳ではないらしい。


 だが、そうなるとシーエというホムンクルスを生み出し、亜神達とは別口でこちらに組員を送り込んできた者というのは一体誰なのだろうか、というのが疑問になるのだが、その詳細はシーエにも分かっていないらしい。


 ただシーエはドクターなら何か知っているかもとか言っていたので、とりあえず侵略者達に関する問題を解決したらコンタクトを取ってみるのもありかもしれないと思っている。

 そのドクターという人物の存在は頭の片隅にでも置いておこう。


「なるほど。……そうなると、向こうの創造神が去ってから最低でも数百年、下手すると数千年が経っていてもおかしくは無い訳か」

「ああ、そうなるな。だがウチの世界で現存する最古の国でも歴史は六百年くらいだから、それ以上前の記録がそもそも残っていないという事にはなる。それを踏まえれば最低七百年は空白期間があったと見てもいいだろう」


 と、するとだ。

 日本の時間と異世界で流れる時間が同じように十倍程度の開きがあるとするならば、日本時間で七十年近い空白期間があった事になる。

 だがそれだと既に本人は寿命を迎える寸前だろうし、もしそれ以上時間が経っていて亡くなっているのであれば、創造神の居なくなった世界に対して始まりの創造神がなんの対処もしていない、というのも何かひっかかる。


 あいつはわざわざ俺に力まで与えて、親切にも解決の糸口を指し示すような奴だ。

 であるならば、もう向こう側の創造神が亡くなっていて俺にもどうしようもない状況だ、というのは考えられないだろう。


 そう考えるとこの空白期間は創造神不在の間、なんらかの【スキップ】機能が働いていて、時間のズレが生じていると考えるのが自然だろうか。


 しかし、そうなるとやはり……。


「うん、分かった。たぶんこの問題の凡その解決の糸口が見えた。そちらの世界の創造神はたぶん、そちらの認識で言うところの神界に存在している。そいつを見つけ出して連れ戻せば、すべて解決するはずだ」

「何!? 本当かケンジ!」


 予想が正しければ、だけどね。

 ただ向こうにだって自分の創り出した世界に干渉できなくなった何らかの理由があるのだろうし、そう楽観視は出来ない。


 だが、他世界にとって希望が見えて来た事は事実だろう。


 そしてこうなってくると他世界からの侵略者である亜神達に対する対処も変わって来る。

 もし創造神が既に亡くなっていて、世界がどうしようもない状況ならばどちらかが生き残るまで戦い続けるか、もしくはこちらに希望者を移住させるかしか解決方法は無かっただろう。


 だが向こうの創造神が生きているのであれば、どちらにせよこちらの話を聞かせるために一度は戦うのは確定として、向こうの創造神たる人物を特定するなんらかの手がかりを彼らから聞き出せれば、地球でこちらが捜索してやる事も可能という訳なのだ。


 つまり、お互いに最も平和的な解決が可能になったと言う訳である。


 その事を説明すると勇者は拳を握りしめて、「……やはりまだ希望は潰えて居なかった」と呟いた。


 ……お、おおう。

 絵になるね君が言うと。

 これぞまさに勇者といった風格を感じる。


 ともかく、そういった作戦会議を開きながらも、向こうの亜神達の情報を収集して決戦に挑む準備を進めるのであった。


 ────そしてお互いに準備を進めて三日後。

 俺達はついに決戦の地、現在も他世界からの侵略者との戦いが続いていると【ログ】で確認できている魔大陸へと、足を運ぶのであった。



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