進化する生物たち3


 ヒト族と、それにまつわるエルフ族、ドワーフ族、獣人族やその他大勢の種族の人間たちを作った。

 現在、進化した彼ら彼女らは原始的ながらも文明を作り、石と木でできた武器や防具を持ち穴倉で暮らしている。


 ここら辺はスキップせずとも見ていて楽しいので、今は彼らの生活を眺めながらニヤニヤしているところだ。


「しかし案外、ドラゴンは人間を襲うことがないんだな。てっきり見つけ次第食料にするのかと思ったが……」


 未だ文明が未発達で、大した戦闘力を持たない人間たちは龍や竜を異常に恐れているようだが、肝心の龍側からは特に襲い掛かるなどといった行動はない。

 ワイバーン等の下等過ぎて竜の枠組みから外れた生物はその限りではないみたいだが、不思議なこともあるものだ。


 確かに龍神に対し、【神託】では人を絶滅させるなとは伝えたが、まさかそれをゲームのキャラクターが理解しているとも思えない。

 何か原因があるのだろうか。

 もしかしたらそういう仕様なのかもしれない。


 まあ人間を作った端から駆逐されては敵わないので、都合がいいといえば都合がいい。

 とはいえ、人間同士の争いや狩りでの事故には基本的に龍の干渉は無いので、自分たち側からは滅ぼすことはありませんよ、というだけなのかもしれない。


 あくまで人間に対して中立の存在のようだ。


 そしていよいよ異世界っぽくなってきたこの惑星だが、現在俺はとある生物に対し頭を悩ませている。

 その生物とは、クジラだ。

 それもただのクジラではない、空を飛ぶ、もとい空を泳ぐ巨大クジラである。


 このクジラがまた厄介で、龍や竜ほどに強くはないにしても、とにかく大食いで見境がない。

 せっかく生み出した人間は問答無用で食料にするわ、食った端からまた次の人間を食うわで大忙しだ。


 個体数が少ないためいまのところは被害がそれほどでもないが、この原始時代の人間には対抗手段がなく一方的にいいようにやられている。

 体が大きく目立つので、たまに通りかかった古代竜のエサになったりしてるみたいだが、それでもこのまま放置はしておけない。


 さて、どうしたものか……。


「人間にはまだ最終進化形がいないから【神託】を行えないし、そもそも【神託】したからといってゲームキャラがどうこうすることも無いだろう。これただのエモーションを楽しむだけの機能だし……」


 途方に暮れて悩む俺は、【生命進化】の一覧からより強い人間を生み出せないか模索する。

 人間を生み出してからそれなりに時間が経っているので、どこかの種族に上位種が生まれても良い気がするんだよな……。


 そうして進化先の一覧を隈なく探すが、結局目ぼしいものは見つからなかった。

 実に無念だ。


 気分転換にふと元の惑星画面に戻ると、そこでは珍しいことにクジラに対抗しようとする人間達の集団を見かけた。

 えーっと、これはエルフと、ヒトだな。

 二つの種族が協力して巨大クジラを打倒しようと、伏兵や罠を使って事に当たっているらしい。


 ある者はこの時代の最新兵器である弓を、ある者は長い間作り続けたであろう穴倉という盾を、そしてまたある者は槍を手に戦いを挑む。


「いや、無茶するなよ。お前らじゃまだ勝てないって」


 そう思うが、そんなことが彼らに伝わるハズもない。

 だってそういうゲームだもの。


 だが当然無茶をすれば犠牲者は増える。

 次第に人間勢の戦線は崩壊していき、クジラに飲み込まれていった。

 まあまあ良い戦いだったが、さすがにここまでか。


 もう人間側は食われるか重傷を負った者が殆どで、比較的軽傷な者も数名しかいない。

 ゲームセットだろう。


 ああ、最後の抵抗とばかりにエルフの女性を守ったヒト族の男性が、勇猛果敢に突進していってるよ。

 見てられないな……。


 するとそんな時、ゲーム画面にメッセージが現れた。


【イベント発生! エルフ族『ララ・サーティラ』とヒト族『ダーマ・ラルカヤ』が、人間種として初めて神に奇跡を願いました! マナを与えますか?】


 うぉ!?

 なんだなんだ!

 急にイベントが発生した!

 というか既に言語を伝え合う文化があったのか、すごいな人間!


 そしてもちろん、答えはイエスだ。

 マナだろうがなんだろうが持っていくといい。

 いままでの経験からして、マナを与えた生物は例外なく強くなった。


 もしかしたらこれが、起死回生の一手になるかもしれない。


 俺がGOサインを出しマナを与えると、かつての龍神のような光が二人包み輝き出す。

 演出凝ってるなー、まるで主人公の覚醒だ。


【マナの影響により、エルフ族『ララ・サーティラ』がハイ・エルフ族へと進化しました! マナの影響により、ヒト族『ダーマ・ラルカヤ』がヒト族・英雄へと進化しました!】


 おお、進化した。

 見た目にはあまり変化はないが、名称が変わったということはそれなりに強くなったのだろう。

 あまりの出来事に巨大クジラも怯えている。


 まあそれもそうか、今までただ食べる側として生きていたクジラからしてみれば、こんな現象は経験にないだろう。

 なんといっても、神の奇跡だからな。


 そして進化したハイ・エルフ族のララは何を思ったのか、突然手をクジラへと向けて不思議な構えを見せた。

 そして次の瞬間──。


「うお!? これは魔法か!? すげぇえええ!」


 ララはその突き出した手から風の刃を繰り出し、巨大クジラに大きな切り傷を与えた。

 ただでさえ怯えていたクジラはすでに混乱の極みに陥り、人間を食うこともやめて暴れ出す。


 そしてララの牽制攻撃により、大きな援護を受けた英雄ダーマはトドメとばかりに凄まじい身体能力を駆使してクジラの脳天に槍を突き刺した。

 ただの槍の攻撃なのに、なぜかクジラの頭が爆発する。


 これも魔法だろうか?


 しかし魔法だろうがなんだろうが、とにかく頭を失ってしまえば生物は生きていられない。

 直前まで暴れていたクジラは完全に沈黙し、辺りでは生き残った人間たちが騒ぎ出した。


 完全にお祭りムードだ。


「うぉぉお……、まるでアニメを見ているみたいだな。本当に勝っちまいやがった」


 こうしてこの惑星初の強化人間はクジラとの戦いに勝利し、新たなる一歩を歴史に刻んだのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る